第55話ゾラム領の内乱ー9

「キュウ・・・キュイ?」


ルティはニバルの街で迷っていた。


目的地の方角は分かる。赤色の塔で北だ。


しかし目的地の家と同じ家が並び建ち


ルティは屋根から見る目の前にある家が


目的の家か分からなかった。




パッと見ただけで10軒以上並んでる。


「キュウ…」


ルティは悩む。


器用にアニメで見るとんちで有名な


お坊さんの悩む姿をしている。


「キュイ!」


閃いた!とルティは器用に万歳する。


全部見て行けばいつかは分かると考えた。


一軒一軒窓から覗いていく。


覗いていくルティのは黒い影になる。


一瞬だが窓から見られてる感覚と黒い影に


気付いた住人はふと窓を見るが


影と視線が消えて気のせいだと考える。




「キュイ!キュイ!」


家を覗いていると一軒のある部屋にヴァイスの面影を


感じる女性を見つけて声をあげる。


「?なにかしら?」


部屋には1人の女性が椅子に座って


本を読んでいた。


ヴァイスの面影ある女性は声のする方に


窓へと顔を向ける。


女性は窓を見ると赤と黄色のマーブル模様の


子狐が窓に逆さまに張り付いている。


「あらあら!子狐のお客さんなんて初めてだわ」


女性は内側に開く両開きの窓を開けた。


「キュウ!」


開いた窓に驚き声を出して部屋に転がるルティ。


ルティを抱いて女性は笑い出迎えた。




「初めまして!子狐さん?あなたは…


あら?足に紙がついてるわね?手紙かしら?」


女性はルティの右前足から手紙を外し


ルティを机に置いて手紙を広げる。


「これは・・・あなたはヴァイスの友達なの!?」


「キュイ!」


ルティは質問に答えるように右前足を上げる。


「そうなのね…手紙を読むから待っててね?」


「キュイ」


ルティは返事して女性から机にある菓子を貰う。


女性は手紙を読み始めた。内容は・・・


『アイサ姉様へ


お元気ですか?ヴァイスです!


手紙の大きさに限りがあるので簡潔に書いてます。


僕は今ニバルの入口にいますが入れません。


内密に姉様から話を通して貰えないでしょうか?


手紙を配達した生き物はルティと言います。


僕の仲間の1人です。可愛いでしょう?


詳細は会い次第話しますのでお願いします。


隠密にルティを入れてるので隠して下さいね。


この手紙が届く事を祈ってます。』




「ルティというのね?入口にヴァイスがいるのね?」


「キュイ!」


「今からヴァイスを迎えに行くから


そうね・・・マフラーみたいに


首にいてくれるかしら?」


「キュウ!」


ルティは優しく女性の首に巻かれる。


「綺麗で触り心地の良い毛並みね!


それでは行きましょうか!


内密にだからよろしくね!」


「キュイ!」


ルティは返事して女性とニバルの入口に向かった。




「アイサ様?今からどちらに?」


メイドが家の扉を開けようとするアイサに気付いて


声を掛ける。


「あら!シーア!今から外の空気を吸いに行こうかと


思ってたのよ!ほら!いい天気でしょう?」


「そうでしたか!早めに終わらして下さいね?


領内での反乱が静まっても


危険なのは変わりませんので!


付いて行きましょうか?」


「シーア大丈夫よ!周りを見たら直ぐに帰るから!」


「そうですか…では行ってらっしゃいませ!アイサ様!」


シーアとの会話を終えてアイサは外に出る。


「アイサ様はあんな柄のマフラー持ってたかしら?」


シーアはマフラーに疑問感じながらも仕事に戻る。




「無事に外に出れたわね!


後は入口に向かうだけね!」


アイサのいる家からニバルの入口までは距離がある。


北の家から南の門まで行かなくてはならない。


距離は60km。人間が歩く速度は平均5km。


アイサはスカートとヒールをはいており、


歩きに時間が掛かる。


だが弟のヴァイスがいると知って急いで向かう。


スカートの裾を上げながら早足で。


馬車なら数分だが早足でも1時間は掛かる距離。




だがヴァイスの姉であるアイサは違う。


今では読書を嗜む淑女だが運動好きの女性である。


ヴァイスがトキを先生と呼ぶまでは


アイサがヴァイスの先生だった。


クリプス辺境伯の娘でありながら


警備隊隊長クルスよりも剣の技術は高く


体術も誰よりも優れていた。


祖父のヴァルカ=クリプスへ密かに教えを乞い


祖父の技術を受け継いでる。


この事は祖父とアイサしか知らない。


天才とは違い、努力家の秀才であった。


嫁いでからも鍛えた体は衰えていない。


密かに誰にも見つからずに鍛えていた。


その体はレスラーとは違い筋肉を見せない。


適度に引き締まってるプロポーションを持つ。


ふくよかと違う体に誰もが憧れる。




そんなアイサはヒールを脱ぎ素足で走り出す。


ヒールを持ち裾を上げて駆ける。


「おい!あれアイサ様じゃないか?」


「何を言ってるんだ!アイサ様と雰囲気違うぜ」


「そ…そうだよな…柔らかな雰囲気のアイサ様が


スカートを持ち素足で走る訳無いもんな…」


「正反対の雰囲気じゃないか!冒険者かな?」


住人も気づかなかった。


普段の柔らかな雰囲気からは想像出来ない


速い走りを見せていたから。


「・・・」


ルティは驚いてた。会った時の姿と変化してたから。


しかし速度は自分よりも遅いので


締め付けない様に首に巻き付いていた。


「ルティちゃん凄いわね?


流石ヴァイスの仲間だからかしらね?」


アイサは何事もない様に呟く。


走ってるが息を切らしてはいない。


汗も流さずに音もたてずに颯爽と駆け抜けてる。


正門まで残り3km。


路地裏に隠れてヒールを履き直して向かう。




ニバルの入口から少し離れた場所に


ヴァイスとラグがいた。


「ルティは姉様に会えたかな?」


「ガアガア!」


「そうだよね!きっと会えたよね!


久しぶりに会うな!ラグは知らないから言うけど


先生…トキさんに会う前は姉様が僕の先生だったんだ!


勉強もだけど体術、剣術の先生だったんだよ?」


「ガアガ?」


「本当だよ?色々教えてくれてさ!


自慢の姉様だったんだ!


べラムでも有名だったんだよ?


僕が言うのもなんだけど


『天才のヴァイス、秀才のアイサ』ってね!


でもあの頃と僕変わったからね…特に髪が…」


「ガア…」


「ラグ?今は気にしてないから大丈夫だよ!


お陰で貴族と言われないしね!」


ヴァイスは自分の姉の事をラグに伝える。




「しかしニバルの入口見てるとおかしいよね?


厳戒態勢って言ってるのに通商は


普通に入ってるよ?」


「ガアガ?」


ラグは全ての腕を組み首を傾げる。


「おかしいよ!厳戒態勢なら通商も念入りに


検査してから商業ギルドと話を付けて


入るのにあの人達は一言、二言で通ってる…


ニバルは反乱軍の手が入ってる…


ルティに冒険者ギルド調べて貰って正解かもね…」


「ガア・・・」


ラグは高速で投げたルティを心配していた。


そしてヴァイスの考えにニバルへの不安を感じていた。




ラグが考えに浸ってると入口が騒がしくなる。


騒ぎに気付いて入口を見ると


門番と女性が言い争いしている。


女性の首には見覚えある柄が見えた。


「だから居ませんからお戻り下さい!」


「嘘言わないで白状しなさい!


居ると連絡受けてるんですから!」


「虚偽の報告です!騙されないで下さい!


居たら夫人に教えてますよ!」


「虚偽か真実か私が判断するわ!


だから会わせなさい!」


「・・・アイサ姉様?」


「ヴァイスなの?ほら弟が居たじゃない!


貴方の事を上司に報告させて頂きますね!」


「そんな・・・久しぶりに実家から帰って来て


ついさっき見張りを交代したばかりなのに…」


「なら貴方の前の見張りの怠慢ね!


前の見張り教えなさい!主人にも伝えますから!


貴方は許してあげるわ!被害者ですから!」


「ありがとうございます!!


娘に職を失ったと言わなくてすみます…


前の見張りは・・・私です!!」


「姉様!?危ない!」




見張りがアイサに剣を抜き上段から襲いかかる。


ヴァイスは咄嗟に声を出すが・・・




アイサは剣を左側の半身で避け右足で剣を踏む。


ヒールと地面の隙間に剣が嵌まり抜けない。


慌てる見張りに・・・


「貴方の冗談は途中から分かってたわ!


だってニバルで私は夫人と呼ばれて無いもの!


あ!上段と冗談を掛けたの分かった?」


アイサは笑顔で話してしゃがんで腰を捻り


体を上げながら右のアッパーを見張りの顎に喰らわした。


見事に喰らった見張りは剣を離して上に飛ぶ。


飛んだ見張りは顎を砕かれて地面に落ちて倒れた。




「ね?ラグ?姉様の実力分かったでしょ?


先生だった意味もね!」


「・・・」


ヴァイスは得意気にラグに伝えるが聞いてない。


見事なアッパーに口が開き顎が外れていた。


首に巻き付いているルティも目の前の動きに


驚いてアイサから落ちてしまった。




「スーサイドで暮らす魔物って驚くと顔に出るよね?


ラグもかな?仕方ないな…よいしょ…っと!


これで良し!ラグ?顎大丈夫?」


「ガ…ガアガア…」


ヴァイスはラグの顎を嵌めて確認する。


ラグは驚きながらも返事を返す。


ヴァイスはラグの確認を終えてアイサの元に向かう。




「あらあら?弱い見張りね?べラムより弱いのかしら?


ルティも落ちて大丈夫だった?」


「キュウ!」


アイサは落ちたルティを拾い抱き上げる。


「なら良かったわね!ヴァイスも久しぶりじゃない?


貴方!髪はどうしたの?綺麗な金髪だったのに…


父様から手紙で知ったけど何したのよ?」


「姉様久しぶりだね!髪は・・・


そんな事よりニバルに入っても良いかな?


ルティとラグと一緒にね!」


「入っても良いけど後でちゃんと教えなさいよ!


ルティはこの子よね?ラグは・・・


あの六本腕の熊かしら?登録してあるの?」


「ラグは臨時要員だからしてないね…


登録しないといけないかな?」


「なら私が保証として登録させてあげるわ!


私の保証なら問題は無いはずよ!後で戦わせてね!」


「変わってないね・・・アイサ姉様は…


話では読書を嗜む淑女になったと聞いていたけど?」


「その一面はニバルでの物よ!


基本的に変わってないわ!本性隠してるからね!」


「外で言う言葉ではないね…その言葉・・・」


ヴァイスはアイサと無事に合流しラグも仮登録して


ニバルの街に入っていった・・・

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