覚醒


 暗闇の空間から、気付けばものと場所にレーテーは戻っていた。目の前でシールドを押さえるノメリアを見て、彼女は後退る。

「お前は…!」

「ぬおおおお!!」

 

 シールドに亀裂が入る。

「な…に…?」

「ぬおりゃああ!!!」

 

 バキィ!!

 

 ノメリアがシールドを握りつぶす。音を立ててそれは砕け落ちる。それを見た彼女は驚嘆する。

「こんなバカなことが…!お前は…」

 

 彼は立て続けに肩に突き刺さっているシールドに手を伸ばし、力を入れて握りしめる。シールドに亀裂が走る。

「…!!」


 レーテーは手を振り上げると、ノメリアの周りに小さなシールドがいくつも現れる。

「くそが…!」


 それを見たエリーは無意識に彼の元へと駆け寄る。

「ノメリアさん!!」

 

 レーテーが手を振り下ろす。無数のシールドの刃先がノメリアへと伸びる。

「…ここまでなのか…!」



―ノメリアさんが殺されちゃう!私の…私のせいで…。

 私が弱いから…もっと私が強ければこんなことに…!

 もっと早く力が目覚めていれば…目覚めていれば!


 エリーの前が突然、真っ暗になる。

「こ…ここは?」


 暗闇を見渡すエリーの前からゆっくりと誰かが近づいてくる。彼女の額から汗が流れる。

「貴方は夢の…。」


 彼女は生まれて間もない頃から奇怪な夢を見ていた。自分と同じ姿をした女性が薄ら笑いをしながら自分に歩み寄ってくるという夢。そして、いつも最後に得体のしれない巨大なバケモノが現れ、そこで夢は終わる。夢から覚めた彼女は限りない恐怖からではなく、異様なほどの懐かしさに涙を流していた。

 夢と同じ人物から後退る彼女に対して女性が答える。

「やっと…話せるようになったね。」

「あ、貴方は…一体。」

「私は貴方…。貴方がずっと逃げてきた内なる自分。でも、もう逃げる必要はないよね?」

「…どういうこと?」


 もう一人のエリーは不気味な笑顔をしながら彼女に答える。

「貴方は本当の自分になるのを恐れて、私からずっと逃げてきた。いつまでもいい子ちゃんで、ずっと優しい自分でいたくて。でも、それじゃダメだって…力がなくちゃダメだって気付いて、無意識に私を求めた。」

「わ、私は…。」

「仲間を救いたい…。力が欲しい…そうよね?だったら、私から逃げないで。本当の自分になることを恐れないで。」


 彼女はそう言ってエリーの頬に手を当てる。すると、背後から巨大な何かが現れる。妖しく赤色に光る眼が二人を見つめる。

「あ、あれは…!」


 エリーに一気に恐怖が襲うも、異様なまでに懐かしい雰囲気に困惑の表情を見せる。もう一人のエリーは彼女の表情を見るなり、優しく彼女を抱き寄せ、耳元で答える。

「恐れないで…彼女を…私を受け入れて…。完全になりましょう…。」

「…そうすれば…みんなを救えるの…?」

「フフ…もちろんよ。さあ…。」


 巨大なバケモノが2人を包み込む。




「死ね!キル…!」


 シールドの刃先がノメリアの眼前で止まる。

「…何だ?」


 レーテーの腹部から血に濡れたナイフの刃先が顔を出す。

「か…は…。バカ…な…!」


 エリーが突き刺したナイフを引き抜くと、レーテーはその場に倒れ込む。

「何が起きたんだ一体…?」


 訝しげにエリーを見るノメリアに対して不気味な笑顔をしながら、彼女は答える。

「大丈夫ですか、ノメリアさん?…私、遂に目覚めましたよ!」

(…こいつ…本当にさっきまでのエリーか?)


 妙な違和感を覚えながらも彼は答える。

「…とりあえず、この部屋を…いや、この研究所を…。」


 その時、彼らめがけて一斉にシールドの刃先が伸びてくる。

「こいつ…!」


 瞬時にして、ノメリアはレーテーから離れたところに移動していた、エリーに体を抱かれて。

「瞬間移動か…!これが、エリーの…新型の能力…!」

「ノメリアさん…あいつは私が殺します。」


 そう言って彼女はそこから離れ、レーテーの元へと向かう。

「ゴミ共があ…!!殺して…殺してやる!!!」


 抑えた腹部から血を流し、怒り狂ったレーテーの体から夥しい生体エネルギーが溢れる。彼女は自分を刺したエリーに向かって無数の鋭いシールドを解き放つ。

 エリーはそれを尋常でない速さでよけながら距離を詰めていき、遂にはレーテーの懐へともぐり込む。そして、握っていたナイフを彼女の顔面へと放つ。

「バカな!!」


「大したものです。」


 突然現れた触手状の肉塊がエリーを突き飛ばし、レーテーを縛り上げる。

「きゃあ!」

「グッ…!」


 触手は扉の方から伸びており、レーテーをそこに引き寄せる。扉には先ほどの逆十字の入った男、ルミネットが立っており、触手は彼の右腕から伸びていた。

「貴方はさっきの…」

「フフ…。」


 彼は鼻で笑った後に、レーテーを力強く締め上げ気絶させた。

「レーテーが油断していたとはいえ…流石です。」


 エリーが彼の胸元に一瞬で詰め寄り、顔面にナイフを突き刺す。

「悠長に話してんじゃないよ?」

「なっ!?…あいつ!」

「…痛い…ですね。」

「…え?」


 ルミネットはエリーの首を掴み持ち上げる。

「が…あああ!」


 その光景を見たノメリアは狼狽する。

「…顔面セーフってやつか…?」


 手に力を入れルミネットは彼女を気絶させる。彼は辺りを見渡し、気を失っているブレイドを見てからノメリアに言い放つ。

「惨めですね、ノメリア?」


 ノメリアは肩で笑う。

「うるせえよ…結果オーライだからいいだろうが…!」

「とりあえず、この部屋からは出たほうがいいですよ?…特にブレイド君はね。」

「俺のことも心配しろよな…ったくよ~…。」


 髪をかき上げながらノメリアは立ち上がる。それを見てルミネットは言い放つ。



「兎にも角にも、任務完了おめでとうございます。」


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