暗闇の中の懐かしさ
ブレイドの右肩が切り裂かれ、宙に待った血が床に滴る。彼の右肩には鋭い剣の様に変形したレーテーのシールドが伸びていた。
さらに、新たに伸びたシールドが彼の胸元を切り裂く。とっさに避けたものの、深い傷が刻まれ、彼はよろける。
「バカな…!こんな…!」
「図に乗るな…ゴミの分際で。」
彼女は切り裂いた彼の胸元の傷にぐっと手を押し付ける。激痛が彼を襲う。
「ぐおおおおおお!!」
「死ね…!」
レーテーが押し付けた手に膨大な生体エネルギーを集中した時、背後の殺気に気付く。彼女はその手を後ろに振るいノメリアの奇襲を防ぐ。
強固なシールド纏った彼女の手は彼が振り下ろしたナイフを弾き飛ばす。
「エリー!!」
彼が叫ぶとともに、エリーが彼女の死角から飛び出し、全力でナイフを振りかざす。シールド展開が間に合わないと察知したレーテーは後方へと大きく跳躍する。
「…そういえば、そいつもいたか。」
距離を取ったレーテーはゆっくりと姿勢を正す。
「ブレイドさん、大丈夫ですか!?」
「ああ…すまない。」
傷を押さえながら立ち上がるブレイドは、異様な違和感を覚える。彼は片手で顔を押さえる。
「…すまない…なあ、エリー、ノメリア…。」
ノメリアは彼の様子を見て嫌な予感を察する。
「まさか…お前…!」
「さっきはとっさに応えてしまったが…俺は…俺はブレイド、でいいんだよな…?俺の名前は?」
「ど、どうしたんですかブレイドさん!?冗談はやめてくださいよ!」
「エリー!ブレイドをこの部屋から出せ!!」
眼を見開き、汗を浮かべるノメリアの顔を見て彼女は察する。
この部屋に放たれているレーテーの忘却物質がブレイドの傷口から直接多量に体内に流入し、先ほどのガスによって取り込まれた阻害物質の作用が限界へと達してしまったのだ。
彼女はブレイドに肩を貸し、急いで扉へと向かう。
「逃がすか…。ここで、皆、全てを忘れるのよ。」
扉をシールドが塞ぐ。
「なっ…!」
「くそが!!」
ノメリアは先程弾き飛ばされたナイフを拾い、そのままレーテーの元へと向かう。
「エリー!!ブレイドの傷口を何でもいいから塞げ!!気休め程度にはなる!!」
「わ、分かりました!」
エリーは自分の上着と彼のを使って傷口を塞ごうとする。
「があっ!!」
ノメリアの叫び声が木霊する。エリーが彼の方を振り向くとそこには、レーテーのシールドで右肩を貫かれ、壁に固定されているノメリアが見えた。
「ノメリアさん!!」
彼女はレーテーに銃を構え引き金を引くも、弾丸はシールドに遮られレーテーに届くことはなかった。
シールドの鋭い刃先がノメリアの顔にゆっくりと伸びていく。彼はそれを左手で押さえつけるも、止めることができない。押さえつける手から血が滴る。
「ゴミが…恐怖を抱きながら死んでいけ…。」
「ぐおお…てめえ…!!」
うっすらと笑みを浮かべる彼女をノメリアが睨みつける。それを不敵に睨み返すレーテーだったが、突然、辺りが闇に包まれる。
あまりに突然の出来事に、レーテーは呆気にとられる。辺りを見渡すも何もなく、ただ真っ黒な空間だけが広がっている。
明らかに異常な事態であったが、どことなく懐かしい感じがする。生まれる前にも感じたような異様な懐かしさに困惑する彼女の前に、ノメリアが現れる。
「…お前の仕業か?」
彼女がそう言い放った時、彼の顔が変化する。それを見た彼女は驚嘆した。
「お、お前は…あの時の…!」
彼の後ろから巨大な何かが現れる。縦に並ぶ4対の目が怪しく赤色に光るそれは、恐ろしくもあり、そして、懐かしい。
彼女の頬に涙が伝う。
「おかあ…さん…?」
彼女がそう呟いた時、男が背を向けて言う。
「…“LILITH”…。」
その瞬間、辺りが光に包まれる。
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