第27話 「民間報道機関『ルーモアテラー』」

「先輩、本当にこんなことしていいんですかね?」


「クリア 一々俺に言わせんな これも立派な仕事なんだ。王からのお墨付きなんだから文句言うなや」


「でも 正直俺はヴィラフィールドさん結構好きなんですよ」


「ああん? お前の趣味は聞いてねえぞ」


「趣味って...変な意味で捉えないでもらえます?」


「そうか? キャットマンのお前なら人間とそういう関係を持っても不思議じゃないと思うぞ」


「それはキャットマン蔑視ですね 気をつけて下さい。僕たちは記者なんですから」


「うるせえ 亜人なんぞに言われてたまるかっての 記者なんだからってまだ出来たてホヤホヤの仕事だから何してもいいだろ」


「あっ! またバカにした 本当に口悪いですね。 出来たてホヤホヤってことは僕たちがルールブックになるんですよ」


「ならそのルールブックは意味を成さないだろうな」


「変態みたいにニヤニヤ笑うの止めてくれません? スクープにしますよ? 変態記者現る!! って」


「やってみろ 誰もそんな記事読まん。興味あるのはヴィラフィールドの話だろうよ」


「それは否めないですね... ただ本当に来るんですかヴィラフィールドさんは?」


「あいつは38ブロックに家があるんだ。だからこのエレベーターエリアを張ってればいつかは出てくるだろうよ」


「それにしても出てきたヴィラフィールドさんの姿を捉えてもどうするんですか? 歩いてくるだけでしょう?」


「それはなこのマジックアイテム『モーメントキャプチャー』を使って奴の姿をこの中に収めるんだ。そしてこれを記事に現像する」


「それって軍が昔、索敵に使っていたという? カメラですよね?」


「魔王との戦いの時だろ その話。 古いな。 それにカメラって勇者が使ってた言葉だろ。真似すんなお前ごときが」


「え いいじゃないですか 編集長なんて名前がナオタですよ。思いっきり勇者様の名前からインスパイアされてますからね」


「ハハハっ!! 笑わせんな 腹痛え」


「これはスクープですっ! 早く編集長のところに持っていかないと」


「お前も笑ってたよな? 『モーメントキャプチャー』は起動中だ。 証拠は残ってるぞ」


「うわっ! ズルっ 嫌な先輩ですね」


「お前は嫌な後輩だ」


「先輩って言ってもまだ記者歴僕と変わらないでしょ なんで先輩面してるんすか?」


「それは俺の方が入社したの早かったし、俺の方が前にやっていた仕事の数多いし。それにお前の方が年下だし」


「子供みたいですね... 歳は下っすけどキャットマンは人間より寿命が短いんで大人になるのも早いんすよ。だから相対的に変わりませんよ 先輩の理論だとエルフが一番偉くなりますがそれでもいいんですか? 亜人嫌いのジョッポスや」


「それは...ないな。まあいい黙れ」


「年下理論はどうしますか?」


「記憶にございません」


「うわ あんた貴族かよ」


「ふん 言っておけ」


「あっ! 先輩 あれってヴィラフィールドさんじゃないですか?」


「ん? おっ! そうだ でかしたぞクリア。お前の猫耳が役に立ったな 馬車に先回りだ」


今日発足されたばかりの民間報道機関『ルーモアテラー』。


その記者に抜擢されたのが、人間であるジョッポス・マイヤーとキャットマンのクリアだった。


ジョッポスとクリアはストンの邸宅がある38ブロックのエレベーターエリアでストンが現われるのを待っていたのだ。


スクープを撮るために。


彼らもすぐにスクープなど撮れると思っていない。なぜなら彼らは記者になったばかりであり、スクープ自体もそう簡単に転がってるものではないからだ。

インタビューと写真が撮れればそれで良かったのだ。


ジョッポスとクリアはストンが邸宅までに使う馬車の前で待ち伏せし、ストンに接触する作戦に出たのだが、


「そこの者達、すまないがどいてくれ。その馬車は我々が所有する物だ」


ストンを囲んでいた護衛の者達に摘み出されてしまった。


「そう言わんでくれなされ 俺たちはストンさんに会いにきたんだ これは仕事だ」


「仕事だと? 予約はとってあるのか? スケジュールにお前達のような者と会う予定はないぞ」


「予約などない 何故なら我々は芸能人を監視する民間報道組織『ルーモアテラー』だからな そんなものはないぞ」


「ふん だからなんだ 無礼が許されるのか?」


「王の命令により発足された組織だ。文句は言わせねえ」


「だとしても、邪魔になるような事はしてはいけないはずだ お前らの仕事は勝手にやっていろ」


「最初からそのつもりだ だがいいのか? 俺たちをのけ者にしても?」


「邪魔しかしないのなら仕方ない」


護衛達の壁がジョッポスとクリアに迫り、徐々に後退させられる。相手からは当たってこないのだが、迫る壁と化した護衛達にさすがに為す術もない。


「クリア。プランBだ」


「了解っす」


小声で何やら耳打ちしたジョッポスはクリアを馬車から下がらせ、一人で護衛達の相手をすることにした。


「良いのか?一人で俺たちに対応すると?」


「ああ そうだ」


「面白い」


ジョッポスが護衛と揉めていると、目的だったストンは既に馬車の客車の中に入ってしまっていた。


「残念だな 俺たちもこれ以上相手はできない さらばだ」


「おう 出来損ない」


主人を乗せた馬車が動き出し、ジョッポスの前からどんどん離れていった。


しかし、


「クリア。どうだ?」


遠くまで一時退散させていたクリアがジョッポスの元まで戻るとジョッポスの顔には余裕の表情が広がっていた。


「こんな感じに撮れましたよ」


「おう これはいいスクープになりそうじゃねえか」


「え? これがですか? ヴィラフィールドさんに接触できていないうえに先輩が護衛に怯えている感じになってますけど」


「怯えてねえよ! まあこれで成功だ 『ヴィラフィールド!護衛を使ってファンを無視!!』とかできるだろ」


「せこいっすね先輩」


「俺たちもこれで飯を食うんだぞ? 判ってんのか?」


「うっす」


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