第13話 異常事態発生

 ウィッカーマン管轄第3ベルン研究所

「や、やめてくれ!頼む!」

「やれ」


 涙ながらに懇願する研究員を問答無用で撃ち殺すテロ組織の部隊。彼らは顔に黒いガスマスクをつけており、基本的にはアサルトライフルを背中に背負い、拳銃を一丁持った軽装備である。彼らは3~4人の小部隊を3つ展開させて、研究所内を回り、出会った研究員や警備員、そして、専属部隊を銃殺している。

「こちらα。アルビオンの調子はどうだ?」

「良好です。A-1区画に放たれた防護用の生体兵器を一掃しました。」

「いいぞ…そのまま、B-4区画に向かえ。γ部隊が苦戦している。」

「了解。」


 男が無線を切ると、女性隊員が部屋から飛び出してくる。

「隊長!ありました!」

「やったか…今行く。」


 テロ組織の隊長は首を振って部下に合図し、女性隊員が入っていった部屋へと入る。部下は扉の前に立ち、見張りをする。

 部屋の中には大きなモニターが壁に3台付いており、その下には操作盤があり、この研究所のメインコンピュータにアクセスしている。女性隊員がボタンを入力すると、モニターにフォルダが表示され、その中からいくつかのファイルが出てくる。その中にある“Palingenesia”という名のファイルにアクセスすると、パスコード入力画面が表示される。

 女性隊員はアクセスチューナーを取り出し、機械に接続する。いくつかの操作をすると、それにパスコードの番号が表示され、その通りに彼女は番号を入力していく。すると、パスコードの認証が完了し、ファイルのアクセス制限が解除される。

 ファイルを展開すると、4つの名前が表示される。

「…もっと手間取るかと思ったが、さすがは私の部下だ」

「どれを見ます?」

「…ファイルのダウンロードはしているな?」

「勿論です!」

「…一つだけ見ようか。一番気になった…フッ…考えていることは同じか…。」


 隊長はこくりと頷き、それを見た女性隊員はボタンを入力する。

 ファイルが開く。





――――

―――――

――――――


―――人は皆、自身の存在の忘却を恐れている。

 いずれ、忘れ去られるとわかっていながらも、いつしかその無になることを恐れている。

 そのためか、人は死後の世界を信じている。自身の存在を後世へと残したがる。

 恐れているのだ、忘却を…無へと帰ることを…。

 死を恐れるのは痛みではない。築き上げた記憶…自身を忘れてしまうことだ。


 …人は夢を見る。永遠の生を…。

 …でも、私は怖い。その永遠が…。輪廻が。回り続けるメビウスの輪が。

 永遠の繰り返しが怖いのだ。

 私は…完全な死を迎えたい。

 誰からも忘れ去られ…。

 自身の存在をこの世から、全て消し去りたい。

 誰かが私を認識していてはいけない。

 だって、その人の中で生き続けてしまうから。

 私はその人の記憶の中で、同じ時を繰り返す。


 その人が、私のことを誰かに話せば…。

 私は別の私になって、その誰かの頭の中で生まれてしまう。

 また、その人が誰かに…。


 嫌だ…私は嫌だ。

 でも、誰が私のことを知っているのか。

 誰が覚えているのか。

 …それはわからない。

 もしかしたら、すぐに終わるかもしれない。でも…。

 この永遠とも思える円環の生を終わらせるには…。



 この世のすべてから私を忘却させればいい。



―――――――

――――――

―――――





 モニターを見つめたまま、呆然とするテロ組織の隊長とその部下である女性隊員。彼は手で顔を覆い、深いため息をついた。

「…言葉にできない…。奴らは、我々の予想をはるかに上回っている…。」

「隊長…。」

「しかし、この情報を得ることができたのは大きい。…それに頃合いだ。ずらかる…。」


 その時、研究所内にけたたましいサイレンが鳴り響き、赤い非常灯のランプが勢い良く光り、点滅する。すると、モニターが真っ赤になり、そこに白い文字が浮き上がりゆっくりと点滅する。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

プロトコル-エクセルサス パスコード:*************

アクセス認証………

パンゲアの権限により、施設外に通じる全てのドアを強制ロックします。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「な、なんだこれは!?」

「隊長!外に通じる全てのドアが緊急防護用のドアでロックされました!」

「どういうことだ、これは!?」

 

 隊長の無線に連絡が入る。彼はすぐに無線を取る。

「こちらγ!隊長、異常事態発生です!突然、サイレンが鳴り、非常ランプが点滅しています!」

「こっちもだ!外に通じる全てのドアが、分厚い鋼鉄の防護用ドアで強制ロックされた…!。不味いことが起きたかもしれない!警戒しろ!」

「こちらβ!隊長、緊急事態です!」

 

 別の隊から無線が入る。その声から、かなり焦っていることが感じ取れる。

「何が起きた!?」

「そ、それが…アルビオンが突然のこの事態に驚き…我々の手を離れてしまいました…。」

「な…!?一体何をしてたんだ、お前たちは!!この間抜けが!!」

「す、すみません!」

「すぐに、捜索し確保しろ!!いいな!!?」

「は、はい!!」

 

 隊長は乱暴に無線を切り、操作盤に両手をつきうな垂れる。そこに見張りをしていた部下がやってくる。

「隊長、これは一体!?」

「黙れ!!」

 

 隊長がそう怒鳴った瞬間、モニターに文字が表記される。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

シークレットコード:**************

Palingenesia No. 3

起動……アナンタ・レーテー

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 その画面を見たテロ組織の隊長と女性隊員は青ざめる。

「う、嘘だろ…?ま、まさか、この研究所に…」

「隊長、何が起きてるんですか!?話してくださいよ!」

「話は後だ!すぐにここから脱出するぞ!」


 隊長は無線を取り出す。

「おい、β!確か小型の爆弾を持っていたよな!?」

「は、はい!5個ほど用意してあります!」

「よし!今どこに居る!?γ、お前たちもだ!一番近いドアから出るぞ!」

「こちらγ!今は…B-3区画にいます!」

「こちらβ!こっちはA-4区画に居ます!」

「そうか…俺たちはD-8区画だ!3隊が一番近いのは…C-8区画の連絡通路の非常ドアになる!10分後に落ちあうぞ!」

「しかし、隊長!アルビオンが…」

「そいつはもういい!損失はでかいが、死んだら元も子もねえ!!」

「は、はい!了解しました!」

 

 隊長は無線をすぐに切り、手で合図する。それを見た隊員はすぐに警戒態勢に入り、銃を構えながら進んでいく。

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