アナンタ・レーテー

―“Queen”と呼ばれる実質的に、計画においては失敗作だった彼女らだが…



 彼女らが生まれる前、生み出された“それら”は人の姿からは逸脱した、生命活動をしているだけの肉塊であった。

 それらは人の姿をしてないだけに、多くは直ぐに処分された。しかしながら、一人のRAS高官、浅羽総一郎がこれに興味を示した。研究の結果、彼はこの肉塊のある2つの遺伝子の存在を確認したのだが、その遺伝子はこれの元になったヒトの卵細胞と”LILITH”のどの染色体上にもなく、それらはヒトと”LILITH”の融合遺伝子であった。

 彼はこの2つの遺伝子配列を同定し、そこから翻訳されるタンパク質を予測した。それらは同定されている全タンパク質の中で、外ないしは内分泌、ミトコンドリアに関わるものに比較的似ていた。

 研究はここまで難なく進むが、これらのタンパク質作用の解明が難航した。種々の実験を行うも解明できず、最終的にヒトの卵細胞を使用し、彼女が生まれたことで判明した。

 浅羽は彼女を生み出した責任感から、人並みに生活できるように一人の人間として扱ってはいたが、彼女に芽生えた歪な死生観による暴走を抑えきることができず、この事態を知った1stにより彼女は鎮圧されるとともに彼の手に渡る。

 彼女はあまりに強大過ぎるその特異的な能力から“永劫なる忘却”、アナンタ・レーテ―と名付けられた。




 

 アナンタ・レーテーは右手を前にかざす。かざした手を中心に薄いオレンジ色の何かが円形に展開される。

「何!?あれはいったい何なの!?」

「何をする気かわからんが…ブレイド、エリー!」


 ノメリアの合図とともに彼を含めた3人は一斉に彼女に向かって発砲する。無数の弾丸が彼女の展開したその何かに降り注ぐ。

 けたたましい音を立てて弾丸はそれに着弾するも弾き飛ばされていく。

「シールドだと…?嘘だろ…。」


 ブレイドの顔が真っ青になり、額から汗が流れる。

「超能力…だとでもいうの⁉」

「有り余る生体エネルギーが超常的な力を生み出しているっていうのか…!」

「うろたえるな!!死にてえのか⁉」


 予想を超えた出来事に対して明らかに動揺と恐怖を現す2人にノメリアが怒鳴る。それと同時に、レーテーの展開していたシールドが一気に迫ってくる。

「よけろおおお!!!」


 ノメリアが叫ぶ。気を持ち直していたブレイドはとっさに行動に移すも、エリーは反応しきれていなかった。それを知ってかノメリアは彼女を抱き寄せ、間一髪のところで回避する。

 シールドは壁に激突し、轟音を上げ、円形のクレーターを残す。

「あ…あ…ノメリアさん…。」

「あぶねえところだったぜ、このバカ野郎が…!」


 レーテーが再び手を前にかざし、2人に向かってシールドを展開する。

「させるか!!」


 ブレイドは彼女に向けて銃弾を放ち、注意をこちらに向ける。それに気づいた彼女は瞬時にシールドを彼に向け、これを防ぐ。弾が切れるとともに彼は銃を手放し高周波ブレードを抜き、彼女の方へと駆け寄る。その彼に向けて、彼女は連続でシールドを解き放つ。轟音が絶え間なく室内に響き渡る。


 ノメリアはエリーを立たせる。レーテーに苦戦しているブレイドを尻目に、彼は彼女に言う。

「無茶に聞こえるかもしれんが、しっかりしろ!」


 エリーは明らかに恐怖し、体が硬直していた。彼の発言にも答えることができなかった。

「ったく…。」


 彼は彼女の襟元を掴んで、顔の前に近づける。

「エリー、おい、エリー!…俺を見ろ!俺の顔を見ろ!!」

「…ノメリア…さん。」

「俺は絶対にお前を死なせねえし、俺も絶対に死なねえ!なぜ、そう言えるか分かるか、エリー?」


 彼は掴んでいた襟元を離す。

「俺は自分を信じてるからだ。…野郎も言ってたろ!」


 彼女は顔を上げる。若干涙目になった目をぬぐい、彼を真っ直ぐと見る。それを見たノメリアは彼女に愛用のサバイバルナイフを一本渡す。

「貸すだけだ…大事にしろよ?」


 そう言って、彼はすぐにレーテーに向かって銃を構え引き金を引く。発砲音に気付いたレーテーはブレイドから距離を離しつつ後方へと瞬時に避けるも、左肩を撃ち抜かれ体勢を崩す。

「…ゴミが…。」


 レーテーの気が一瞬ノメリア達に向く。その隙にブレイドは一気に彼女に詰め寄り、ブレードを切り上げる。


 鮮血が花びらのように宙を舞う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る