第26話 「スタッフ」
「アークティックさんや。どうでしたかな先ほどの会議は...?」
ストンが去った後の会議室ではスタッフ達が近くの者達と終わったばかりの会議の話で持ちきりだった。
司会をしていたアークティックの近くにいた運営スタッフのジャナスも早く誰かと話をしたかったようだ。
ジャナス・ヨルド。彼はここでは珍しい人間の運営スタッフだ。一枚の長い緑の布を巻いたような服を着ており、人間の年齢としては年配にあたる老人だ。亜人は人間よりも寿命が長い者が多く、特にエルフの場合は桁違い。100歳は余裕で未熟者の部類に入るらしい。ジャナスが喋りかけたアークティックもスノービックオリトゥという猿人種族の亜人であり、年齢はジャナスよりも上だ。正確な年齢は誰も知らないのだが...
見た目は一番の年長者に見えるジャナスもここでは関係ない。エルフには新人扱いされる事すらあるのだから。
「ああ ジャナスさん 85名ものスタッフが一斉に議論を始めたので、当初はもう収拾つかなくなると焦ったのですが...流石はストン様。物の見事に皆を纏め上げ、さらには今後の方針までお決めなさった。私にはできませんよ...」
「アークティックさんの司会進行が無ければ話し合いすらできなかったでしょう。ストン様も感謝していると思われますぞ? しかし...同じ人間としてストン様には毎度驚かされます...儂も見習わなければ」
「ストン様は人間なのですか? 私はそう思っておりませんが...いつもアイマスクをつけている人間など見た事ないですし」
「アイマスクは関係ないでしょう。儂はストン様は今までずっと人間だと思っておりましたよ。尻尾や猫耳など生えておらぬし...」
「人狼やマルチセンスも見た目は人間と同じでしょう」
「なるほど...ではストン様は人狼かマルチセンスなのですかね...」
「私の種族ではないと思われますぞ」
アークティックとジャナスの話に入ってきたのは運営スタッフのドルケンだった。二人に会釈をし、ドルケンも加わった。彼も誰かと会議について共有したかったのだろうか。
「ドルケンさん... ではストン様は人狼と?」
「どうでしょうかね...見た目が人間そっくりな亜人種は意外といますから...人狼とは特定しがたいですね。ただストン様の邸宅にいるメイド長は人狼でしたね」
「やはり、人間なんじゃないですかね? この人間が多く住むバベルタワーであれだけの地位と名誉を獲得したのですから。人間の方が納得がいけるというものですよ」
「まあ こればかりは本人に聞いてみないとわかりませんよ。今、ジャナスさんとも話そうとしていたのですが...先ほどストン様がおしゃっていた市場調査の件どう思われますか?ドルケンさん」
「ストン様が如何にレッドサーカス団について普段からお考えになっていたのか、これで私も理解できた気がしましたよ。普段からアイマスクを付けておられるので表情が読み取れなかったのですが... 本当に奥が深い方だ。あの案は観客と我々レッドサーカス団の事を第一に考えた末のものだと感じました。市場調査という言葉は初耳でしたが、確かにあれはお客様相手に商売をする仕事には必要な事のように思えます。今までなんでやってこなかったのかと思いましたよ。到底私には思いつきもしませんでしたがね」
「儂も当初から新しい事をやるには賛成じゃたんだが...中々具体案を出せんかった。じゃが、両方の案を飲み込んだ良案は見事ですな」
「あのままストン様が何も言わなければ、今後もレッドサーカス団は何の対処もしない方向へ向かっていましたからね。司会をしながらも焦りました」
「これから我々はストン様の仰られたように市場調査をする人員を選抜せねばなりませんな。運営側で進めてもよろしいですか? アークティックさん」
「よろしくお願いします 全スタッフについては運営の方が把握していると思われますので」
「了解しました」
小さな会議で三人の意見が決まった頃、今や大学生の授業中のような私語まみれの部屋になった会議室の扉を開け、中に入ってきた者がいた。
「おや? あれは運営のフェルフェーじゃないか? どうしたんだ」
ドルケンが不思議そうに会議室に入ってきたフェルフェーを見た。彼女はドルケンやジャナスと同じ運営スタッフの者で、リザードマンである。
そのフェルフェーがドルケンを見つけると真っ先にドルケンの元まで向かってきた。他のスタッフ達も何事かと横目で見守っている。
「どうしたフェルフェー。もう会議は終わったぞ」
「マジで? ストン様もう帰っちゃった? コサインさんもいないの?」
「おう ついさっきストン様は帰ったぞ コサインさんも護衛だから同じ頃に」
「あーー そっか 今日中に伝えておきたかったんだけど... 伝令をお願いすっか」
「どうしたんだ? 急に」
「....まあ先に皆んなには伝えておいてもいいかな?」
「え? 聞かれても内容知らないから自分で決めてくれる?」
「おーけー。うん。大丈夫でしょう! じゃあ皆んなー話を聞いてもらえますか?」
「なんか不安だ...」
フェルフェーの呼びかけに会議室にいたスタッフ全員が顔を向けた。
「えっと。ついさっき何ですが.... 前にもジムススさんから聞いた通りパフォーマーの方々は芸能人という枠組みになりました。そして、民間の報道部門、『ルーモアテラー』が発足されたので芸能人の皆さんは私生活で無茶をしないようにしてください。詳しくはまだわかりませんが、『ルーモアテラー』は無断で芸能人の私生活を監視するようなのでスキャンダルがあるとすぐにバベルタワーの住民にバレてしまうようなのでご注意を! とのことです。はい! 終わり」
「おいおいどうゆうことだ! 監視って!」
「ふざけんな 詳細は?」
この話を聞いてパフォーマー達は特に黙っていられなかった。それもそのはず、今日発足されたという得体の知らない組織に自分の私生活を覗かれるのだ。許される訳がない。
その私生活を住民にバラされレッドサーカス団に迷惑をかける可能性があるとしたら...考えただけでも寒気がするほどだ。
「私はバベルタワーの政府の発表の速報をしたまでです。詳しくは政府にお尋ねを。だから私はストン様に最初にご相談をしたかったのですが?」
「それはフェルフェーの自己判断だろ?」
「ドルケン。言っていい事と悪いことがありますよ」
「これは言っていい事だ」
『ルーモアテラー』。芸能人の天敵となったこの組織は間違いなく嫌な予感しかしない...。
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