第20話 「大人買い...そしてピンチ!?」

「あらこの赤いドレスなんかいいじゃない....ダーリンの色と合うわね....この白いのもスッキリしていていいわ....どうしましょう.....ねえダーリンどちらがいいと思います?」


ついに来た。岸庄助の人生では絶対に来るはずがなかった究極の選択が。これは俺の趣味をストレートに言うべきか、それとも敢えてその逆を言うべきか?


「んー どちらも似合うからな.... 両方とも買っちゃえば?」


なんとも中途半端な答えだ。


「いいんですか!? 二つとも買っちゃって?」


俺に確認を求めているが既にレイの口角は上がっている。あんな巨大宮殿に住んでいるのだから余裕で買えるだろ。冗談としてもこのショッピングセンターごとストンなら買えるのではないかと思ってしまう。俺自身が働いた金ではないので、躊躇しない訳ではないが奥さんへの買い物ならいいだろうよ。


今俺たちは64ブロックのショッピングセンターに来ている。この世界のショッピングセンターはどんなところなのか気になって来てみたが、見た目は前の世界とさほど変わらない気がする。


ただ、高さが段違いだったが。


一つの街、都市ほどの大きさのある各ブロックだが、ここ64ブロックはその全てがショッピングセンターなのだ。200階建てのショッピングセンターはショッピングシティと言った方が適切かもしれない。故にショッピングセンター内の移動は徒歩では回り切れないためあの『ムーブボックス』が至る所に通っている。幾百、幾千もの店が連なるショーウィンドウは遠目で見ると巨大なガラスコップにも見える。


その中でも衣服系の店の数は多い。これはどこの世界でも不変の事象なのか?


レイの目にとまった店もやはり衣服系の店で、高級ブランドの店らしい。店のロゴには『エスタ・ロウパ』と書かれていた。どんな意味か分からんが黒と金の刺繍で表現されていれば誰が見ても高そうだなと思うだろう。


「似合う物を買うのに俺に聞く必要はないよ」


「ではお言葉に甘えて」


レイは両手に高級そうなドレスを持ち、レジへと向かうとすぐにこの店のボーイ?みたいなスーツを着た店員が品物を預かり、レイをレジではなく革製のソファへと案内した。


おお これがVIPというやつか!


「当店にお越し頂き誠にありがとうございます。ミセス・ヴィラフィールド様。お買い上げのお品物はこちらの2点でよろしいでしょうか?」


髪を綺麗に整え、襟元を正し、埃一つない店員がレイと話している。VIPの買い物なんかテレビでしかみたことがなく、あまり現実味が無かったがいざ目の前にしても実感が湧かない。


「はい。お願いします」


「お買い上げありがとうございます。ではこちらの紙にサインを頂戴致します。今日中にミセス・ヴィラフィールド様のご自宅へお届けに参りますので。」


店員に言われたレイが大理石ぽいテーブルの上で渡された紙にスラスラとサインをしている。


その場で払うシステムではないのか!


少し金額に不安があった俺は護衛をしているコサインを呼び出し、払える額なのか聞いてみた。


「もちろんです。2点で2億3800万ダラクマなので痛い出費ではございません」


2億3800万ダラクマ!!?


この世界の物価を正確には把握していないが、遊園地でロイに買ったお菓子などの値段を考えると円とダラクマの価値はほぼ同じ。とすると。これはサラリーマンの一生を超える額ではないか! それを痛い出費ではないというのは流石ヴィラフィールドか。


購入を終えたレイがロイと一緒に待っていた俺の元へと戻ってきた。


「お待たせっ」


目に見えて上機嫌のご様子だ。僅かに背中に畳まれた翼が動いているのがその証拠。


「ありがとうダーリン!」


「欲しい品物があって良かったよレイ」


「パパ、ママ もう疲れたーー 帰ろーーー」


「そうね 待たせてごめんなさい。帰りましょうか」


今日は結構満喫した日だったな。


俺たち家族、そして護衛達を乗せた『ムーブボックス』はショッピングセンターの間を通り抜け、エレベーターエリアと向かった。


窓から見える外の光景は多種多様のお店のガラスに反射する光が工場地帯の灯火にも似て美しかった。


「パパーー あれ見て!」


ロイが指す方向を見た俺とレイは二人して絶句してしまった。


何故ならこのショッピングセンターで堂々と宣伝されていたどデカイ垂れ幕に


『新たな娯楽の幕開け!! 劇団マインドセッション 初公演乞うご期待!!』


と書かれていたからである。


「ついに来やがったか...それにしても早すぎるだろ!」


王により昨日、解放された娯楽。既に今日には新たな娯楽提供組織の宣伝がされていたのだ。つまり、我らレッドサーカス団のライバル。これはジムススから団員に報告されていたのでレイも知っていたのだろう。開いた口が塞がっていない。


ショッピングセンターで最高の一日が終わるはずだったのに。これでは意味がない!


「ダーリン! 明日団員達を集めます これは緊急事態ですっ」


「そうだな... コサイン! 偵察部隊を編成しろ! 俺も加わる」


「御意!!!」


安住の地を見つけたレッドサーカス団に早くもライバル出現である。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る