変更
「タイタン型の生体兵器には致命的な弱点がある。」
ノメリアが壁に刻まれた弾痕をなぞりながら言う。ブレイドは辺りを警戒しながら彼の言葉に応える。
「致命的な弱点か…それはなんだ?」
「再生能力の欠陥だ。」
「再生能力ですか…?」
ノメリアはナイフを右手でくるくると回しながら、エリーに答える。
「奴らは他の生体兵器と一味違って、驚異的な再生能力を持っている。脳や心臓は例外だが…腕や足を吹き飛ばそうが、内臓を潰そうが、それを完全に再生し回復することができる。」
「…厄介な敵だな。しかし、その再生能力がなぜ弱点なんだ?」
3人は連絡路から比較的に開けた広間に出る。広間中央の天井から、3方向にモニターが設置されており、この研究所で最近行われた実験の内容と結果が流されている。
「奴らの再生能力の秘密は変異型テロメアーゼという酵素が関わっている。俺もその詳細は理解してはいないが、こいつのおかげで何度も、損傷した組織を再生させることができると聞いている。だが、この変異型テロメアーゼなんだが、通常の奴とは違って、かなりの確率でエラーを起こすようでな…。」
「エラー…。つまり、再生がうまくいかなくなるということか?」
「それどころじゃなく、癌を併発する。そして、なぜかその癌細胞は転移速度が異常に早くてな。数分程度で他の組織も癌化させちまう。」
「ということは、強力ではないにしても攻撃を当て続ければ、敵は癌化で死ぬということか…。新型もタイタン型…、可能性は大いにあるが、とんでもない欠陥品だな…。」
「ここまで聞けば確かにそうだが…こいつらは短期決戦型生体兵器で、投下条件などはあらかじめ吟味されているから、癌化がどうだとかは考慮されていない。事実、こいつらの殲滅力は生体兵器の中でも上位に位置する。経験者から言わせてもらうと、厄介な敵だぜ?」
「でも、今回はこちらに分がある条件ですよね?」
エリーは少し自信ありげにノメリアに言う。
「まあな…。だが、新型には装甲、そして、何よりも、映像で見た放電能力がある。油断はできねえ。」
すると、広間奥の扉が開き誰かが3人に向かって歩いてくる。
「誰だ!?」
ブレイドが刃先を向けて言い放つ。広間に入ってきたのは丸腰の女性テロ組織の一員であるようで、頭を押さえながらふらふらとしている。
「両腕を上げて膝をつきなさい!」
エリーが彼女に向かって銃を構えて言う。テロ組織の女性は何が何だかわからないような表情をしながら、指示に従う。
「あ、貴方たちは誰!?…そ、それにここは…!?」
「…騙されるなよ…俺らを欺くための演技だ。」
「…わかっている。…おい、他の仲間はどこに居る!」
「な、仲間…?いったい何のこと…?」
「とぼけんじゃねえぞ…?手前と一緒にここを襲撃した仲間はどこに居るのかって聞いてんだよ。あまり、なめた答え方していると殺すぞ?」
「ひ、ひいい!!こ、ここ、殺さないで!私は本当に何も知らない!そもそも、どうしてここにいるのかも…わからないのよ!!」
彼女は恐怖に顔を歪めて泣きながら、体を震わせている。
「…全く、大層な演技だな、おい?俺たちにそんなもんは通用しねえとわからせてやろうか?」
ノメリアがナイフを構えて、彼女の方に詰め寄る。
「い、いやあああああ!!こないでええええ!」
それを見た彼女は這いつくばりながら逃げ出す。すかさずノメリアはナイフを投擲し、彼女の顔の前にナイフを突き刺す。
「ひぃいいい!!」
彼女は腕で顔を覆い、ノメリアに対して抵抗をする様子を見せない。その様子を見た3人は違和感を覚える。
「さすがに様子がおかしくないですか、ノメリアさん?」
「…確かにな…おい、ブレイド。念のため、彼女を手錠で拘束しろ。…いいな、動くなよ?」
「わかった…わかったから、殺さないで…!」
ブレイドは彼女の手に手錠をかける。エリーが優しく彼女に問いかける。
「ねえ、あなたは誰なの?」
「…わからない…。わからないの。」
「ここで何があったかはどうだ?」
「ごめんなさい…わからないです…。」
「覚えていることは何かないの?」
「覚えていること…。」
テロ組織の女性は目を瞑って、必死に思い出そうとする。その様子をよそにノメリアは先ほどの虚ろなテロ組織の一員のことを思い出し、小声でつぶやく。
「…あの野郎…何かやりやがったな…。」
「どうしました、ノメリアさん?」
「…いや、なんでもねえ。それより、どうだ?あいつは何か思い出したか?」
「あ!そうでしたね!…どうですか?何か思い出しました?」
彼女は青ざめ、涙を流しながら体を震わせる。
「なにも…なにも、思い出せない…。わ、私は誰なの…私は一体…!ねえ!私は…私は誰なのおおおおお!!!」
彼女は頭を押さえながらむせび泣く。
「どういうことだこれは…先ほどの奴と同じく…。」
「私たちが来る前に、何か起きたってことなのかな…?」
「これ以上こいつにかまけている暇はねえ。後は上層部にでも任せるぞ。…おい、女。死にたくなかったら、ここの広間で大人しくしていろ。ことが終わったら、お前を回収する…いいな?」
「はい…。」
3人は先ほど女性が入ってきた扉に向かい、連絡路へと進み、アルビオンが最後に映ったB区画へと踏み入れる。
それと同時に、ノメリアの小型無線機が振動する。
「…。」
ノメリアは2人に気付かれないように耳につける。
「首尾は順調かな、ノメリア?エクスシスに無線は通じないと言われているだろうが…この研究所はウィッカーマン管轄であるが、一部私の管轄内でね。少し、細工をさせてもらっている。…ああ、答えなくていいぞ。そのまま、私の言葉を聞け。」
2人の様子を気にかけながら、1stの言葉に耳を傾ける。
「さて、君たち3人はアルビオンがいるB区画に入ったわけだが…君たちの目指すアルビオンはもういない。既に処分してある。」
ノメリアの表情が曇る。
「…どういうことだ…?」
思わず小言で呟く。ノメリアの小さな異変に気付いたエリーが訪ねる。
「どうしました、ノメリアさん?」
「…い、いや…何でもねえよ。それより、警戒を怠るな。いつ奴が現れてもおかしくないんだからよぉ。」
「そ、そうでしたね!」
「…先が思いやられるぜ…。」
エリーが警戒態勢を戻したのを見てから、無線に集中する。
「続けて大丈夫かね?…先に謝っておくが、極秘の任務なんでね。」
1stは淡々と続ける。
「さてと…重要な話だ。聞き逃さないように注意しろ。」
「まず、君たちの任務の目標の更新だ。テロ組織の新型生体兵器アルビオンの破壊からアナンタ・レーテーの撃退へと更新する。」
「アナンタ・レーテー…?」
「彼女は我がパンゲアの活躍により、B区画の中央セキュリティルームに隔離してある。君たちが目指す場所はそこだ。そして…彼女の能力だが、恐らく、君もうすうす気づいているとは思う…。」
ノメリアは先程のテロ組織の隊員を思い起こす。
「…嘘だろ…。」
「アナンタ・レーテーの能力は強制的に認知症…アルツハイマーを引き起こさせるものだ。彼女の体から解き放たれるアミロイドβ蛋白凝集体起因因子の混合物が脳細胞中に多量のアミロイドβの凝集塊を引き起こし、結果として、脳細胞が死滅してく。その起因因子に曝されれば曝されるだけ、脳細胞は破壊されアルツハイマーは進行していく。」
(とんでもねえバケモノを作ったものだな!…テロ組織の新型とは比べ物にならねぇ…!こいつ一体何を企んでやがる?)
3人はゆっくりとB区画を進んでいく。
「ノメリア、君はここまでの話を聞いて無謀なことだろうと思っているだろう?しかしながら、臆する必要はない…。君も知っている者が協力してくれる。」
「…それは楽しみだ…。」
ノメリアは苦笑いをする。
「これはエリーとブレイド…そして、アナンタ・レーテーのより詳細な実戦データを取るための実地試験だ。くれぐれも…誰一人、この任務で欠けるような結果にならないよう善処したまえ。以上だ。」
それを最後に無線は切れる。ノメリアは深いため息をつく。
「無茶を言いやがる…。野郎は俺を何だと思ってるんだ?」
「おい、ノメリアどうした?」
先に進んでいたブレイドがノメリアを気にかける。気づけば彼らとの距離が広がっていた。
「何かあったのか?」
「…済まねえ、ちょいと呆けてた。…さっきのテロ組織の奴らが気になっててな…。」
「…確かに、気になるところではあるが、今は目の前の任務じゃないのか?」
「ああ、お前さんの言う通りだ。俺としたことが、済まねえ。」
ノメリアが構え直した時、少し離れた通路の扉が開き、黒いスーツを着た男が一人現れた。
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