第15話 ホモ・エクセルサス
「ようこそ…ノメリア。最上階で、1st様がお待ちですよ。」
ニューヨークの一角に聳え立つRAS長官の高層ビル:スペンサータワーの入り口の前で、ルミネットがノメリアの到着を待っていた。
「腕は繋げてきたぜ…。一時はどうなるかと思ったがよ。」
「フフフ…。」
ルミネットが不気味に笑う。ノメリアはそれが鼻についたのか、若干いらだった声で答える。
「何笑ってやがる…?」
「いえいえ…、ただ…。」
「なんだよ?」
ルミネットは少し目を閉じた後に言う。
「いくら鍛えようとも人の体は脆く、弱弱しいな、と…思っただけですよ、ノメリア?」
ノメリアは顔をしかめる。
「…何が言いたい?」
「旧世代の人類など我々の相手ではなかった、ということです。」
ノメリアは腰からナイフを抜き前に構える。鋭く尖ったナイフの先端がルミネットを捉える。
「面白い…やってみるか?」
ルミネットは不気味な笑顔を絶やさず、くるりと後ろを向き、タワーへと入っていく。
「まずは、真実じゃないですか?…もし、ここで死んだら、今までの努力が水の泡ですよ?それに…。」
「それになんだ?」
「いや、いいでしょう…。1st様が教えてくれますよ。さあ、こちらへ。」
不服ではあるが、ルミネットに促されノメリアはタワー内部へと入る。そして、そのままエレベーターへと案内される。
「では…くれぐれも失礼のないように…。」
「手前は来ないのか?」
「『ここで待てと』…。」
「…そうかい。」
エレベーターの扉が閉まり、上へ上へと上昇していく。
ノメリアの鼓動は高まっていた。ついに、自身が追い求めていた過去、真実を知ることができると。どんな結果であれ、自分を取り戻すことができると。
眼を閉じる。依然として、鏡の前の自分の姿は見えない。しかし、そこにかかった黒いもやを払拭できるという確信が彼の心を支配していた。刻まれていた”W-24”の謎も、全て解ける。彼の口端は吊り上がり、自然と笑い声を漏らす。
エレベーターが止まる。最上階に着いた。彼は足早に1stの部屋に進み、勢い良く扉を開ける。
「待たせたな、長官殿!」
高揚しているノメリアを見た1stは彼を見るなり、席を立つ。
「やっと来たか…。」
「さあ…!俺の過去を話してもらおうか!」
「…そうせかせかするな。君をある場所へと招待したい。話はそこからだ…。」
そういうと、1stは机の下に手を回す。すると、部屋の中央が開き、小型のエレベーターが出現する。
「これは…!」
「この塔の地下にある“始まりの場所”へと通じている。」
「“始まりの場所”…?」
突然のことに呆けているノメリアをしり目に、1stは続ける。
「私の母…”LILITH”が眠る場所だ。」
「“LILITH”…だと?」
「名を出すのは初めてだ。知るはずもないし、以前の君も知ってはいない。」
「…その知らない奴が俺とどう関係あるんだ!?」
「…それは君の母でもあるからだ。」
「何…!?」
ノメリアは今までにない驚きの表情を見せる。
「…君は今、この地球を支配している人類ホモ・サピエンスではない。“LILITH”の2度目の福音を受けた進化系だ。…といっても、さほど変わらんがな。」
ノメリアは1stの言っていることが理解できなかった。確かに、自分は普通の人間とは違う。それは分かっていた。自分は生体兵器、改造人間、当たり前だが普通の人間ではない。しかし、元は同じものだと思っていた。…その全てが否定されたのだ。
「…冗談だろ?俺は…人間じゃないのか…?」
「そう落胆するな…君は“LILITH”に選ばれた存在なのだ。」
「……何だよ…“LILITH”ってなんだよ!?2度目の福音を受けた進化系だと!?意味が分からねえよ!!」
予想の斜め上の発言に、ノメリアは対応できなかった。1stはノメリアが少々落ち着くのを待ってから、口を開いた。
「この地球上の人類を含む、ほぼすべての生物は“LILITH”の福音を1度だけ受けた生き残りだ。カンブリア紀の大爆発…多種多様な生物が一気に出現した原因は彼女にある。…彼女こそが多くの生命体に進化を促したのだ。」
「…何を言って…。」
「我々は“Queen”と同じ、2度目の感染によって生まれた。しかし、我々は”Queen”という出来損ないとは違う、適合体だ。そして、ホモ・サピエンスに代わってこの地球を支配する新たな種族…。」
「ホモ・エクセルサスなのだ。」
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