ドロ沼昼ドラコース


【おまけ2】

【可愛いバイトちゃんの妄想を笑って許せる方のみ軽い気持ちでお楽しみ下さい】





千秋君は同じバイトなのに私とは全然違う。黙々と仕事に集中して終わるまで絶対に帰らない。他のバイトとは次元の違う高度な仕事を普通に任されているのに千秋君はそれを難なくこなしていた。同じ歳らしいけど直接会話をしたことはない。社員並みに。というか社員より仕事が出来るらしいのにいつも涼しげな。どこか冷たい表情でPCに向かっている。ほとんど横顔や後ろ姿しか知らないけど。そんな千秋君の事が気になって仕方ない。こんなに美しい人に出会ったのは生まれて初めてだ。


そんな千秋君は仕事中はまったく他人を寄せ付けない態度だ。


仕事に没頭していて他の人とはほとんど会話もしないのに、夏海さんという上司とは時々話しているのを見掛ける。夏海さんはあまり仕事熱心な感じではないけどバイトの指導を担当しているので千秋君とも親しいのか徹夜の残業も一緒にするらしい。


千秋君は彼女とかいるんだろうか?


知りたい。自分は見た目はフワフワ系なので男性ウケはなかなか悪くない。今までそれなりにお付き合いもしてきた。千秋君がフリーなら付き合って欲しいのに今回は本気だからこそ無駄なプライドが邪魔をして臆病になってしまう。



そんな事をモヤモヤと考えているうちに千秋君が急にバイトに来なくなった。



入れ変わりに超絶可愛いモデルみたいな清楚な見た目の『茜ちゃん』という名前の女の子が千秋君のデスクに座っていた。



千秋君は辞めてしまったのだろうか?



もう二度と会えないかもしれないと思ったらもうダメだった。そんなの嫌だ。



だから時々ふらっと休憩に抜ける夏海さんの後を付けて行って千秋君が好きだと伝えた上で聞いてみたのだ。『千秋君はバイトを辞めたんですか?』『付き合っている人とかいるんですかね?私じゃダメですか?』と。



聞くんじゃなかった。



夏海さんは辞めてはいないと答えたあとで『いる。無理だ。諦めろ』と言った。いるのか。あのクールな千秋君の彼女。どんなタイプなのだろうか。うらやましい。もういっそ関係なく誘惑でもしたい。千秋君は絶対にモテモテだろうし、なんとか臨機応変に対応してくれないだろうか。火遊び的に一回で良いから抱いてくれないかなとかそんな危ない妄想すらする勢いだ。彼女さん本当にごめんなさい。そんな事を悶々と考えるくらい本気です。ドン引きされる。完全にアウトだ。道徳的にも社会的にも。もちろん妄想です。だからここはなんとか見逃して欲しい。お願いします。そんな昼ドラみたいなドロドロ略奪コースを考えてしまうのが自分でも驚きだった。





「…ねぇ。ちょっと。時間ある?」


「ち、千秋君!」


「そう呼ばれると死ぬほどムカつく」


「ごめん、なさいっ」


心臓が止まるかと思った。マジで。二度と会えないかもしれないと思っていた千秋君に声を掛けられたら心臓だって止まりそうになるって。話し掛けられるのなんてもちろん初めてだし。姿を見るのは久しぶりだけど相変わらず格好良い。


まったく直視出来ない。


それにしても声までステキなんだな。ほとんど横顔とか座っている後ろ姿しか知らなかったけど立っていると背も超高い。会話出来ただけで幸せ。そんな気持ちで促されるまま付いて来た。スタイル超良いな。モデルさんみたいだ。


なんで持っているのかわからないけど千秋君は立ち入り禁止区域の鍵を持っていた。普通に開けて上階のベランダに通してくれた。夏海さんも普通に解錠してここで休憩していたから借りたのかもしれない。



…聞いたのだろうか?私が千秋君の事を好きだと。


夏海あいつ。なにあっさりバラしてくれてんだ。あとでブッ殺す。



「休憩時間なのにごめんね。あのさ。なんか思い込みっていうか。そういう誤解があるみたいだからちゃんと言っておきたくて」


思い込み?誤解?


確かに話したこともなかったけど。本気なのに。こんなに本気で誰かに惚れたのは初めてなのに。


「思い込みなんかじゃありません!」


「いや。違うって。勘違いしてるよね?」


勘違い?


勘違いじゃない。こんなに誰かを好きになった事なんてないのに伝わらない。話したことはないけど。本気で好きなこの気持ちは本物なのに。


「勘違いじゃありません!本当に、好きなんです」


思い込みとか勘違いとか、千秋君にだけは言われたくないのに。彼女さんがいるから手は出せないし妄想だったのに。なんでそんな事を言うんだろうか。こっそり片想いする事すらダメ?さっき名前を呼んだだけで死ぬほどムカつくと言われたし。


迷惑?


もう泣けてきた。最悪だ。こんな自分、千秋君にだけは見せなくないのに。そう思ったらますます泣けてきた。超めんどくさい。


「え?いや。ちょっとなんで泣くの?」


急に泣き出した自分を見てクールな千秋君がひどく動揺している。オロオロしている。千秋君もこんな顔するんだなと思ったらさらに涙が止まらなくなる。彼女さんが世界一うらやましい。そして自分。超ウザい。ありえない。


「…迷惑ですよね。ウザくて。ありえないって、自分でも思います。でも片想いとか妄想くらいは個人の自由だと思います。千秋君は格好良いからモテモテでしょうし。もちろん童貞じゃないと思うので昼ドラみたいな過ちもあり得るなら臨機応変に一回くらい火遊び的に抱いてくれないかなと妄想はしましたけど。妄想だけならセーフの、はずです…」


「ん?妄想くらいならセーフかな?というか。どちらかと言うと童貞かも?処女じゃないけど」



彼女さんじゃなくて彼氏さんがいるという事かな??



まさかの童貞非処女。千秋君くらいイケメンなら納得。違和感ない。


かなり話が混乱してきた。スタンダードな昼ドラよりよほどドロドロしてきた。



ゴシゴシ…グイグイ…



「っ!すみません…っ」


千秋君に涙を拭かれた。普段クールな千秋君の予想外の気まぐれサービス。なんかこいつ泣いてるから仕方ないから拭いてやるかって気持ちなのかもしれない。それでも手付きはとても優しい。クールだと思っていたけど。こういうサービスもやれば出来るんだと思ったら彼女さん改め彼氏がやっぱり死ぬほどうらやましくて。


ますます泣ける。


驚いた顔の千秋君も超格好良い。



「ちょっと言いにくいんだけど」


「…っ、はい」



知ってるよ。付き合っている人がいるんだよね。彼氏さんだったんですね。そこは完全に勘違いしてました。もうなに言われても仕方ないです。ドロドロ泥沼昼ドラコースとか火遊びとか。妄想でもありえないです。自分に自分でドン引きです。



覚悟を決めていると千秋君がやけに至近距離まで近付いてきた。



「あー。なんか言葉だと通らないみたいだよね。こうした方がわかりやすいかな?ちょっと失礼します」



ぎゅーっ!



「なっ…、なんですかっ!?」



抱きしめられた。超背が高い。なんか良いにおいもするし。女の子みたいなレベルで超良いにおい。しかも背が高いからちょうど胸の辺りにぴったりとくっつく。とても柔らかい。



…柔らかい??



顔に「ぽよん」くらいの柔らかい感触が当たる。あれ?なんで?なにコレ??そう思って思わずソレを触ってみた。


もみもみ…ぽよぽよ…

超柔らかいけど。コレは。



…おっぱい!!!



「きゃぁあ!!な、なんで?…、おっぱい?ですか?」


「正解ですね。おっぱいです。やっと気付いた?そんな小さくないと思ってたけど自信完全になくなったよ。そちらさんのおかげさまで」


「小さくないです!むしろ大きめです柔らかいですありがとうございます!え?でも、なんで?」



おっぱい?ちょっと混乱が収まらない。童貞非処女発言よりよほど理解出来ない。



「君さ、名前なんて言うの?」


市川いちかわです。市川優奈ゆうなです」


「ユウナちゃん。私の名前知ってる?」


「千秋君?」


「違う。そこが違います。いや千秋は合ってるけどね。私の名前は千秋茜です。茜ちゃんです。ユウナちゃんと同じ大生のね」





女子大生?



…茜ちゃん?



茜ちゃん!!!





あの【千秋君】のデスクに座っていた清楚な女性が?直視出来なかったけど確かにしっかり見ると似てる。怖いくらい整った顔。【千秋君】と【茜ちゃん】が同一人物なんて1ミリも思わなかった。だって超イケメンがある日突然前触れなく超絶可愛い清楚な女性になるなんて思わない。完全に生まれ変わったレベルだ。そんなファンタジー的な可能性は考慮しなかった。それらしいタグもなかったら油断してた。いや。生まれ変わってないか。


「…マジ、ですか?」


「マジです」


もみもみ…ぽよぽよ…


信じられなくて事実を確かめるために茜さんのおっぱいを揉み直した。


やっぱり柔らかいです。本物のおっぱいです。むしろ自分のおっぱいより大きいです。ありがとうございます。


格好良すぎて直視出来なかった。

背中とか横顔ばかりを見ていた。


それもコソコソとチラチラしか見れなくて本当に気が付かなかったのだ。


ウソでしょ。いや。事実だ。証拠おっぱいがある。けっこうある。ありえない。




【千秋君】という思い込み。勘違い。その通りです。しかも格好良すぎて好きすぎて直視出来なかった臆病な自分が原因か。



…自爆感が尋常じゃない。



なんなら臨機応変に火遊びでOKなら抱いて欲しいとかそんな事を言うべきではなかった。社会的に完全にアウトな妄想すら自ら進んで積極的に発表した自分は。



「…死にたいです」


「わかるよー。その気持ち。死ぬほどよく理解出来るよ」


千秋君。じゃない。茜さんの笑った顔。ヤバい。なにこれ?超可愛いんですけど。


「本当に。すみません、勘違いしてて」


「【千秋君】とか言われた時はムカついて軽くぶっ殺してやろうと思ったんだけどさ。こちらこそ。なんかごめんね?泣かせるつもりはなかったんだけど」



なでなで…よしよし…



「…茜さん」


「ユウナちゃん。泣くと可愛いね。うらやましい」


超格好良い。超可愛い。超柔らかい。【千秋君】じゃなくて【茜さん】だけど。なんか自爆したら吹っ切れてそんな事は小さな問題のような気がしてきた。


「…茜さん。彼氏さんと別れて私と付き合って下さい。お願いします。火遊びでも構いません。ドロドロ昼ドラ泥沼コース興味ないですか?」



ぎゅっ

もみもみ…



もうこうなったらこのまま茜さんとドロドロ泥沼昼ドラコースに…






「…コラ。そこの狂ったバイトガキ。なにしてくれてんだよ?茜。お前もなに無防備に揉まれてんだ。マジでふざけんなよ?」


「あ。夏海さんお疲れさまです。休憩ですか?」


もみもみされながら。茜さんがふらっと休憩に来たらしい夏海さんに話しかけた。


良いところだったのに。


そういえば夏海さんは【千秋君】と超親しいのだ。今も【茜】と呼び捨て。あっさり私の恋心も普通にバラされたしな。このおっさんマジでムカつく。


「バカか。このシチュエーションでお気軽に休憩出来るわけねーだろ。市川。茜に触るな。揉むな。それは俺のだ。離れろ。速やかに蛍光灯でも変えてろバカ。俺の休憩時間返せ」


「茜さんの彼氏さんって夏海さんなんですか!…おっさんじゃないですか。茜さん。絶対に現役の女子大生の私の方がピチピチしてて良いですよ。私は茜さんと泥沼ドロドロ昼ドラコースの火遊びをしたいんですよ。だから夏海さん、邪魔です」


「…あー。ムカつく。バイトのガキに面と向かっておっさんって言われると事実だけど死ぬほどムカつくな。市川。お前は甘酒でも飲んでくたばれ。俺の彼女に二度と触んな。見るな。消えろ。定時になったら大人しく帰れ。それしか特技ないだろ。ブラインドタッチすら出来ないクソガキのくせに」


ガバッと茜さんを奪われた。しかもこれ見よがしに抱っこして私から茜さんが出来るだけ見えないようにカバーしている。


ケチ。大人げないおっさんだ。


茜さんも夏海さんには大人しく抱っこされてるのがラブラブな感じでさらにムカつく。



「茜さん。私はあなたの事が好きです。そんなケチで大人げないおっさんなんてポイしてピチピチの女子大生と火遊びしましょ?」


「黙れ市川。お前は若さしか取り柄ねぇんだから大人しく消え失せろ。他人の物に手ぇ出すんじゃねぇよ。生年月日いつなんだよ。お前が好きなのは【千秋君】だろうが」


「8月22日ですけど?生年月日とか関係ありますか?そんなチマチマしてると茜さんに嫌われますよ?いえ。むしろ積極的に嫌われて下さい。私は【千秋君】も【茜さん】も平等に好きですよ。だいたい社員でおっさんのくせにバイトに手を出すとか社会人的にどうなってんですか?」


「うるさい。社会人全員に常識あると思うなよ。手は出したけどお前に関係ないだろ。可愛い彼女が部屋にいたら手を出さない程枯れてねぇんだよ。お前こそガキのくせに見境ねぇな。ガキならガキなりに素直に負けを認めて帰って泣きながら宿題でもしてろ」


「……」


大好きな彼氏の夏海さんと、泣くと可愛いユウナちゃんがギャンギャン喧嘩している。


ユウナちゃんは8月22日生まれなのか。なに座だろ?あとで調べてみよう。それにしても。


「夏海さんもユウナちゃんも大人げないなぁ」


でもユウナちゃんのおかげで世にも珍しい夏海さんの嫉妬モードが見られた。「俺のだ」って言われて嬉しい。積極的に抱っこしてくれたし。ハァハァ。これはチャンスだと思って夏海さんにぎゅっとしがみついたら、もっとしっかりぎゅーってしてくれた。サービス。最高です。



なんだかすごく夏海さんに好かれてるみたいでドキドキする。



しかし困ったな。明日は私はイケメンモードと儚いモード。どちらで来たら良いんだろう?


そんな事を考えている私を巡り、大人げない二人の喧嘩はまだまだ収まりそうにない。


私。今モテ期なのかも?


三人で美しい朝焼けを拝むことにならなきゃ良いけどな。そんな事を少しだけ考えているヤバい系の彼女です。





【NEXT おまけ3】

【次回予告】【先程。お風呂で念入りに洗われている子がいました。昔からよく洗われている子でした。処女すら「納品」の一言で済ませる塩対応のくせにようやく溺愛にも手を出すようでした。以上。次回の予告でした】

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