夏海と茜と蛍と忍【前半】

【野良猫みたいな奴がケガをしていたので手当てした。完治したので逃がそうと思うが、なぜか全然逃げない。】の蛍さんと忍が出てきますが、そっちを知らなくても大丈夫。


【おまけ6】





夏海なつみ視点】



「夏海さんスーツ貸して下さい。今度学祭のイベントでビジュアル系のコスプレするんで。さすがにサイズ大きいかもですけどゆるダル系に着こなすので大丈夫だと思います。あ。ちゃんとクリーニングしてから返すので安心して下さいね?」



はい。



つっこみポイントが多過ぎて。もうどこからつっこめば良いのかわからない。



「……お前はバカか?この状況でお気軽に安心出来るわけねぇだろ。ふざけんな。クリーニングの心配はしてない。ビジュアル系ってなんだよ?」


「あれ?夏海さんビジュアル系って知りませんか?メイクや衣装で独特の世界観を表現するパフォーマンスをする方々の事です。一般常識ですよ?」



イラァァァっとする。おっさんです。



「違う。知ってる。おっさんでもそれくらい知ってる。ビジュアル系の定義を再確認したいんじゃねぇよ。通常のイケメンモードですら性別年齢問わず入れ食い状態なのに本格的に化けたらなに釣って帰ってくんだよ。弓矢の無駄遣いすんな?」



この射手座の自由感がムカつくわぁ。


ついでにこのコスプレになんの抵抗もない若い感じ。自分も昔はそんな感じだった覚えあるけどな。トラウマ黒歴史。思い出したくない。



年齢差のせいかな?マジでしんどい。うっかり若い子に惚れるとこうなるんだな。過去の平穏が少し懐かしいおっさんです。



「そういえば夏海さんは学生時代どんな服装してましたか?カジュアル系?きれいめ?クール系?それともノームコア系かなー?」


「聞くな。思い出したくない。あとノームコアはおっさん聞いたことない」



微妙に正解混ざってた。知らない単語も混ざってた。怖い怖い。若い時の服装とか一番思い出すと具体的にしんどい記憶だ。ソコこねくり回されたら羞恥で死ねる。お風呂でこねくり回されるのも二度とごめんだけどな。



彼女は羞恥プレイ苦手とか言ってたくせに触られたくない所だけピンポイントで触ってくるから恐ろしい。



最近は言葉責めスキルすら習得しそうだ。その才能が怖い。



「黒スキニーに大きめのパーカーとか着てたのかなー?見たいです。なっちゃんのパーカー姿」


「やーめーろー。なっちゃんって呼ぶのだけはマジでやめろ。少し寒気が。なんで答えなかったのに正解知ってんだよ。怖ぇわ。そしておっさんのパーカー姿くらい残念な服装はないだろ。おっさんに帽子とか必要ない。被らない。邪魔くさい。肩こる。恥ずかしい」



「わかりました。仕方ないですね。しのぶに借りるから大丈夫です。あいつに借りるの嫌ですけど」


「……そういう知らない奴の名前をイタズラにぶっ込むの控えてもらっても良い?シノブ?何者だよ?」


「忍は私の義理兄おにいさんです。口惜しいし悔しいですけどね。あれ?あのガキ。スーツとか持ってるのかな?」



おにいさん?


なのにガキ?



もう意味わからない。意味わからないけど多分。姉の彼氏とかそんな奴の事か?



おっさん。安い挑発には簡単には乗らないぞ。ホイホイとジェラジェラしたりしないぞ。大人だからな。



「あー。あれだろ。姉の彼氏とか?そいつがお前より年下とかそんな事だろ」



「やっぱり。簡単には釣られませんね。残念です。狩られたいのかな?って思って時々うっかり罠仕掛けたくなるんですよね。あわよくば夏海さんがブチ切れた所また見たいなと思って」



狩人め。



自由が過ぎる。でも狩人と一緒にいるうちに罠にもかなり慣れてきたおっさんです。むしろ最近はその食いついてくる感じも悪くないとか。少しそんな事すら頭を過る事すらあったり。なかったり。



「若い子なら引っ掛かるだろうな。しかしお前の彼氏は残念ながら大人だ。諦めろ」



「そういう。マジで大人な所が堪りません。好きです。……あ。そういえば。私が初めて腕相撲で負けたのって夏海さんじゃなく忍でした」



「……なんだそれ。聞いてない」



「すっかり忘れてました。昔から私の大好きなお姉ちゃんの彼氏になる人は少なくとも私より強くて、サイズも大きくないと困ると思ってたんです。忍はサイズはクリアしていたので、腕相撲で挑戦したら返り討ちにされたんですよ。だから悔しいけど忍は私の義理兄おにいさんになりました。最愛のお姉ちゃんが彼氏を見つけて死ぬほど悔しいけど安心もしたので、私も本命の彼氏を探すぞと決意したんです。それでとりあえず手始めに忍より強い彼氏を探そうかなと思って片っ端から挑戦して夏海さんに負けたんです。あ。別に忍をブチのめす予定は今はないんですけどね。大丈夫です。夏海さんにそんなめんどくさい事はお願いしませんから。万が一あのガキがお姉ちゃんを泣かせた時には私がブチのめします!」



「大人げなく返り討ちにしたら彼氏になって欲しいとか言い出したからどこの勇者かと思ってたけど。一応そんな理由だったんだな」



「とりあえずスーツは忍に借りるので大丈夫です。そういえば忍と夏海さんってどっちが強いんですかね?強い方の装備を借りた方がクオリティ高そうな気が……」




あー。ふざけんな。




コスプレも。ビジュアル系も。俺より先に彼女を返り討ちにした奴も。しかもよりによってに先に返り討ちにした奴にスーツ借りるので大丈夫とか。全然大丈夫じゃねぇし。返り討ちにされたくせにブチのめすとか。



【めんどくさい事はお願いしませんから】とか。



色々。全部。満遍なくイライラしてジェラジェラするおっさんです。




お姉さんと、その彼氏か。




「茜。お姉さんと義理兄さんに話がある。会わせて欲しい」


「お話ですか?」


「出来れば早い方が良い。連絡頼む」


「……?わかりました」




大人なので。別にブチのめしたいとか。思ってませんよ。そこはご心配なく。








あかね視点】




ガチャァァァン!!!




すごい音です。掛かってる可能性が高くてもチェーンごとブチ壊そうとする勢いでドアを渾身の力で開けたから仕方ない。




「お姉ちゃーん!茜だよー!チェーン外して!この世でドアを開けた時に掛かってるチェーン程ムカつくものはないよ!」



「あー。ごめんごめん。今外すね」



一度ドアを閉めてカチャっとチェーンを外してもらいすぐにドアを開けてから中に滑り込んだ。



よしよし。ごめんごめん。



いつものようにお姉ちゃんがわたしを撫でてくれた。お姉ちゃんは私よりかなり小さめなので撫でやすいように少し屈む。やっぱりお姉ちゃんに撫でてもらうと気持ち良い。



あ。お姉ちゃんとハグしたい時はどうすれば良いかちゃんと夏海さんに聞いていなかった。後で聞いてみよ。



「お姉ちゃん。久しぶり!今日は朝まで離したくない」


「茜。いらっしゃい」



ぎゅっとしがみついて顔を埋めた。よしよしとお姉ちゃんがいつも通りに撫でて甘やかしてくれる。



「仕方ないな。茜は本当に甘えん坊さんだね」



「大好き。愛してる。一緒にお風呂入ろ?いつも傷口洗ってもらうお礼に身体洗ってあげる。実は最近イケメンモードとシチュエーションボイスのスキル上げしたいと思ってるんだよね。だから言葉攻めしながら念入りに洗ってあげるよ。だから今夜は彼氏は急用で来ないよって言って?」



「……いや。ちゃんと来てるわ。呼んだのお前だろマジでふざけんなよ義理妹いもうと。今日こそ複雑骨折させられてぇんだな。後で絶対に文句言うなよめんどくさいから」



大きめサイズなのにすっかり存在感が薄れていた忍が超こっち睨んでくる。相変わらずムカつくガキだ。



「……茜。やめなさい」



そしてもっと存在感が薄れていた私の彼氏に怒られた。今日は夏海さんのリクエストでの訪問なのに忘れてた。うっかり。でも久しぶりのお姉ちゃん可愛すぎる。この抱っこするとすっぽり収まるサイズ。最近。夏海さんには時々抱っこしてもらうけど、実は末っ子で常に甘えたいタイプの自分は久しぶりのお姉ちゃんにメロメロだ。



いや。夏海さんはそういうの苦手だし。そもそも塩対応の神でそのクールな所も堪らなく好きだし。あまり無理なお願いはしません。嫌われたくないし。夏海さんにあまりしんどい事をさせたくない。その分時々抱っこしてくれるサービスが堪らなく嬉しいし。



でも小さな頃から甘やかしてくれたお姉ちゃんを抱っこしていると落ち着くのも確かだ。かなり癒される感じ。



「お姉ちゃん。大好き。もう少し抱いていたい」


「仕方ないな。いつもそうやって甘えて。ほら茜。ちゃんと紹介して?」


「あ。私の彼氏の夏海しょうさんです!夏海さん。この可愛い人が私の最愛のお姉ちゃんの千秋ちあきけいちゃんです。そっちの警戒心剥き出しのガキがお姉ちゃんの彼氏の忍です」


「夏海です。急におじゃまして申し訳ありません」


「はじめまして。茜の姉の千秋蛍です」


「三上です。はじめまして」



大人モードの夏海さんだ。こういう所を目の当たりにすると本当に夏海さんは【大人】なんだなと思う。





……夏海さんはなんで急に『連れて行って欲しい』なんて言ってくれたんだろう。こういう『挨拶』みたいな。めんどくさいの。何よりもめんどくさいと思うのに。





私が嫌がる夏海さんを無理矢理引き摺って連れてきてお姉ちゃんに『彼氏捕まえたよ!』って見せびらかすシチュエーションなら簡単かつ具体的に想像出来るけど。




私は。お姉ちゃんに挨拶している夏海さんを見ながら。なんだかとても不思議な気持ちだった。





あ。ついでに忍もいました。忍。今日こそ勝つ。万が一の時。私の力で念入りにブチのめすために。そんな事も考えておりました。











けい視点】





「忍!ちょっとこっち来い!久しぶりに勝負しよ!今なら勝てる気がする!お姉ちゃんに癒されてかなり調子良いからさ!」


「嫌だ。めんどくさい。うるさい」


「逃げるな?良いからこっち来い!」



妹の茜が忍に絡んでいる。グイグイ強引に引っ張って行った。そして心底めんどくさそうな忍と腕相撲し始めた。忍。かなり嫌そう。




あ。とりあえず勝てば解放されると思ったのか忍が茜を瞬殺してる。テーブルぶっ壊す勢いで容赦なく。





微笑ましい感じでお姉ちゃんは嬉しいです。





『彼氏を連れてくから忍と一緒に待っててね』と連絡をもらった時はお姉ちゃん的に驚いたけど。少し前に『慣れないハントに手こずってる』と言っていたし。いつもは急に訪問して来るのに前もって連絡をくれたのにも驚いた。




「少し良いですか?」


「……はい?」







忍が茜と勝負をしている間に、夏海さんとゆっくりお話をしたお姉ちゃんです。






なるほど。彼氏さんはとても常識的な方らしい。お話をしてそれがはっきりわかった。






その後。夏海さんは忍になにやら話し掛けてから忍と腕相撲で勝負をしていました。






ふふふ。どっちが勝ったかは。後半あとのお楽しみです。





【NEXT おまけ7】

【長くなったので後半へ続く】

【次回予告】【おっさん。筋肉痛になりそうな予感】



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