第19話 「ザ・異世界転生者」

「ダーリン 結構真剣に見てますね 勇者様は好きですか?」


「ああ...そうだな」


俺は勇者の像を見てからこの『勇者展』で展示されていた資料を片っ端から読んでいる。レイの言葉もまともに耳には入っていなかった。不満そうに見つめてくるが申し訳ない。こればかりは無理だ。


何故こんなにも俺が焦っているのか。


それは勇者の名前がナオト・イシダだったからである。


こんないかにも日本人みたいな名前をしている者など今のところ遭遇していない。こういう名前は割と存在するのか館長のベイに聞いてみたところ、


「いやいないですね.... だって勇者様は異世界から召喚された人ですし...ただ勇者様に憧れた者達の中でそのような名前を付けた人はかなりいた気がしましたが」


だった。


確実に勇者は日本人だ。しかも俺と違って意識がこっちの世界の人間に乗り移ったのではなく、体ごとのザ・異世界転生だ。


そして、レイに雑な態度をとってしまいながらもこの展示会の資料を一通り読み終えると、大まかだが勇者についてはわかった。ほとんどは館長の話の通りの内容だったが、


『昔、亜人の国と人間の国があったらしい。両者の均衡は敵対関係ながらもなんとか取れていた。しかし、ある日亜人の国の王と強力な魔法使いの間に赤子が誕生した。そして、その赤子は成長間も無くして母親を殺し、魔王と名乗ったそうだ。亜人やモンスターを配下にした魔王は人間を滅ぼすため、人間の国を破壊。人間の軍は亜人の軍に敗れ、最終防衛ライン。今のバベルタワーまで後退すると、最後の手段として当時はあまり知られていなかった召喚術者に勇者を召喚させ、魔王討伐をさせたそうだ』


歴史の流れは解明されているようだが、人物の名前や国の名称などの細かな情報が魔王討伐後に歴史から消えたそうだ。


この資料を読んでいるとこの勇者、ナオトの力は異常だ。


魔法使い達の協力もあったそうだが、何しろほぼ一人で魔王軍を相手にしているのだ。


チート野郎じゃん。


うん これは間違いなく異世界チート野郎だ。


実在するのかい!


魔剣『グラム』もおそらくノリでつけたのだろう。この世界では国宝異常の扱いをされていそうだが。


このナオトは召喚術者によって召喚されたとあったが、俺の場合はどうなんだろ?


心だけ召喚? それにしても俺が異世界から飛ばされてきたことを知っている者はナオトの時とは違い0人だ。もしかしたらどこかにいるのか?


これはこれから調べる必要がある課題だな。すぐに答えはでないだろう。なんとなくこの世界を堪能している俺とは違い、チートさんは多くの人々を救うため魔王軍と戦ったそうだ。


尊敬に値する人物だ。俺にはできない。


これ以上調べていると俺の心が持ちそうに無かったので、もう見終えて退屈しだしていたロイとレイと共に歴史館を後にした。


「どうでしたか?『勇者展』は」


歴史館を出るとレイが聞いてきた。あの時俺はよほど真剣に見てしまっていたのだろう。少し飽きられてしまったか?


「結構ためになる展示会だったよ レイはどうだった?」


「そうですね 私も行って良かったと思いますよ ただダーリンほどではありませんが...」


「おお あの時はその...すまんな...少し夢中になり過ぎた」


「いえいえ 大丈夫です 面白いものが見れましたから」


「お?」


楽しそうに微笑むレイにこれ以上聞く気はない。俺の血眼になって資料を読んでいた姿がレアだったのだろう。なにせストンならあんなことはしないだろうから。


「ねえ パパ! 次はどこに行く?」


「次?」


遊園地も行き、歴史館にも行ったのでもう辺りは夕暮れ時だった。かなりの時間を満喫したな。しかし、タワーの中だというのに外と同じように昼夜が存在するのが不思議だ。魔法とは便利なものである。


次か...。このまま帰りたいんだが...。


遊園地はロイ。歴史館では俺が中心的に満喫した気がする。レイがないかもしれないな...。


「そうだな...レイ...なんか行きたい所あるか? 買い物とか...」


自分にこの質問が来ると予想していなかったのか、レイはきょとんとした表情を浮かべていた。


「...そうですね じゃあ...64ブロックのショッピングセンターに行っても?」


「いいね 行こう!」


レイの表情が今日一の笑顔を見せた。岸庄助にしては上手く女性に対して気遣いできたと思うぞ!


「ええー ママとの買い物長くなる」


「ロイ 男はそのくらい待てないとな」


こうして俺たちは夕暮れ時にショッピングセンターに行くことになった。こうしてると普通の家族の日常である。


勇者様には感謝をせねばならないのかもな...。

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