第17話 「起きても大丈夫でした」
「....イ! ...パが起きちゃ...しょ! ...なさい!」
なんか揺れている気がするな....。
なんでだ....。
てか目覚まし鳴ったか?
...今何時だろう。あーー昨日のエラーチェックまだ終わらせてなかった。
だるいな。またあの課長の顔見たくねえ。
俺は起きたくないが起きなくてはならない瀬戸際戦争を制し、なんとか重い瞼を開く。
ん?
「パパおはよーーー!」
............あっ 夢じゃなかったのか?
「ダーリンおはようございます もうロイがベッドの上で跳ねちゃったからパパ起きちゃったじゃあないの!」
「いいじゃん 早く起きてくれたんだから どっか行こうよっ!」
「それはパパに聞いて」
「パパーー! 今日どっか行かない?」
「....仕事....?」
「ええーー! 今日お仕事あるの?」
「...平日だしな...」
「へいじつって何?」
「ロイが起こしちゃったからパパは寝ぼけてるのよ」
そうだった。俺は昨日の帰宅時になんか知らないが異世界に意識だけ乗り移ってしまったのだ。こんな体験どうせ夢だろうと思っていたが、目が覚めても依然として俺の前には輝かしい日常がいる。
ああ...最高だ...仕事に行かなくていいだなんて....。
さよなら前のモノクロの日常よ。今の俺には色彩豊かな日常があるのだ。
永遠に戻ってくるなと念を押しておこう。
確かにこの世界、俺からしたら変な事ばかりで頭がついていけていない。だが、俺はいま大富豪で成功者でサーカス団の団長で妻子持ちのスーパーリア充の生活を堪能できているのだ。甘んじて受け入れようではないか。
昨日のことを一通り整理し終えた俺は、小学生の時以来に感じる満たされた心の音を聞き、この世界を楽しむことにした。
「ロイ! どっか行きたい場所あるか?」
俺とレイとロイ、そしてその一行.... は53ブロックに遊びに行く事になった。俺たちが生活している巨大宮殿がある38ブロックは金持ちの家しかないらしく、特に行くところがないようだ。それに対し、53ブロックには遊園地や美術館、歴史館、冒険者ギルドなどの施設系が多くあるらしい。俺は美術館や遊園地も娯楽に入るのではないかと思ったが、どうやらそれらは子供と大人の教育面に当たるそうだ。なんと最高な国...タワーなのだろう!あの王様は好きではないが、全否定をすることはできない気がしてくる。
ちなみに俺たちは家族三人だけではなかった。
俺たちの他に護衛の者達がいる。まず、側近警護の者で6人。この時点で家族の人数よりも多いというのに、半径数十メートル圏内には10人もの護衛が身を隠して潜んでいるというのだ。
こんなんでは楽しくないだろうとも俺は思ったが、レイとロイはこの状況に慣れているというか当然と思っているようで、別に気にしていないようだ。
そのお陰で遊園地で遊んでいた俺たちに声を掛けてくるファン達は一切いなかった。全て未然に護衛の者達が防いでくれていたのだ。
有名人にもなれば普通なのだろうか? 確かに家族との時間に部外者に入ってきて欲しくはない気持ちも分かる。複雑だ...。
「ねえパパ! あのヒエヒエボーイ欲しい」
「ヒエヒエボーイ?」
俺の袖口を引っ張り、おねだりしてきたロイの視線を辿ると、かき氷に似た氷のお菓子を売っている屋台があった。
この世界のネーミングセンスを疑うが、ロイは可愛いので買ってあげよう。俺はポケットに忍ばせてあったこの世界のお金にあたるダラクマの金貨に手を伸ばす。
すると、
「旦那様、ヒエヒエボーイでよろしいですか?」
「おお...頼む」
「御意!」
俺の背後に現れた護衛の者に注文をすると、ものの数十秒でヒエヒエボーイがロイの元に運ばれてきた。
「ありがとう コサイン!」
「いえ 私ではなく旦那様にお願いします」
「でもありがとうね パパもありがとう!」
うーん 俺一人でも買い物はできるんだがなコサインよ。家族で屋台に並ぶからその分美味しさが倍増するというものなのに...味気ない。
コサインを含む護衛の者達は亜人だ。だが、彼らは亜人の姿を完璧に隠し、周りの一般客に溶け込んでいる。特徴など無かった。何故なら俺たち家族が場所を変えるごとに変装を変え、周りに溶け込んでしまうからだ。
まあそんな、護衛達の対応に慣れながら俺はレイとロイと共に遊園地を遊び回った。
魔法でできた氷の山を一気に下るアイスコースター。
ドラゴンの化石を組み立てた骨の間を通り抜けるドラゴンライド。
浮遊する石に飛び移りながら宝を目指すストーンレンジャー。
巨大ポヨンポヨンハウス。
エルフの森林探検。
ミニバベルタワーズエレベーター。
本物の肉食モンスター達の上を走るモンスターボックス。
岸庄助のいた世界の人間が必死になって模型を使って楽しませていた遊園地よりもリアルで臨場感のある楽しい体験を家族とすることができた。ロイもレイもかなり楽しんでいたようで、お揃いのスカーフを身に纏いながら笑っている。
最高だ。
こっちの方が娯楽の極みみたいな感じがするが、あくまでも教育機関という位置付けらしい。遊ぶことも教育なようだ。
ならレッドサーカス団は何故に教育機関に入らないのか疑問が残るが、このバベルタワーの住民には不思議に感じないらしい。これが異世界との違いってやつか?
「ダーリン そろそろ一周できたから歴史館の方へ行きませんか?」
俺もお揃いのスカーフ欲しいなあとか考えているとレイが次なる行き先の提案をしてきた。ほとんどこの遊園地を遊びつくした気がするが、今から歴史館などに行ってもロイは楽しいのか? 俺はこの世界のことを学べるからむしろ行きたのだが....
「ロイはどうなんだ?」
すると、この小さな男の子から驚きの返事が返ってきた。
「行きたい! 今日こそは全問正解するもんねっ!」
「あらあら ロイはあの歴史館の年表覚えすぎよ 私なんかまだ覚えられてないわ」
「じゃあ ママと勝負ですっ!」
「望むところだわ!」
遊園地の時と同じテンションでロイとレイは親子だと言うのに意気揚々と張り合っている。
カッコイイ親子だな。と思う。
ここの人たちにとって教育は苦ではないのかもしれない。遊園地と歴史館が同じ教育として割り当てられていることから単純に学びを楽しんでいるのだ。
このバベルタワーは謎だが、各ブロックは岸庄助がいた世界よりも発展段階は遅い。しかし、これほど学びにストレートにぶつかっていく住民達がいれば近い内に驚くほどのスピードで発展していくことだろう。こちらには便利な魔法もあることだしな。
「よし!じゃあ歴史館に行こう!コサイン 頼んだぞ」
「御意!」
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