第23話 「『勇者の羽』」
「勇者様、残るは魔王軍幹部の者達だけとなりました!あともう一踏ん張りです!」
「ああ そのようだ。皆んなここまでよく戦ってくれた!」
「全ては勇者様のお陰です」
「世辞が上手いな よし、それではいざ魔王の城へ乗り込むぞ!」
「「「「おおお!!!」」」」
『勇者とそのお供である魔法使い達はついに魔王城に乗り込んだのです。...場所は変わり、ここは魔王城の空気ダクト。彼らはこの空気ダクトから魔王城に侵入を試みました』
「勇者様...その言いにくんですが...ここ狭いですよ」
「しょうがないだろリクロク。ここしかバレずに侵入する方法はない」
「ええ...ですがね...バルバのデカイ尻が目の前にあって、いつ屁をこかれるか気が気じゃねえですわ!」
「おい!リクロク!俺がそんなことするわけねえ......あっ...すまん」
観客の笑い声が劇場に響き渡る。
「うおっ...臭え!! バルバてめえ! やりやがったな」
「謝っただろうが...」
「二人ともやめんか!ここは敵のど真ん中だぞ」
「「すいやせん」」
『空気ダクトでの思いもよらぬハプニングをなんとか回避した一行はついに魔王城の内部に潜入することができたのですが...』
舞台に煙が立ち込め始めた。そしていかにもな怪しいBGMが流れる。
「ハハハっ! よくぞここまで潜入してきたな勇者達よ!!」
「なんだこの声は!」
「皆、警戒するんだあ!!」
爆発音と共に舞台のセットだった魔王城の壁が壊れ、一人の女性が現れた。
亜人の姿をしている。
下半身は蛇の胴体、そして上半身は人間の女性の体だが、髪の毛一本一本が蛇の亜人。
そうメデューサだ。目を合わせると石になってしまうという伝説を持っている。これは岸庄助のいた世界の伝説だったが、さきほどからドラゴン、ゴブリンなどの生き物が登場していることからこの世界には存在する生き物なのだろう。
もちろん演じているのは本物のメデューサではない。ドラゴンの時は張りぼてに魔法をかけて演出していたが、メデューサは人間が特殊メイクをしている。
「魔王軍幹部、石化魔法のメデューサか!」
「勇者様!気をつけて下さいっ!あいつの目を見ると石になってしまいます。まともに戦える相手では...」
「俺に任せろ! お前達は後ろに下がっているんだあ!」
「まさか 倒せるというのですか! あのメデューサを」
「俺は魔王を倒しに来たのだ こんなところで倒される器ではない」
「「「「勇者様!!」」」」
ナオトだったら、おそらくメデューサの神話は聞いた事があるだろう。日本人でも一度は聞いた事がある。対策なんぞ分かりきっている。これは演劇だが実際の話を元にしている感じがするのでナオトの戦い振りも見てみるとするか。
「勇者よ 貴様の強力な魔法も私の結界の中にいては効かぬぞ」
「ふん! 魔法だけに頼るのが勇者ではない」
「ハハハっ! 面白い奴だ」
メデューサが行動を開始し、勇者に迫る。綺麗に磨かれた盾で防戦しかできない勇者の剣はメデューサに届かない。
「盾で身を守ることしかできんのか勇者とやらは それでは魔王様の足元にも及ばんぞ」
「言っておけ」
ジリジリと盾で目をガードしながら勇者はメデューサへと近づく。メデューサも尻尾を使って攻撃をするが盾を構えて歩み寄ってくる勇者に強力な一撃を与えることができない。
「いい加減戦わんか!」
「お前の負けだ」
「何!?」
勇者が持っていた盾をひっくり返し、鏡のように磨かれた盾にメデューサの顔が映った。そして、自分の顔と目があったメデューサは固まった。
硬直した瞬間、新しいBGMが流れ、メデューサの色が灰色に変色する。魔法の演出だろうか? よくできている。本当に石化したように見えるのだから。
「勇者様!!やりました あの魔王軍幹部のメデューサを倒しました」
「あのメデューサも最後は自分の能力で死ぬとは...情けない奴だぜ」
「ああ そうだな... ラン。俺に強化魔法をかけてくれ!」
「はい。わかりました。<
「ありがとう。それでは魔王城の最上階を目指すぞ!!」
「「「「おおお!!!」」」」
『こうして勇者一行は魔王軍幹部メデューサを見事倒し、最上階へと足を運んだのでした。...続く』
エンディングテーマ曲が流れ、舞台の垂れ幕が降りてくる。観客席側からは割れんばかりの拍手が鳴り止まない。
「マインドセッション!!!」
「勇者様!!!」
「全部見せろやーー」
「最高だぜ」
「魔王はどうなるんだあ!」
「もう一回見たいわ!」
初演の舞台を続き物にしたのは勇気がいるが、継続して観客を獲得するためにはいい策と言えよう。途中のアナウンスが絶妙だった。下手をすれば幼稚園のお遊戯会になってしまうリスクがあるが、話の流れを壊さず自然に入り込めた。魔法を使った演出により舞台なのにまるで一本の映画を見ているような臨場感もある。
正直言って面白い。
娯楽解放令が施行されてから僅か数日でこれほどまでに仕上げたマインドセッションはかなりの強者揃いのライバルになるだろう。
俺は観客席に座ったまま、今もなお止まらない拍手の嵐に包まれる舞台を眺めていた。
「ストン様、この『勇者の羽』どう思いますか?」
俺の反応を伺いたかったのか、アークティックが拍手の嵐の中尋ねてきた。
「...一観客として非常に楽しめたぞ」
「...そうでしたか」
「団長殿...舞台には照明となる『セベラルライト』やセットを瞬時に作り出す『インスタントウォール』などのマジックアイテムがかなりの数使われておりました。登場シーンなどを見ると、舞台の下に仕掛けがありそうですね」
アークティックの反応を見たヴィンセントが話の流れを変えるため、自分の分析した結果を伝えるが逆効果な気がする。
「相手はかなりの強者だ。認めよう。だが、落ち込むな。俺たちのパフォーマンスは彼らに左右されるようなものではない。観客のことを第一に考えることを忘れるな。俺らは観客を楽しませることを考えなければ」
「そうですね。団長殿。ライバルに気を取られ過ぎたかもしれません。観客のことを考えましょう」
「よし では帰ろう。コサイン!サークル! 準備は良いか?」
「「はっ! いつでも」」
俺たちが観客席が立ち上がり、劇場を出ようとするとここの劇団のスタッフらしき男に呼び止められた。
「レッドサーカス団の方々でいらっしゃいますよね?」
「すまないが、我々はこれから移動する。お引き取り頂こう」
コサインがすぐさま俺たちと劇団スタッフの間に入り、面倒事を排除しに行った。
「どうしても伝えたいことがありまして...我々マインドセッションの劇団長がレッドサーカス団の方々に是非ともお会いしたいと言っておりまして...」
これは楽屋挨拶にあたる仕来りに似ているな。面倒な儀式だが、同じ仕事をする身としては避けては通れないだろう。
「コサイン 良い 行こうではないか マインドセッションの劇団員の元に」
「御意」
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