魔法使いまたはXのそれぞれ
「……おはよう、ございます。シュレミア先生」
「おはようございます」
面倒だったので、電撃で叩き起こした。
紫織の特性は“契約”。
好きな異性を相手に強く思い詰めたからとて、通常、永続するほどの呪いはかけられない。初心者のスペルは感情で威力が左右されがちだと言っても、限度はある。
人間の持つ魔力の量などたかが知れている。得体の知れない何かと無意識で契約して、無意識に呪いをかけたのだろう。
才能に満ちているが、現代社会で生きるには不向きな体質もあいまってとても面倒だ。
「……あの、えっと。隣のひとは……」
「娘です」
「ルピネという。初めまして」
「……………………」
あからさまに『信じられない』という顔をするのを見て、もう一発喰らわせてやろうかと思ったら、ルピネに止められた。
「沸点の低い……大人げないぞ父上」
「これでも譲歩しています」
1週間も優しく配慮してやったのに、紫織はつけ込むように眠り続けていた。
眠っていた間に8年もの月日が流れたことを受け入れられないのはわかるが、起きてもらわなければ困る。
「そうだな。とりあえず隣の部屋にいてくれ」
「…………」
「安心して任せてください。では」
ルピネに部屋を追い出された。
「……」
紫織の教導役は俺というより、俺の一族付けのものだ。ルピネが主な担当をすることになっている。顔合わせにはちょうどいい。ついでに、初対面の空気を解きほぐすという点で、人当たりが全く良くない俺よりはるかに適任だ。
暇なのでリーネアに打つメールを下書きする。
(光太の方にも問題が起こっていそうだな)
メールに一文追加しておこう。
――*――
コウ。森山光太。あたしの幼馴染で、唯一“ともだち”と言える男子。
4歳であたしのおばあちゃんのアパートに引っ越してきた。
コウの両親は共働きで留守がち。だから、小学校に上がってお迎えがなくなり、寂しくなっていたコウは、おばあちゃんとまとめてあたしと一緒に育てられたようなもの。
泣き虫だったくせに、怖い番組を見てあたしの影に隠れてたくせに。小学校3、4年になるといきなり元気いっぱいになりやがって、インドアなあたしとは生活リズムが合わなくなった。
かと思えばあたしを外に誘ったり、あたしが決して誘いに乗らないことを見るや否やゲームに誘ったりして。
……良い奴だと思う。おまけにメンタルが頑丈。
あんなふうな病気……呪いだっけ。はた迷惑なもの背負わされて人生ぐっちゃぐちゃになっても、なんだかんだで学校に通い続けたし。
学校に在籍しても在校していないようなあたしとは真逆。
あたしは藍沢佳奈子。
この世で最も卑怯な女だ。
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