占い信じるタイプ





毎日毎日しつこくお願いして、夏海さんがようやく彼氏になってくれました!粘り勝ちです。最初はキレて処女なんて重いだめんどくさいだと難色を示していたけど納品したら大切にもらってくれた。一安心。しかも遠慮なくと腕枕までしてくれた。いつもは異常にサービス悪い店でふいに施された優しさみたいな。もう堪らない。見てるだけでハァハァなのに。


大人なのに大人げなくて超マイペースで自分の事が最優先なのに、フリーな時にはそうやって優しいとこもチラホラある。決してデレたり優しさアピールはしてこないけど、その押し付けがましくない感じもイイ。


他人から見れば『ありえないわー』『引くわー』という所が堪らないのだから、これはもうどうしようもない。


自分なんて普通の中の普通だって夏海さんは言うけど、私の中では特別だからまったくなんの問題もない。


そんなドン引きレベルの塩対応でマジでまったくデレない夏海さんをなんとか少しでもデレさせるべく『色々』考えてる。どうやら自分には『両想い』の才能もあったらしい。私も彼氏と人並みにイチャイチャしたい。そういう事ですよ。







もういちいちダッシュして振り切るのめんどくさいし。そもそも彼氏だし。という理由から夏海さんは退社後の逃走ダッシュはしなくなったので一緒に帰る事が出来るようになりました。


『手をつないで帰りましょう』と依頼したら秒速で断られたけど。被せ気味に。夏海さんは反射神経も良い。普段ふわ~っダラーっとしてるのに軽く反射神経チェックしたいなーと思って差し向けたキラーパスは簡単に捌く感じもツボだったりする。脱力系なのに運動神経良い感じ。背も高い。学生時代さぞモテただろうと思うがどうなのだろうか。気になる。あとで聞いてみよ。


そんな彼氏に考えていた『色々』をさっそく吹っ掛けてみます。


「夏海さん。勝負しましょう」


「今度はなんだよ」


最初はこんな感じで腕相撲も断られたな。心底めんどくさい。関わりたくない。そんな感じ。でも大丈夫。


「どっちが階段ダッシュ速いか競争しましょう」


「嫌だよ。めんどくさい。考えるだけでかなり疲れる」


帰宅途中にある神社に続く階段。ここの階段は多過ぎず少な過ぎず絶妙な段数なのだ。良い子は真似してはいけないが高校生の時には危険とか迷惑とかそんな事は一切考えずダッシュしていた階段だった。毎日のように無駄に駆け上がったものだが今考えると懐かしい想い出。もちろん超危ない。


そして夏海さん。『疲れる』絶対そう言うと思った。予想通りだ。


「じゃ、私の不戦勝ですね。おそらく階段ダッシュなら私の方が速いので。ここの階段とは馴染みです」


「コラ。舐めるなよ。おっさん他の取り柄はないけど運動神経だけは良いんだぞ」



ほらね。



夏海さんは大人げない。そして実は負けず嫌いだ。


女性相手の腕相撲でも左手ききてから迷い無く差し出す大人なのだ。得意分野での不戦負ほど嫌なものはないのではないかと思ったが正解。


もう他の人なら諦めるしかないレベルの夏海さんの『めんどくさい』をあっさりサックリ崩してみた。これは楽しい。クセになりそうだ。


「じゃ。負けた方がおみくじおごりで」


「楽勝だ。泣かす」




もちろん勝つ気で挑んだけど超ダッシュ速い夏海さんに容赦なく惨敗した。安定の負けず嫌い。大人げない。



それでも勝っても負けても成立するプランなのでなんの問題もなかった。








「夏海さん。大丈夫ですか?」


「俺はこの歳で、なぜ…無駄に、階段ダッシュなんて…バカなマネをしてしまったんだろう…疲労原因ナンバーワンみたいな苦行を…」



駆け上がった先で彼氏が死にそうだ。呼吸がヤバい。ハァハァ言ってる。悪い意味で。勝負は夏海さんが勝ったのに。泣かすと宣言していたけど、むしろ今にも泣きそうなのは夏海さんの方だった。


可愛いな。超普通に全力でダッシュしてた。スーツなのにウケる。しかも速いし。


とりあえず(彼氏の呼吸状態の回復を待って)お作法を守って参拝した。さっき階段は全力ダッシュしていたので、お作法とか関係ないような気もするけど。


おみくじコーナーに二人分のお金を入れてから、その死にかけ(夏海さん)に割り箸みたいな細長い棒がいっぱい入った木の筒を渡した。ひっくり返すと小さな穴から一本だけ細長い棒が出て来てソレに漢数字が書いてある。その引いた番号の引き出しに入っている紙を引くタイプだ。



「夏海さん。さ。遠慮なく」



ガラガラガラガラ……



息も絶え絶えの夏海さんは十七番。大吉。災い自ら去り福徳集まり諸事うまく運ぶようになります。心直く正しい道歩めば喜事があり。このまま迷わず精進せよ。恋愛。この人となら幸福あり。大切にせよ。



私は十五番。身も進み立身出世します。何事も思うようになります。心正しく目上を敬い行い慎めば益々幸福が訪れる。恋愛。この人です。積極的にせよ。




「ほら。さすが神様。お見通しみたいですよ」


「…仕込んだ?」


「まさか。夏海さん、ちゃんと自分でガラガラしてましたよ」



夏海さんは可愛い彼女の可愛いお願いは無視かスルーが多いけど、占いは信じてしまうタイプなのだ。無理して苦手だったココアまで飲むレベルの。そんな大人げない所も素直で可愛すぎる。


そして実は私は昔からくじ運が超良いのだ。引く前からわかってた。神様が粋な計らいをして下さる可能性が極めて高い事が。さらに夏海さんは占いとか超気になっちゃうタイプなのに超くじ運は悪かった。よりによって苦手な物ばかりがラッキーアイテムとしてピンポイントで指定される残念な夏海さんは自分が引き当てた世にも珍しい大吉。そして内容に明らかに動揺している。




大切にせよ。


積極的にせよ。



【この人となら幸福あり】





さすが神様だ。階段ダッシュしても頭ごなしに怒らないばかりか、むしろその頑張りを認めてくれるような器の大きな存在らしい。ここの階段とは馴染みだ。神様は昔からその頑張りを見守ってくれていたのかもしれない。感謝。




「夏海さん。手をつないで帰りましょうね」


「…わかった。ほら」



いつもならその反射神経で即却下のお願いが通った。



「帰ったら一緒にアニメ見ましょうね」


「くっ…」




今日もリアタイで見たいアニメあったのに。一人で集中して見たいタイプなのに。彼氏はそんな表情だった。







占い信じる系の夏海さんは『おうし座』らしい。平穏と安定を好み自分のテリトリーになかなか他人を入れない。しかし一度手に入れた物には執着し手放す事を嫌う。



そんな占い好きの彼氏をジワジワ侵食…ではなく攻略すべく調べているうちに最近少し詳しくなってきた。



だからそっと大人しく。邪魔にならないように。もうハァハァだけどそこはセーブして。ガバァ!っと飛び付きたいところではあるが、そこもセーブして。夏海さんのお隣にギリギリくっつかない所で膝を抱えて大人しく膝を抱えて丸くなった。




夏海さんは平穏と安定を好む。だから私は部屋と空気と一体化する作戦中です。




「…なんだよ。お前。大人しくしてると可愛いな」


「夏海さん?」


「このまま大人しくしてろ」


「…っ!」



アニメ見てる時は基本的に彼女の存在など完全に無視だった夏海さんに、まるで抱き枕みたいにハグされた。


作戦。大成功です。


(さ、騒いだらポイされる!)


そう思って動揺は尋常じゃないが大人しく夏海さんにくっついた。ピッタリくっつくと微かにタバコの匂いがする。加熱式って言ってたけど夏海さんがタバコを吸っている所はまだ一度も見たことはない。だからこれくらい密着しないと感じないタバコの匂いがレアだ。


…ぶっちゃけハァハァする。いや。我慢して大人しくしてないとおそらくフリータイムの邪魔になるとポイされる可能性が高い。我慢。


夏海さんは自分を抱っこしたまま普通に肩越しにアニメを見ている。ぬいぐるみを抱っこしたままテレビを見る子供みたいだ。画面は見えないけど音声的におそらくほっこり系のアニメ。だけどこっちは全然ほっこりじゃない。むしろハァハァしてるヤバい系の彼女だ。


普段リアルに素っ気ないくせに時々こうやって気まぐれに手を出されると正直堪らない。



なでなで…


(!!!)


夏海さんに頭を撫でられた。



なぜ?塩対応の夏海さんがなぜこんなサービスを?処女にアウトな暴言吐くのも厭わない塩対応の神の夏海さんが?部屋と空気と一体化作戦が効いたのか?なら私は空気スキルを全力で極めます。



「どうだ。おみくじアドバイスを受けて大切にしてみたぞ。嫌ならやめるけど。その可能性は織り込み済みだ」


「なんで織り込んだんですか。ほどいて下さい。最高です。神様に感謝」



まさかのおみくじ効果か!!神様グッジョブ!!


もう我慢出来なくて少しぎゅーしたら、なんと夏海さんもぎゅーしてくれた。


これは完全に想定の範囲外だ。


自分よりずいぶん背の低いお姉ちゃんをぎゅーした事はあるけど、自分より体格の良い夏海さんにぎゅーされると包まれてる感じで心臓まで苦しいくらいぎゅっと締め付けられるようだ。


「きっかけおみくじアドバイスで大切にされてお前は嫌じゃないのか?」


「きっかけなんて私の今のドキドキにはなんの関係もありません」


「そういう裏表ないシンプルなとこが神様に好かれんだろうな。チマいおっさんは嫌われるわけだ」


「私は神様より夏海さんに好かれたいです」


「すげぇなお前。神様に片想いさせてんのか。恐れ入るわ。俺は神様になんとか好かれて二度と大凶引かないようにしてもらいたいけど」


「大凶。引いたことあるんですか?」


昔から超くじ運が良い自分は、大凶が本当に混ざっているのかすらわからなかった。


「一度じゃなくな。俺のくじ運の悪さ舐めんなよ。アレ引くと精神的ダメージが尋常じゃない」


大凶が出る神社自体が少ない。そしてさらにその中から数少ない大凶を怖いくらい引き当てる生粋のくじ運の悪さから夏海さんは占い系が気になるようになったらしい。恋愛などは『諦めろ』『儚く消え去る』『今はまだ駄目です』『後に良い出会いあり』『別れなさい』さらには『お気の毒』までありとあらゆる最悪パターンを網羅したそうだ。



神様。容赦なかった。



「大丈夫です。私と一緒にいればこれから先は大吉しか引きませんよ」


「なんだソレ。魅力的だな。お前。ずっと俺の側にいろ。離れるなよ」


「…っ!そういう事。個性的なタイミングで言われると心臓が持ちません」


塩対応の神から、まるで口説いているようなセリフを予期せぬタイミングでブチかまされて動悸がヤバい。


「ま。不可能だろうけどな」


「可能ですよ!」


そんな事を言いながら夏海さんはそのままぎゅーしてくれた。粋な計らいをしてくれた神様に感謝。


ずっと俺の側にいろ。離れるな。その言葉が嬉しくて。きっかけなんてマジでどうでも良くて。大人しくぎゅーしてもらいました。



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