2013年【行人】「やくざの人もナンパしたの?」
店に戻ると、陽子に怒られた。
火事のことを言おうかと思ったけれど、結局は何も言わなかった。
喫茶店を出ると、凛が本屋に行きたいと言うので町の本屋へ行った。
それから居酒屋へ行って三人でお酒と料理を頼んで、楽しく喋った。
話題は僕のナンパに移った。
「ねぇ、そーいえば。里菜さんだっけ? やくざのお姉さん。その人とも、行人はナンパで知り合ったの?」
「うん」
「やくざの人もナンパしたの?」
凛の笑みが引きつる。
「秋穂も里菜さんのこと知ってるんだよね?」
「一応、面識あるよ」
「どーやって知り合ったのよ?」
言って、陽子はビールを飲んだ。
「僕が里菜さんをナンパして、相手にされなかったんだけど、名刺は貰ったのね。後から聞いたらナンパされたら、必ず名刺を渡すんだって。やくざの組の名前が書いてある名刺」
「うわぁ」
と言いつつ、凛はから揚げを自分の皿に取ってレモンを軽く絞った。
「もちろん、そんな名刺を貰っちゃうと連絡は出ないじゃん? 名刺は財布に入れて生活をしていて、ある日、秋穂と町を歩いてたら声をかけられたんだよ、里菜さんに」
「わー、その里菜さんって性格悪いね」
そうだね、
と僕は頷く。
里菜さんは間違いなく女連れと分かってナンパ野郎の僕に恥をかかせるつもりで声をかけてきていた。
「でも相手は秋穂だからさ。ナンパしているの知ってますって態度で、それよりもズボンのポケットに物を入れて洗濯ものに出される方が困ります、みたいな話をはじめて」
「秋穂さん可愛い」
凛が言い、可愛いのか? と僕は疑問符を浮かべた。
「それは、その里菜さんも面喰ったでしょうね」
と陽子が言った。
「というか、里菜さん。秋穂のこと気に入っちゃって、その日、何故か三人にでお茶しに行くことになって」
「行人からしたら、気まずいヤツだね!」
そんな気軽なものじゃなかった。
本当に生きた心地がしない、自分の肌が木造か鉄製で出来ているんじゃないかってくらい固まっていた。
と考えていると、浮かぶものがあった。
「そういえば、あの時。里菜さんが言ったんだよな、秋穂ちゃんからしたらこの男は、どーいう存在なんって」
「へぇ、秋穂さんは何て答えたんですか?」
僕は答えを言おうとして途端に照れ臭くなってビールを飲みきって、
店員を呼びお代わりをし、ついでに料理も頼もうとメニューを陽子と凛に見えるように広げた。
陽子が僕を見て、
コイツ言う気ないな、という顔をしたが僕は気づかないフリをして、
「タコの刺身とか美味しそうじゃない?」とメニューを指差した。
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