第9話 変わらない村、少しの前進

「お客さん、河下村ということは、静養かい?」

「ええ、まあ」

「あそこは、何もないけど、静かだからね」

運転手さんは、話しかけてくる。


これも、昔と変わっていない。


ド田舎だが、気さくな方が多い。

昔から僕は、内向的だったが、拍車がかかってる。


悪く言う人もいるが、怒りすら感じなくなった。

やばいかも、知れない・・・


2時間ほどして、目的の河下村に着いた。

「運転手さん、ここで止めて下さい」

タクシー代を渡す。

そういえば、1万円を超えれば、割引になるんだな・・・

忘れてた・・・


さてと、里美はいるかな?


僕は、祖父母の住んでいた家に向かって、歩きだした。

歩きだしたはいいが・・・


全く、変わっていなかった。

昔のままだった。


小学生の頃は、多少は平気だったが、今は、歩くのが辛い。

もしかして、体力まで退化しているのか・・・


「基くーん」

僕を呼ぶ声がする。

「里美?」

「遅かったね。待ちくたびれたよ」

「無理いわないでください」

文句があるなら、政府か交通会社に言ってくれ。


「さあ、行こう。これから、私と君がすむ、祖父母の家へ」

「うん・・・って、2人で暮らすの?」

「うん」

「なぜ?」

「聞いてない?お義父さんから」

「確か、カウンセラーがいて、それが里美さんだと・・・」

「うん」

両親に携帯で訊こうとしたが、僕は持っていない。

それに、明らかに圏外だ・・・


「でも、よく知ってるね。僕の祖父母の家」

「未来の君が、連れてきてくれたんだよ」

「で、未来でのこの村は?」

「全く変わってない」

即答ですか・・・ていうか、「未来は知らない方がいい」とは、言わないのか・・・


「ところで、里美?」

「何?」

「学校、さぼらず通ったよ、ご褒美下さい」

「おぼえてた?」

「うん」

「じぁあ、チュッ」

えっ?


「ご褒美」

ありきたりだな・・・


「一歩前進だよ」

「えっ」

「前の君なら、こんなこと言わなかったもん」


このカウンセラー、頼りになるかもしれない・・・



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