第10話スーサイドー10

・・・話を戻そう・・・


森での生活4ヶ月程の事。

俺は周囲の木を伐採し土地を拓いて

木材と魔法を使用して4つ目の橋を

築いていた。


この川は幅1㎞あり水深も同じ距離ある。

流れは激しく、

数種の肉食魚の住み処でもある。


森での生活2ヶ月頃に

川と向こう岸の調査に泳ごうとした時に

上流からどんぶらこ、どんぶらこと

川幅程の巨大な地竜が流れてきた。


泳いでいない。溺れている。


水を飲もうとして誤って落ちたのだろう…

地竜が必死にもがいているが

その波紋、音に気づいて

肉食魚の群れが地竜に襲いかかっていく。


目の前を流れる時には

地竜の体が1/4程まで食べられており

水も青から赤に染まっていた。


「・・・・・・」


流れる地竜を観察していると下流で

山から巨大な翼竜が飛んできて

水ごと地竜と肉食魚を呑み込んだ。


巨大な翼竜が去り地竜がいた場所は

水が断絶して滝の様になっている。


数分後には元の川に戻った。


安全確保しないとな・・・


水深を確認する為

長く接ぎ木した木材を橋脚として

川へ差し入れて次の木材を準備して

元に戻ったら差し入れた木材が消えていた。


不思議に思い、持っている木材を差して

確認すると肉食魚が川底の木を食べて

浮き上がり流れていく。


・・・雑食なんだな・・・


木材に大小様々な石を付着させ

魔法で硬質化、橋脚を25本設置し

橋脚の間の隔間を上流側で広く

下流を狭くして負荷を軽くさせて

肉食魚達を上流へ追い込み

下流へ流れない様に1つ目と2つ目の橋の

橋脚間に硬質化魔法と加工木材で網状にして

定住化させた。


・・・魔法と知恵が有れば何でも

出来る・・・

・・・誰にも否定はさせない・・・

・・・俺が出来たのだから・・・


2ヶ月掛けて作った橋全てを点検し

作りかけの橋の資材を持ち上げながら歩く。


ようやく4つ目が完成すると喜んでいた時に

急に尋常ではない鋭い怒気が蔓延し

察した周りの魔物が一斉に遠ざかる。


バザッバザッバザッバザッ


どこからか羽ばたく音が

徐々に大きくなり響く。


「グゥルラアァァァァァ!!!」




地面が揺れる程の咆哮を轟かせ

あいつが現れた。


川で溺れていた地竜を食べた翼竜だ。


巨大な四翼を羽ばたせ

銛のように4つの返しがある鋭い尻尾。


古代の翼持つ恐竜に似て足は2つ。


山ほどの全長で不思議な鱗を持つ。


川で溺れた獲物を肉食魚で弱らせて

同時に食べて水を飲む一石三鳥を狙う

狡い、いや賢い翼竜だ。



いつもの狩場で餌を待っても来ないので

観察をしてたらしい。


獲物なんて来る筈がない。

何故なら俺が肉食魚を移動させ

狩場に橋を作っていたからだ。

溺れて弱った獲物も橋で止められる。


「グルゥグルラァァァァ!!」


その光景を見た翼竜は獲物を取られたと

思ったのか橋を壊そうと更に上空へ飛び

加速を付けて異常な速度で突進する。


「やらせてたまるか!」


橋の上で咄嗟に大量の火や

風の魔法で対抗するも


巨大な山には響かない。


異常な速度での突進で

自然と強風の防壁が張られ

全てが消失していく。


あっという間に翼竜の嘴が目前に現れ

大きな山と衝突する。


両腕を前にクロスさせ魔法で防御するも

足下の作りかけの橋は耐えきれず

バラバラになり翼竜ごと俺も川へ沈む。


超高層ビル程の水柱が立ち上げ

俺は仰向けに川底の地面へ叩きつけられる。



バキバキッ、ボキボキッ、ドガァァァン!!

「グゥ!!ガハァアア!!」



クロスさせた両腕も耐えきれず

何本かの肋骨と共に骨が折れる。


足もほとんど力が入らず

口から血と空気が強制的に排出される。


気力でクロスさせた両腕の手の甲で

挟む様に嘴を捕らえて勢いを止めた。


翼竜の嘴が俺の顔まで1㎝。


このままでは山程巨大な翼竜の

質量で圧殺され

死は免れない…絶体絶命であるが


ピキッ ピキピキピキッ プツン…



「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ…フゥゥ…

よく…もぉ…やってぇ…くれたなぁ…

落とし前ぇ…つけてぇ…もらうぞぉ…

このぉ…トカゲがぁぁぁぁ!!!」


翼竜に向けて翼竜が発した怒気以上に

トキから鋭く濃密な殺気が放たれる。



放たれた殺気と咆哮は翼竜に

今まで味わった事の無い感覚を与える。


全身が一瞬震え、

目が目前の餌から離れない。


周囲の空気と体が凍った様に動かず、

心臓の鼓動が普段より早く大きく高鳴る。


いつもの餌より断然小さい餌。


食べる価値を見出せないぐらいに

無価値な存在から圧倒的な気配を感じ

何故か自分が動く事が出来ない。


自分でもわからない感覚に苛立つ。


コンマ数秒の思考中に目の前の餌が消え

気づいたら川底から上空へ飛ばされている。


体勢を整えようと飛ぼうとするが

ある筈の翼が無く川…ではなく森へ落下。


「グゥルガァァァァァァ!!!」

体に複数の巨木が刺さり、痛みで咆哮する。


「うるせぇよ…黙れや…」


声と気配のする方へ意識を向けると

餌が小さな姿で考えられない程の

10m以上の巨木を持って浮かんでいる。


巨木の先端を目の前で素早く鋭く削られ

削りカスが翼竜の目に入る。


反射的に目を瞑るとその隙に

翼竜の嘴へ鋭い巨木が突き刺さる。


刺さると同時に砂利混じりの水刃で

尻尾を根本から切断される。


「ンーーーーー!!!」

「まだ喋るか…もう黙れ!!」


鋭い巨木を2本持ち後頭部と

心臓当たりへ投げる。


刺さった後も暫くは暴れていたが

数分後絶命する。


「くそが!

どんだけ苦労したと思ってるんだよ!

あの世で橋に謝れ!!」


動かない翼竜に鬱憤を晴らし

地面へ降りて翼竜を回収する。


回収終えると意識が飛びそうになるが

踏ん張ってログハウスへ戻り

ドアを開けて入ると意識が途絶える。


1週間して目覚めた時には

高熱と大怪我で体が動かず魔法で

無理矢理ベッドへ入りまた意識が途絶える。


完全に復活して目覚めたのは1ヶ月後

ログハウスに回復機能が有る事に

この時気づいた。


目覚めた後に大量に狩りをして

食事を行い翼竜について図鑑で調べると

翼竜グランドラと判明した。


ーーーーーーーーーーーー


「・・・と言う事でグランドラ退治

大分前に終わっていたのだがどうする?」


当時の事を振り返りグランドラとの

戦いを話終えてログハウス内で

今後について話し合う。


「主殿…前にも言いましたが

無茶しましたなぁ…良く生きてますよ…

しかも討伐した理由が橋を

壊されてキレたなんて…

初見のボス魔物を満身創痍で倒して

良く五体満足でいますね…」


「キュゥ!キュゥ!」


「苦労して築いた橋を完成間近で壊されて

怒るなって言うのが無理な話だろ?」


「まぁ、そうなんですが…

とりあえずはこのまま生活していて

1ヶ月後の手紙を読んで森を出ると

今までの方向で良いんではないですか?」


「キュゥ!」


「ルティ殿も同じ意見ですよ!」


「んじゃ、今まで通りの生活をする事で

この話は終わりにしよう!

とりあえず昼まで自由時間って事で解散!」


「御意!」


「キュイ!」


トキが畑仕事でログハウスから出ると

フィルとルティは寄り合い話し合う。


「主殿は普段優しいが怒ると性格変わるから

怒らせない様にしようか、ルティ殿!」


「キュゥ!キュゥ!」


ログハウスの中で二匹は密かに頷きあい

それぞれ自由時間を楽しんだ。

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