第12話 「俺の巨大宮殿」
38ブロックに到着してから、俺の家...家かな?に着くまでかなりの時間がかかっていた。
正直、俺の家の門らしき場所までは38ブロックのエレベーターエリアからはさほど遠くは無かったのだが、
家の門から、玄関口までの敷地内の道のりが長かったのだ。
岸庄助の一人暮らしのアパートならば、門はないので....駅から徒歩で15分ほどだった。これでも最寄駅から家までの時間。俺としては優良物件である。短いしな。
ただストン・ヴィラフィールドの家の場合はまず、正門をくぐり、並木道を通り、噴水エリアを通過し、川を横切り、滝の間を抜け、草原を走ること1時間ちょい。やっとのことで門から玄関まで到着した。
これでは岸庄助の通勤時間よりも長い。
そして待っていた俺の家は家と呼べるものではなかった。
...宮殿。いや巨大宮殿だった。
俺の全身を包んでいる赤色ではなく、白を基調とした巨大宮殿で、見た目はここまでの道中に見てきたバッキンガム宮殿ぽい家々に似ていた。ただその大きさが見てきた家々とは大違いなのだ。10倍はあるかもしれない。そして巨大宮殿の中央部分にはドーム型の施設が立っており、その異質さが際立っている。
俺はジムススと共に馬車から降り、横方向に横断するようにまっすぐ線の入った真っ白な壁まで向かった。
なんだ?このデカイ壁は?玄関ではないのか?
すると、ゴゴゴっという音と共に壁の線が太くなり、隙間が現れ始めた。
そう、この壁こそが玄関だったのである。上下に分裂した壁が収納されると宮殿の内部が見えてきた。
俺はまるでSF映画のようなどデカイ自動開閉式の扉に感動しながら、中へと入った。
「お帰りなさいませ ご主人様。そしてジムスス様」
俺が入ると、玄関で待ち構えていた100人近くいるメイド集団の先頭にいた白髪の執事が挨拶をすると、それに続いて後ろに控えていたメイド集団達も声を合わせた。
おお!! なんじゃこりゃああ!!
先頭の執事は綺麗で完璧なお辞儀をすると俺達に近寄ってきた。
正直、執事ぽいと思っていたスタイリストのジムススの遥か上をいくプロ中のプロ執事だった。
「ストン様、ご帰宅早々失礼致します。レイ様からの伝言で、ロイ様とご一緒にご帰宅するようです。また、ご帰宅までは少々時間がかかりそうとのことです。」
「おお そうか 伝言ありがとうな...」
「いえ、これは私の大事な仕事ですから感謝など必要ありません」
「おおお...」
執事だねーーー。
さあ感動も束の間だが、どうするか。ここで今、俺には問題が発生している。それは側から見たら小さな問題かもしれないが、俺にとっては大きい。
まず、家がデカすぎてトイレも自分の部屋も寝室もどこにあるのか分からないということだ。
次に、メイドの数が多すぎて名前が分からないと言うこと。聞けば教えてくれるだろうが、メイドの名前を知らない主人というのもどうかと思うし、多すぎて聞いても覚えられないからだ。
しかし、二番目の問題は割と早く解決した。
これを解決してくれたのはなんとも予想外の代物、
俺のアイマスクだった。
俺が目の前にいる執事になんて声をかければ良いか迷っていたとき、俺の視界の左上に何やらアイコンが表示されていることに気づいたのだ。これは今までは全く表示されておらず、この家に入ってから突如出力され始めたので気になってそのアイコンを見てみた。
すると、そのアイコンの形が変わり、文字が浮かび上がってきた。
『メイド長:ユニティ 男 人狼』
これはおそらく、俺の目の前にいる執事のことを指しているのだろう。雑なメモ書きのようなものだが、これは非常にありがたい。
もしかして以前のストンもメイドの名前を覚えることに苦労していたのだろうか?なら団員の時にもメモを残して置いて欲しかったなあと思いつつ。
メイド長という職業に就いているユニティを観察してみた。一見普通の人間に見えるのだが、人狼なのか?
少し不安だ...。
「ご主人様どうかなされましたか? 私に何か?」
「ああ なんでもないよ このまま玄関にいるのもあれだ... 少し休みたいな」
「失礼致しました。早速ご準備致します。リビングルームまではメイドのキーラがお供致しますので.... ではキーラ!」
案外楽に問題は解決できそうだ。アイマスクで名前は網羅できるし、家はメイドに適当に任せればやってくれる気がする。いきなり調子をこき始めている自覚はあるが、調子こけるときは調子に乗らせてくれ!
ユニティの後ろには100人以上のメイドがいるというのに、俺とジムススの元へ駆けつけてきたのは一人の女性メイドだった。
大勢で対応するとかえって迷惑になると思ったのか、それともほとんどは忙しいのかは分からない。
駆けつけたメイドもまた美しかった。アイコンを見てみると、
『ガイドメイド:キーラ 女 鳥人』
鳥人はどんな亜人なのか見当もつかないが、キーラはガイド専用のメイドなのか! やはりこの巨大宮殿ではなかなか場所を覚えるのも苦労するのだろう。仕事になるということは需要があるからだ。俺もそれに甘える。
岸庄助でも知っているザ・メイド服を着たショートの髪が似合う綺麗な顔をしたキーラは鳥人らしいが、見た目は人間そのものだった。
「ご主人様、ジムスス様、私、ガイドメイドのキーラがリビングルームまで案内いたします。」
そのキーラに連れられ、俺らは巨大宮殿を歩き回った。英国美術館なみの道中を抜け、リビングルームまで到着すると、キーラは俺たちにお辞儀をし、廊下で待機すると言って中には入っては来なかった。
「ストン様、久しぶりのストン様の邸宅ですが、やはり何度来ても凄い所ですな...毎度驚かせれますよ!」
リビングルームに入り、既に用意されていたお茶を飲みながら俺とジムススは今日のレッドサーカス団について軽くだが話し合っていた。
「そうか?」
いや俺は今来たばかりだから、ジムススよりも驚きすぎて気が動転しているのだが、とも言えず嘘をついた。別にストンなら嘘ではないのだが...。
「はい そうですよ....」
「そう言えば、ジムススの家はどこだったかな?」
「私ですか? 私は41ブロックの岬近くの家です。...ストン様に比べれば小さい家ですが」
この家が異常だから心配するな!
ジムススは俺よりも上のブロックにいるのか....と言うかなんで岬がタワーの中にあるんだ!?
今度ジムススの家にも遊びに行きたいなあ.... どうなってるのか気になる....。
もう少しジムススの家について聞いてみたかったのだが、コンコンとリビングルームの扉をノックする音が聞こえたので、それはまたの機会にすることにした。
「失礼します。レイ様とロイ様がご帰宅なされました。リビングルームにお連れしてもよろしいでしょうか?」
「いいぞ」
自分の家なのに一々許可を与えなければいけないのか?
デカイ家だが、なんか窮屈な家だ。
「ストン様、私はそろそろ帰りますね。折角のご家族の時間ですし、団員達にも言うべきことがありますので」
「わかった。長居させてすまなかったな...また来てくれ。面倒な仕事ばかりで申し訳ない」
「いえいえ、そのようなことはございませんとも! では」
「おう 今度はジムススの家に連れて行ってくれよ?」
「はい! ストン様の訪問ならばよろこんでっ!」
ジムススがメイドと共にリビングルームを去ってから暫くして、レイとロイが入ってきた。
「あっ! パパだあ!!」
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