第3話 「レッドサーカス団に栄光を!!」

謎の超超高層タワーの最上ブロックである100ブロックに到達した俺は目の前に現れた光景に圧倒された。


エレベーターでの上昇中でも今まで家と会社のみを行き来していた俺には処理仕切れないほどの新鮮な情報が洪水のごとく頭に押し寄せていたが、ここはそれを超えそうだ。


東京ドームほどの広さはあるであろう空間には鉄格子に入れられた異形のモンスター達が格納された直方体の檻がまるで図書館の本棚のようにして、きれいに列を作り幾重にも並べられている。


一番上に置かれている檻は一体どのようにして取り出すのか検討も付かないが、おそらく魔法などで浮かばせて運搬するのだろう。


俺の今いる場所から見えるだけでも、銀色に光輝く金属の皮膚?をした大蛇やピカピカと青白い電撃を時折放っているクラゲみたいな生物、棍棒のような頭をもった全身棘だらけの虎に似た動物がいる。


それらのモンスター達は特に暴れることもなく、各々の檻の中でじっとしているか、グルグルと歩き回っているようだ。


とりあえずは良かったな。


もし、モンスターが暴れているので赤の道化師であるストン様にモンスターをおとなしくさせてもらいたいですとか言われてしまったらどうしよう.... とも考えたがひとまずは杞憂で終わった。


本棚のように並べられた檻の間をボムカスと共にモンスター達を観察しながら通っていると開けた空間に出る。


上を見上げると、様々な形をした人間の巨大な石像達がこの円形の空間を囲うようにして勇ましく立っていることに気づいた。


亜人の像かな?


この世界に来て間もない凡人の俺なんかが亜人の像だと理解できたのは、この開けた空間で俺を待っていた者達の姿を見たからだ。


少なくとも総勢、50人以上はいるだろう。まるでコスプレだと考えてしまいそうな集団が俺の姿を確認すると一斉に俺の周りに近寄ってきた。


なんだ!? どこかの優勝したチームの監督ってこんな感じなのか!?


耳が尖っている派手な全身タイツを着ているスタイル抜群な女性集団や、頭部がトカゲやライオンの形をした2メートルはありそうな大柄な戦士風の者達、見た目が人間ではないので分からないが男性だと思う。さらには背中からレイのように翼を生やした者達など様々な亜人達が全方位から俺に接近してくる。


何? この突然始まったこの儀式は?


またも意味の分からない状況に陥ってしまったので凡人の俺は良い対処法がすぐには思いつかず、ここまで行動を共にしてきたボムカスに助け舟を求めるべく、俺は熱い視線を送った。


ヘイ! ボムカス! 何とかしてくれ!


という気持ちを込めて。


すると、俺の熱い視線に気付いたのかボムカスは俺と目が合うと、小さく首を縦に振り、集まってきた亜人の集団に聞こえるように口火を切ってくれた。


まあ結局やってくれたわけだ。


優秀なボムカスさんは、


「皆様! お初にお目に掛かりますストン様の付き人に新しく任命されましたボムカスです。この度はこのレッドサーカス団でお世話になります!どうぞよろしくお願いしまーす! ...では私の挨拶も早々で恐縮ですが、ストン様にいつもやられていると仰られていたレッドサーカス団恒例の始まりの儀を頂戴したいと思います。.....ストン様よろしいでしょうか?」


ボムカスを初めとし、サーカス団の団員らしい亜人の集団の視線が俺がいる一点に注がれた。


何してくれる!! 


俺はそんな恒例の儀なんか知らないぞ! それに公演とか言ってたからなんかの発表会的なものかと思ってはいたが、まさかサーカスかよ!ってことはこのストンは団長か!?


...アクロバティックなことなど出来るわけがない。


だが、ボムカスからの急な無茶振りにまずは対応しなくては....


どうすればいい!?


うーーん。適当に挨拶的なことを考えて言うべきか?それとも今日はなしということで逃げるか?


!!


俺は一つだけこのピンチを切り抜ける案を思いついた。


実に良案である。


そう俺ではなく、この中で唯一名前を知っているボムカスにやらせれば良いのだ。そうすれば始まりの儀で大体何をすれば良いのか把握できる上に俺はやらなくて済む。


挨拶の段階でいきなりもピンチが来るとは思わなかったが、今はこれに賭けよう。


俺は少しの間を置いてから息を吸い込み、ボムカスの方に体を向ける。


「ボムカスよ 折角自己紹介もしたんだ。今日の始まりの儀はボムカスがやってくれ! サーカス団としていつも決まったことをやり続けるのはつまらないだろう」


サーカス団の団員の間に騒めきが起こった。



もしかして、団長らしい俺が新人に始まりの儀を譲ってはなんか不味い状況なのか!?


俺は心の中で流れる冷や汗を拭いながら、俺が取った行動が吉か凶かをこのアイマスクの下にあるはずの眼球から恐る恐る覗いてると、


「ストン様!!」


「はい!」


突如興奮気味で俺に迫ってきたボムカスに驚き、いつもの癖で敬語で応答してしまったがそれに気づく様子もなく、


「新人の私に始まりの儀を任せて頂けるとは誠に光栄であります!!新人としてこのレッドサーカス団に入れたものの、不安しかなかった私にこのようなご配慮をストン様にして頂くとは! 感謝をしても仕切れません!!」


息を荒げ、早口で俺にしゃべってくるボムカスは本当に嬉しいのか尻尾を犬のように高速でフリフリと振っている。


俺の周りにいた団員達はというと皆、ボムカスを包むようにして優しい視線を送っていた。中には若干だが、目に涙を浮かばせている者もいる。特に屈強なまるでゲームのラスボスじゃないの?と思わせる出で立ちをした二本の角を頭に生やした鬼のような形をした亜人がシクシクと泣いてるのは奇妙な光景だ。


見た目で判断するべきではないなと、心のメモに追加して記載しておく。


そして、俺は自分の咄嗟の判断が予想以上に良い成績を残したことに驚きながらも内心、凡人の俺を俺は自分で褒めちぎっていた。新人社会人だったとき、俺は誰からも褒められることが無かったので、何か自分で満足がいく事があると自然と自画自賛をするようになっていた。


そんな悲しい記憶を消しつつ、俺はボムカスに始まりの儀を任す。


他力本願ではないぞ!!


「では 皆様ご準備はよろしいですか!? .....今日の公演も成功しますように! レッドサーカス団に栄光を!!!!」


「「「栄光を!!!」」」


ボムカスの掛け声ともに総勢50人以上はいる亜人の集団が一斉に声を上げた。


こんな感じなら俺にもできたんじゃないか?と考えていると、何やらボムカスがこの開けた空間を見守るようにして囲んでいる一体の亜人の石像の元へと歩みだした。


ボムカスが歩み寄った巨大な亜人の石像は頭に二本の曲がった角を生やし、背中から翼を生やした女神のような美しさを兼ね備えた石像だった。


雰囲気がレイに似ている。彼女の美貌にも匹敵する。


最初はコスプレかと思ったが今はそうは思わない。というかこの亜人と呼ばれる人間の形をした種族は確かサキュバスという名のついた種族だったはずだ。石像の巨大な足の側面にやはりサキュバスの文字が掘られていた。


サキュバス像に到達したボムカスが手を石像に翳し、「<起動スタート>!」と声を掛けると、


ボムカスの手から緑色の光を放つ円形の魔法陣が出現した。


おお!? 魔法だっ!!


俺は今魔法を目の当たりにしているぞ!!


心の中で先程のボムカスよりも興奮している俺の視線はボムカスの手から離れない。


そして、魔法陣よりも俺の目を奪う光景が出現した。


ボムカスが魔法を唱えると、開けたこの空間を囲んでいた亜人の石像達がゴゴゴと石が擦れる特有の音を響かせながら一斉に動き出したのだ。


今、数を確認したら十二体ものこの空間を囲む巨大な亜人の石像達がゆっくりと動き出し、この広間にいる俺を含めた団員達の方へと石像達が囲むようにして輪を縮めてきた。


誰も潰されることなく、石像達が俺たちがいるところまで集まってくると、俺たちがいる上空で石像達が輪を作ったまま両隣の石像同士で肩を組み始めた。


円陣か?


広間から上で行われている異様な光景を見ていると、まるでヨーロッパにある歴史のある巨大な建築物が今まさに自分を囲うようにして自動で形成されていくように思えてきた。


石像達が円陣を組み終わると、団員達も円陣を組み始めた。


目を奪われていた俺も慌てて、皆と同様にして円陣の輪に入る。


ここで俺だけが輪から取り残されてしまったら笑い者になってしまう。団員達はそんなことはしないとは思うが、自分が自分を笑うだろう。


慌てて輪に入った隣は安定のボムカスだった。


やっぱ知ってる人の近くに自然と行ってしまうのは岸庄助の部分が出てしまったようだ。


石像達の円陣の下で円陣を組んだ俺たち団員は円陣が組み終わるとボムカスが再び声を掛ける。


「レッドサーカス団に栄光を!!」


「「「栄光を!!!」」」



おい! これ二回やる意味あるか?


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