第28話 「地下の家来達」

「ここはなんだ?」


カタンカタンと鉄が擦れる音が闇に覆われた無音の洞窟内に響き渡る。つい出た独り言さえもこの洞窟内では反響して耳に残り続けてしまう。


俺は今エレベーターに乗っている。


しかし、これはバベルタワーの各ブロックを行き来するためのものではなく、俺の家にあったエレベーターなのだ。


そう、先日ロイと鬼ごっこをした際に偶然発見した隠し部屋の奥にあった洞窟。その洞窟内に設置されていたわずかな鉄の骨組みと腰の高さほどしかないフェンスに囲われた箱型のエレベーター。俺はその中にいる。


エレベーターに乗り現在降下中である。


闇を照らす魔法の灯りが所々に設置されていたが、必要最低限の灯りしかなく洞窟内を見渡せるほどの光量がない。そのおかげでほぼ壁がないむき出しのエレベーターに乗っていても高所恐怖症の恩恵を受けなくて済んでいるのだが、


「ふむ これはもしかして地下にヒーロースーツとか隠してあるのか? だとしたらワクワクするな」


闇の恐怖心と地下に何が待ち受けているのだろうという好奇心の対決の結果、好奇心が勝ったので俺は今ここにいる。しかし、恐怖心がゼロという訳ではない。


しばらくすると、目が闇に慣れ始めてきていた。時折通過する松明の灯りが今では眩しく思ってしまうほどだ。


かなり、乗っているけどいつになったら着くんだ?


俺は少し飽きつつあったので、何気なくフェンスから顔を少し出し、下を覗いてみた。


「あれは...灯り?」


降下中のエレベーターの遥か下にはオレンジ色に発光している丸い塊が見える。


その正体が松明ではないのは明らかだった。しかしなんの灯りなのかまでは分からない。


そして、しばらく下を眺めながらエレベーターの降下に身を任せているとその灯りから熱が発せられていることに気づいた。


「熱いな... ん? これマグマかっ!?」


鉄のエレベーターであるので、今まで冷たかった骨組みやフェンスが徐々に暖かくなり、熱を帯び始めている。


おいおい 嘘だろ? 


....このままマグマにどぼん?


まさかな....


そんなことは考えたくない。家の地下に行こうとしたらマグマに落ちて死にましたじゃ異世界に来た主人公としてあまりに無残な死に方ではないか!


え...でも やばくない? このままじゃ どんどん接近してる...


エレベーターはマグマに速度を緩めることなく近づいていく。俺は焦って周りを探索してみたが、非常停止ボタンのようなものは一切無かった。暖かかった鉄の骨組みが今は触れないほど熱くなっている。


嘘やん...


クソっ どこか飛び降りれる場所はないかっ!?


「まもなくストン様のご到着であります」


ん?


突然、下の方、つまりマグマの方から重機が話しているのかと思えたほど低くそして騒音めいた声が聞こえてきた。


声のした方を見てみるとマグマの中から黒い球体が浮かび上がってきていた。


「なっ!? なんじゃ?」


よくみると黒い球体ではない。巨大な頭だ。


「頭? どういうことだ...」


マグマから巨大な頭が現れると続いて肩が姿を現す。


巨人...だ。


ズシンんという衝撃が乗っていたエレベーターに走る。何事かと顔を上げて確認すると、


エレベーターを下から巨人の手が支えていた。


「ストン様、お久しぶりです」


全身が震えそうになるほどの重低音が聞こえると、視界の下からマグマを被った巨大な顔が出てきた。


「お....久しぶりだな」


「では私の手にお乗りください」


「...手にか?」


「はい」


俺は恐る恐るエレベーターのフェンスの扉を開け、巨人が差し出してきた手のひらにジャンプをして乗り移った。


マグマから出てきた巨人の手など熱すぎて溶けてしまうのではないかと思ったが、予想に反して全く熱くなかった。むしろ冷たいと感じるほどだ。


このエレベーターは俺以外が乗ると、巨人が現れずにマグマの中に入ってしまうのかも知れない。警備のためかも知れないが、これにロイが乗っていたらと考えると背筋が凍る。


ユニティ様様だな。


ドスンドスンと音を立てながら俺を手に乗せた巨人が地下を歩き始めた。ようやく周りを見渡して気づいたが、ここは先ほどエレベーターに乗った所の洞窟よりもかなり広い空間が広がっていた。


洞窟というよりもここは地下に広がる別世界と言った方が適切かもしれない。


下を見ると、マグマの川が何本も毛細血管のように広がっていて川の近くで何やら作業をしているゴブリンがいた。鉄のような金属を打ちつけて作業をしていることから鍛治かその類だろう。


上を見ると、鍾乳洞のようなギザギザした棘が何本も下に向かって垂れ下がっている。あれが落ちたら槍のように生物を串刺しにしてしまいそうだ。


巨人の手に乗せたれたまま、この地下の世界を観察しているとマグマから少し離れた所にあった巨大なアリ塚のように盛り上がった建物へと連れて行かれた。


その建物の周りにマグマはなく、表面には至る所に人間が通れるサイズの穴があいている。


到着早々、巨人は手を地面まで下げ俺を降ろした。


え? ここ何?


巨人の顔を見上げたが、表情を崩すことなく仁王立ちしたままだ。


無口だな。


ちょっと様子を見に来ただけなのに...何ここ?


一見すると地獄のようだ。


俺の後ろには巨人が。前には謎の巨大なアリ塚のような建物が。


何をすれば良いのだろう?


アイコンのメモ欄にこの巨人が何者であるのか書いてないか確認したが、何も記載されていなかった。


なんでストンはメイドの名前しかメモってなかったんだよ!


家の地下にこの空間が広がっているということは無視はできない。まずはここにいる者達の名前と状況を知る必要があるな。


何か適当に言い訳をして自己紹介をしてもらわねば...。


言い訳だけは岸庄助の得意技だ。


俺は空気を吸い込んでからこの地下にいる者達に聞こえるような声で叫んだ。


「我はストン・ヴィラフィールド! この家の主人である。レッドサーカス団の今後を決めるにあたり、家にいる者達の確認に来た。我に忠誠を誓う者は名を名乗れええっ!!」


得意技と言ったことはキャンセルだ。


随分偉そうな口調になってしまったが、ストンなら良いだろうと思って偉ぶってみた。これでやばい連中が現れたらどうしよう...今はコサインもいないし。


すると、


「私は門番を任せられたタイタンのベロキファラオス! 御身に忠誠を誓います」


俺の後ろにいた巨人が片腕、片膝をつき、忠誠のポーズをとっていた。


ベロキファラオスが大声を出したらダメでしょ。耳が痛い。


よく見ると単なる人間を大きくした巨人かと思っていたが、違かった。表面は木の表皮のような色をしていてザラザラしている。改めてみると人間の形をした大木だな。


これしかいないの? この地下には...


そんな訳なかった。


ベロキファラオスの大声を聞きつけたのか、巨大なアリ塚からぞろぞろと様々な亜人たちが出てきたのだ。


そして、マグマ地帯からはゴブリンの群れが。


地面の裂け目からはモンスターが。


多いな...。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る