第3話 冒険者、そして、土
衝撃の展開から数分後。
ふと、目が覚めると俺の視界には白い雲が流れる青空と、隅の方にいくつかの樹木が見て取れた。
「……どうやら、俺は土に転生したようだな」
土になった俺の身体は温かいお湯の中に浸かっているような心地良さがあり、両手両脚を泳ぐように動かすと、土の中を自由に移動できた。
「ふむ、これは快適だな。まぁ、上と横くらいし見えないのが残念だが、ん?」
しばらく土の中を移動していると、視線の先に二つの人影が見えた。
「あれは、人か? どれ、少し観察してみるか……」
俺は土の中を静かに移動すると、こちらに歩いてくる冒険者風の男女に接近することを試みた。
「ねぇ、待ってよ勇者! 置いて行かないでってば~!」
先を歩く若い男を追いかけるのは、異世界でおなじみの金色のサラサラとした髪を靡かせるエルフの美少女だった。
「んもぅ、どうしてそんなに外では冷たいのよ~?」
エルフの少女は先を行く若い男の片腕に抱きつくと、慎ましい胸を押しつけて頬をぷくっと膨らませる。
「そんなのお前が遅いからに決まっているだろ?」
エルフの少女に腕を組まれても不機嫌そうな顔をしているのは、背中に大剣を背負った目鼻立ちの整った人族の青年だった。
少年は片腕に纏わりつくエルフの少女を鬱陶しそうに見ると、彼女のことを振り払う。
「あまりベタベタするな。モンスターに襲われたらどうするつもりだ?」
「だあって、勇者とくっついていたいんだモン」
「お前は良くても俺は迷惑なんだよ」
「そ、そんな!?」
勇者と呼ばれた青年に冷たくされたのがショックなのか、エルフの少女はポロポロと涙をこぼして、その場にしゃがみ込み泣き出してしまった。
「チッ。またか」
どの世界でも、男女の色恋沙汰に変わりはないようだ。
というか、土になった俺はエルフの少女の足元にいるため、彼女のスカートの中が丸見えだった。
普通なら、こんな刺激の強い光景を目の当たりにした瞬間、下腹部がむっくりするのだろうが、今の俺は土だからなにも感じない。
「おい、いつまで泣いてんだ。さっさと行くぞ」
「うぅ……いつも宿屋のベッドの上では優しいのに、どうして外に出た途端いつも冷たくするの?」
やれやれ。これは男の方が悪い。
事後のアフターケアは大事にしないといけないな。
「そ、それをこんなところで言うなよ!」
「だったら、いつも優しくしてよぉ~」
甘えるような声でそう呟くエルフの少女に観念したのか、勇者と呼ばれた青年は照れくさそうに手を差し伸べた。
「わかったよ。たくっ」
「えへへ~。ありがとう……って、きゃああああああああああっ!?」
エルフの少女が立ち上がるとき、偶然にも上を見上げていた俺と目が合い、彼女は絹を裂くような悲鳴を上げた。
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