ルピナス

 今度は、緑に艶めく銀髪の美女。

「……ルピネさん、こんにちは」

 この人がここで来るのは、前に何番目か教わったので覚えていた。

「こんにちは。……兄がすまないな。カノンは頭がおかしいんだ」

「それってフォローなんですか?」

 聞くたびに割と不思議なのだが。

「ひとまず自己紹介を。ルピナス・ローザライマ。4番だ」

「!」

 俺の驚きを察してか、ルピネさんが微笑む。

「……実はルピナスが本名で、ルピネは愛称なんだ」

「綺麗ですよね」

「あ、ありがとう……」

 もじもじとする彼女は非常に可愛い人だ。

「ルピナスさんと同じ名前ですか」

 仲良しな友達で、髪色も緑系統。

 ぴったり収まるような二人だ。

「うん。とても光栄だ」

「?」

「ルピナスは私よりずっと年上……例を挙げるとうちの父親より年上なのだ」

 年齢差が全く分からん。

「人の振る舞いには立場やメンタリティが大きく関わるので、ルピナスは幼げで可愛らしい方なのだが」

「ルピネさんにプロポーズしまくってましたね」

 小樽旅行ではルピネさんを口説いていた覚えがある。

「ふふふ。冗談も上手いのだぞ、私の友は」

「…………」

 あの目は、半ば以上本気だったような……

「とりあえず。私からもお前の助けになることをせねばな」

「……ありがたくはあるんですけど、申し訳なくもありますよ。本当にいいんですか?」

 俺が言うと、彼女は驚いたように目を見開いた。

「私たちはお前の家に不法侵入し続けているのだから、私たちが謝るべきだぞ?」

 麻痺していた。

 うなだれる俺に、ルピネさんが困った顔をする。

「……すまない」

「いえ……」



 彼女は手に提げていたバッグから数冊の本を差し出してきた。

「私からは参考書だ。国語と世界史」

 受け取りつつ会釈する。

「ありがとうございます。こんな物理的なものをいただけるとは」

「私より上のきょうだいたちは、専門が専門だからな。お前の家にいる悪霊の処理について考えていたことだろう」

「……悪霊いるんですか俺の家」

「気づいていなかったのか」

 唖然とされた。

「ハノンが洗面所を掃除していたのは、場を整えるという魔法の基礎だ。お清めと表現した方が、日本人のお前には通じやすいかもしれん」

「塩撒いたりお酒撒いたりするやつですよね?」

「それをする前に。チリを払い、床や壁、家具などを磨いて汚れを落とす。姉がしていたのはそれだ」

「へえ……」

 掃除にそんな意味があったとは。

「カノンは死神。魂を導く役割があり……未練に引きずられて残ってしまった霊も行くべきところへ連れて行ける。だが、保留している」

 保留とな。

「マーチは死後の……『彼岸に行く』と決めた魂を導く案内人をしている。これも保留だ」

「……その二人に違いはあるんですか?」

「カノンは魂の持ち主の同意なく死を執行できる。マーチは同意なくして連れて行くことはできない」

 マーチさんはともかく、カノンさんはなぜ保留したのだろう?

「悪霊とは言ったが、私たちでさえ見たことがないほど安定している。お前を見守っているようだから、保留にしたんだ」

「……マジですか」

「まじだ」

「そっかー……なんかお礼しようかな」

 どこにいるのか分からないが、見守ってくれているのなら悪霊と普通の幽霊とでスレスレな状態なのだろう。

 一人暮らししていても害を成してきたことはないし、それなら別に怖くはない。

「次は私の弟が来るから、その時に相談してみておくれ」

「双子でしたっけ」

「ああ。私と違って優秀な弟だよ」

「ルピネさん美人で賢くて最高だと思いますけど……」

 なんせ、人見知りな佳奈子と紫織ちゃんが懐くのだから。

「ん……お前は」

 弟さんの登場まで、しばし歓談。

「8人兄弟って、賑やかですよね」

「ああ。全員、我が強くて……だからこそ楽しい」

 我が強いのは、今日会った面子からだけでも十分に伝わってきた。

「これから近場の温泉に宿泊する予定なんだ」

「いいですね、温泉」

「ハノンは異世界で魔法学校の教師をしているし、カノンは死神としてあちこち飛び回り、マーチは異世界で仕事。ほかの兄弟たちも忙しい」

 年齢は不詳ながら、みなさん社会人の年齢だろうしな。

「ご家族で楽しんで来てください」

「ありがとう。……そろそろだな」


 ルピネさんが微笑んで一礼する。

「弟妹をよろしく頼む」

 残り4人だ。

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