第24話 「宣戦布告です!」

劇団スタッフの案内の元、俺たちレッドサーカス団の面々は舞台裏を通され、劇団スタッフが使っている楽屋へと向かった。


途中、通りすがる劇団員達に握手を求められたりして注目の的となってしまったが、なんとか辿り着いた。


ライバルになるはずのレッドサーカス団が舞台裏にいるというのにそのような態度でいいのだろうか? こちらとしては嬉しいが、劇団長はどう思っているのか気になるところだ。


楽屋へ入ると二人の男が待っていた。不健康そうな顔をした男と昔の頑固親父の面影がある男だ。


「これはこれはレッドサーカス団の皆様、わざわざ楽屋までおいで頂きありがとうございます! 私はこの劇団を管理しておりますメラ・クーガと申します。そして」


「私は劇団長のアウレリアン・フィリップスです。どうぞお見知り置きを」


メラという奴は見た目の割に低姿勢で親しみが感じられる。だが、アウレリアンの方はどうもいけ好かない。仏頂面の顔は無表情でも怒っているように見える。まあライバルが来たらむしろアウレリアンの対応の方が自然かもしれないが。


俺もライバルとしてここで舐められるわけにもいかない。いつも以上に力を込め、自分は強者であるというイメージを抱き、体からオーラを発するように自己紹介をする。


「私はレッドサーカス団、団長、ストン・ヴィラフィールド。そして、後ろにいるのが司会のアークティック、パフォーマーのウィトリック、スタッフのヴィンセント。後の二人は...俺の付き人です」


「ご紹介ありがとうございます。立ち話もなんなのでどうぞソファにお座りください」


メラの勧めを受け、コサインとサークル以外の面々はメラ、アウレリアンの正面のソファに腰を掛けた。勿論、自己紹介の時にこちらの情報を包み隠さず言う気もないので、技術担当のヴィンセントはスタッフに、護衛のコサインとサークルは付き人ということにした。


間違ってはいないしな。


「先ほどの舞台を勝手ながら見させて貰いましたが、実に素晴らしかった。観客の反応も納得ですよ」


「本当ですか!? ありがとうございますっ! ヴィラフィールドさんの口からそのようなことを言って貰えるとは嬉しい限りですよ」


興奮気味のメラに対し、アウレリアンは相変わらず無口だ。そっちから呼んでおいてよくその態度でいられるな。緊張しているのか? 


「いえいえ。本当ですよ。それより劇団のスタッフの方からお二人が我々に会いたいと言っていたのですが...どういった用件で?」


「ご挨拶をしたく失礼ながらお声を掛けさせて頂きました。本来なら先にこちらから出向かねばならなかったのですが、何せ初公演でバタバタしておりまして...失礼致しました」


「こちらも声を掛けずに勝手に舞台を観に来たものですから、何も言えないですよ 我々も挨拶を出来て嬉しいです」


「それは良かった...娯楽というフィールドを築き上げたレッドサーカス団さんには感謝しかありません。こうして我々ができるのもレッドサーカス団さんのお陰であります。我々は新参者ですが、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。」


「こちらこそ、一緒にこの娯楽を盛り上げていきましょう! 観客が我々にとっての相手ですから」


俺は立ち上がり、メラに握手を求めた。この握手は自分からだ。先に手を差しのべた方が後々面倒事に巻き込まれにくい。


慌ててメラも立ち上がり、俺と固い握手を交わした。


レッドサーカス団、マインドセッションの初めての接触としては良好である。


すると、今まで無口を貫いていたアウレリアンが座ったまま口を開いた。


「ヴィラフィールドさん 娯楽解放令が施行されてから我々はライバル関係となりました。故に我々はレッドサーカス団の観客も取り込むつもりです。今まで通りの独占市場では無くなりましたがどう思われます?...先に店じまいでもしますか?」


「おい!アウレリアン!口を慎め!!」


「メラ 怖気付くな! これは戦争だ 暴力ではない観客取りのエンターテイメントバトルなんだよ」


何を言うかと思えば、いきなり宣戦布告をしやがった! このアウレリアンとかいう劇団長は。せっかく管理人と融和モードになっていたというのに。


ならこちらも同じだ。


「アウレリアン?とか言ったかな? 君の言う通りだ。独占ではなくなった。だが、これは観客にとってはいい話だと俺は思うぞ? 何せ娯楽の選択肢が広がったのだからな。 だが、マインドセッションがその気ならこちらも楽しもうではないか。 この戦争をな。」


「ふんっ! さすがは娯楽を独占していただけはあるな団長。観客という生き物は飽きやすいんだ。古いレッドサーカス団が無くなるのも時間の問題だ」


「貴様、無礼にも程が有るぞ!新参者!」


アウレリアンの発言に業を煮やしたアークティックが話に割り込んできた。やはりアークティックは頼り甲斐がある。


「すみません こいつはちょっとネジが何本か外れておりまして...本当に申し訳ございませんっ!」


アークティックの怒鳴り声に怯えたメラが謝罪してきた。


ああーー。楽しい部屋と書いて楽屋なんだが...。


「アークティック。良い。ライバルなのだ。一応な ではここらで我々は退出させて頂こう。このまま呑気にしているとマインドセッション殿に観客を取られてしまうそうなのでな! では失礼する。」


「また会おう団長 今度はオーディションでな」


「おう レッドサーカス団のオーディションでかな?....さらばだ」


俺たちは楽屋から後ろを振り向かずに退出した。後ろではメラがアウレリアンと怒鳴り合いの喧嘩をしていたが...。


楽屋での騒動を聞きつけたのか、劇団員達が身を隠しながらそっと様子を観察している。


お前達の劇団長は本当に嫌な奴だ。これくらいが丁度良いのかもな。


騒がしい劇場を抜けてもアークティックのイライラは止まらないようで、


「ストン様、あいつらなんか無視です無視。戦うどころか自滅しますよ。自分から呼んでおいてあんな事を言ってくる野郎が劇団長を務めていたらなおさらです。たった一度、観客の反応が良かっただけなのに調子に乗んなって言ってやりたいです。それに-------」

「アークティック。落ち着け。まだ始まったばかりだ。そのままでは持たんぞ」


「少し取り乱しました....すみません」


「帰ったら会議だ。全団員を呼んでおけ コサイン」


「御意!」


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