第8話 地の魔神、そして、土

 炎の魔神サラマンダーとの戦闘から数日後。

 俺たちは魔王が四天王のひとり地の魔神【ノーム】と対峙していた。


「クハハハッ! 魔王様に逆らう愚かな者共は、我が手で生き埋めにしてやるのねん!」


 毎度のことながら、魔王が四天王という連中は無駄にテンションが高い。


「へっ! 地の魔神だかなんだか知らねえが、俺の聖剣でぶった斬ってやるぜ!」


 背中の大剣を構えて意気揚々とするうちの勇者もなかなかテンションが高い。


「クハハハッ! いいのねん。貴様のその聖剣など、我が地魔法でへし折ってやるのねん!」


 頭に赤い三角帽子を被った髭面のノームは、余裕綽々と様子でイキっていた。


「勇者を名乗る愚か者よ! 我が地魔法に恐れ慄くがいいのねん……アースニードル!」


「なっ!? しまっ――って、あれ?」


 ノームが両手を前に突き出した瞬間、勇者が大剣を盾にして身構えたが、なにも起きなかった。


「ば、バカな、なのねんっ!? 我の地魔法が発動しないのねん!」


 酷く狼狽するノーム。

 彼が混乱するのも無理はない。


 なにせノームの扱う地魔法とやらは、地面の形状を変化させ相手を攻撃する魔法だと思われる。

 しかし、その肝心の地面は土となった俺と同化している。

 つまり、地面は俺そのものだからなにも起きるハズがないのだ。


「こ、こんな馬鹿げたことがあってたまるかなのねん!」


「なんかわからねえけど、地魔法が使えないお前は俺の敵じゃねえ! くたばれ!」


「ま、待ってくれなのねん! ぎゃあああああああなのねんっ!?」


 勇者に両断されたノームを見て、俺は居た堪れない気持ちなった。

 すまん、ノーム。

 お前の魔法は土というか、地面と融合している俺が動かそうとしない限り、なにも起こりはしない。

 要するにこの戦闘は、のだ。

 

「なんか、今回の相手はとっても呆気なかったね?」


「当たり前だろ? 俺は最強の勇者だからな!」


 両断されたノームの亡骸をエルフが退屈そうな顔付きをしてつま先でつつく。

 その隣では大剣を天に掲げた勇者がドヤ顔をしていた。

 俺はなにも言わずにノームの亡骸を土に埋めると静かに合掌してその冥福を祈った。

 神よ、彼にアナタの祝福を……。



 

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