起源のしるべ

消された島

「…ン…ここは…?」

 

 ブレイドはゆっくりと体を起こす。見慣れた病室、どうやら、ここはブラウン研究所付属の病院の一室であるようだ。

「確か、俺はあの時…。」

 

 彼が先の任務を思い出そうとした時、扉が開き、エクスシス副長官が入ってくる。

「やっと起きたか…ブレイド。心配したぞ。」

 

 そう言って、彼は口元を綻ばせながらブレイドの元へ歩いてくる。

「副長官…俺は…。」

「君は3時間ほど前にここに運ばれてきたよ、エリーと一緒にな。もっとも、彼女は既に目覚めてVR訓練室で訓練しているがね…。」

 

 傍にあった椅子に彼は腰掛ける。

「君らのおかげで、エリーは新型としての力が目覚めた。超高速移動能力…瞬間移動というやつだな。生成された膨大な生体エネルギーを一気に解放することで、劇的な瞬発力を発揮できるというわけだ。それを示唆するように、彼女のミトコン…」

 

 話を続けようとしたエクスシスだが、ブレイドのつまらなそうな顔に気付き口を閉じる。

「…俺は今回何も力になれてないですよ、副長官。情けない話、敵に深い傷を負わされて気を失っていた…。」


 俯く彼を見てエクスシスは口を開く。

「…エリーが新型としての力を得たのはいい結果だ。しかしながら、その副作用か何かはまだはっきりとわからないが、彼女の性格が変わってしまったようだ。」

「性格が変わった?」

「ああ…。ま、私からしてみればそれも嬉しい結果だが、長く付き合ってきた神崎にはあまり好ましくないようだ。正直言って、エリーの前の性格では兵器として扱うのは難しい話だったが、今の状態なら十分なものだ…少々、残虐な殺し方さえしなければ。…ま、会ってみればわかるさ。」

 

 一呼吸おいてエクスシスは話を続ける。

「…君たちが対峙した人型の生体兵器…。話は2人から聞いたが、とんでもない怪物だな。その怪物相手に五体満足で帰ってきただけでも大したものだ。」

 

 ブレイドが口を開く。

「…副長官…テロ組織があれほどの生体兵器を用意できると思いますか…?」

 

 エクスシスは目を閉じ、首を横に振る。

「あまり副長官にこんなことを言いたくはないのですが。」

「君の…考えている通りだ。RASの中に裏切者が存在する。」

 

 眉間に皺を寄せ彼は言う。

「裏で糸を引いているのは長官で間違いないと思うが…。決定的な証拠もなければ、協力者すらもわからない状況だ。…正直私とて、下手に動くことはできない。だが…」

 

 エクスシスは椅子から立ち上がり窓の方へと向かう。そして、眼前に広がる広大な海原を眺めながら口を開く。

「この海原の彼方に今回の件の答えが眠っているかもしれない。…浅羽が最後に、私に一つのデータを残してくれた。」

「最後…?」

「RASによって世界地図から抹消された島、ウエスタハイランド島。…そこに佇む大病院、ウエストハイランド島24番地病院に長官へと繋がる鍵があるかもしれない。」

 

 エクスシスはブレイドに振り返る。

「…長官は約7日ほどRASから不在になる。この機を逃す手はない…。2日後、再びここに来る。それまでに、傷を癒しておけ。では、これで失礼するよ。」

 

 そう言って、彼は病室の出口の方へと歩く。ドアが開き彼が出ようとしたときにブレイドが答える。

「副長官。先ほど、浅羽が最後に残したと言っていましたが…。」

「浅羽は死んだよ…。テロ組織に殺害された。爆発に巻き込まれたようで…遺体はばらばらだったがな。…惜しい人物をなくした、残念だ。」


 エクスシスはそう言って静かに部屋を出た。

「…嘘だろ…!」

 

 ブレイドは俯き歯を食いしばる。彼の脳裏に浅羽の顔が浮かぶ。それはブレイドが彼の専属部隊からエクスシス副長官の専属部隊へと昇格した際に見せた、優しい笑顔だった。







「バカげたことを言う…。」


「君の方が立場は上と言えど、年上に向かってそういう口のきき方はどうかね?」


「…まあ、良い。父は貴方が好きなようにしろと言った。口をはさむのは野暮だったな…。しかし…。」


「しかし、何だね?」


「自分のクローンを殺し合わせるとは…フッ…悪趣味な奴だな、貴方は。他にいい方法があると思うのだがな?…見ていて気が滅入りはしないのか?」


「はっ…ははは。別に理解をしてもらうつもりはない。これは、必要なことなのだ。私にとって、とても必要な要因となるものだ。」


「そうかい…。それで、そこの培養液に浮かんでいるそいつは何体目のクローンなのだ?」


「ああ…正直こいつなら、私の望む結果を出せそうな気がするんだ…。なぜなら、ここはウエストハイランド島24番地病院…そして、こいつは同じ…」



「24体目のクローンだ。」

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