第9話 任務終了

「…くそ!何なのこの子!?」


アリアの放つ銃弾を先読みしたかのように、華麗にかわしていくリプリカ。微細な筋肉の動きを読む彼女には銃弾の飛んでくる方向は、手に取るようにわかる。

「未来予知でもできるっていうの⁉」

「…そうかもね」


間合いを詰めたリプリカは触手でアリアを切り裂く。すんでのところでアリアはリプリカの触手を躱し、切り裂かれた服の破片が宙を舞う。

「く…そ…!」


アリアは無意識に、瞬時に、ナイフを引き抜き、リプリカを牽制するためにナイフを振る。アリアの無意識の攻撃に対応できなかったリプリカは、躱しきることができずに、ナイフの先端2ミリ程度が頬を切り裂いた。

「…チッ」

「当たった…?」

「ぎゃああああああああ!!!」


突然悲鳴が上がり、二人はその方向に振り向く。そこには、ノメリアとエリリンがいた。エリリンの右胸にはノメリアが突き刺したナイフが先端をのぞかせており、彼は彼女にナイフを突き刺したまま体を持ちあげていた。

「エリリン!!」

「リプリカ…痛い…痛いよぉ…」


エリリンは弱弱しく、リプリカに訴える。右の肺を潰され、苦しそうな表所を浮かべている。

「これ以上、時間をかけるわけにもいかなねえ。あまり好きなやり方じゃあないが、仕方ねえ。リプリカ…それ以上抵抗するなら、あー、助けることはないが、これ以上ない苦痛を与えてから殺す。」

「…くそ…」

「大人しく死ぬなら、こいつも楽に殺してやる…痛みを感じないようにな?」

「…リプリカ…逃げ…て。」

「エリリン…」

「さあ、どうする?」


リプリカは銃を構えているアリアに目をやる。アリアはリプリカを見失わないようにしっかりと照準を合わせている。

「…どうしろと言われても…」

「時は金なりだ。早くしろ、こいつの右腕を引き千切るぞ?」

「リプリカ…」

「どうして…どうして、私たちは死ななければならないのよ!。勝手に作っていて、用がなくなったら殺すなんて!。貴方たちは悪魔よ!!」


感情に乏しいリプリカが目に涙を浮かべて、怒りを露わにする。それを見たノメリアは、彼女を鼻で笑い、答えた。

「ふふ、生き残るためにここの研究員を殺しといてよく言うな」

「それは…。あいつらを殺さなければ私たちが殺されるからよ!仕方なかったのよ!」

「そうか…ならば、俺もお前たちを殺さなければ、任務失敗ということで処分されてしまう…仕方ないよなぁ?」

「…く!」

「結局どんな正論を吐こうが、それが正しい、悪いなんてことは重要じゃない。わかるか?つまるところ、強いものが勝ち、弱いものが負ける。勝ったほうが正義、負けたほうが悪だ。お前らは俺より弱かった、だから殺される。ここで生き残った俺が正義で、お前らは研究員を惨殺した化け物として処理される、それだけだ。」

「…そんなの間違ってる!!」

「何にも間違ってないさ~。そもそもの発端は何だと思う?うん?なあ、リプリカ?」

「パパが…パパが…私たちを殺そうとしたからよ…。私たちはもう…パパの研究には用無しだから…!」


リプリカは歯を食いしばり、拳を握り締める。

「そうだな。確かに、お前たちはこの研究に大いに貢献し、それとともに不必要なものとなった。ただし、それはファーストにとってだけだ。赤髪はお前たちを必要としていた。」

「…パパは…私たちを?」

「…ファースト…?」

「…ノメリア、ファーストって誰よ?」


ノメリアは彼女らを見て、ニヤリと笑う。

「ただのコードネームさ。お前らの知らなくていい人物。…まあ、とにもかくにも、今は亡きお前らの仲間にも話したが…、ことの発端はお前らの勘違いによって起きたもんだ。一度言ったから、簡潔に言おうか。赤髪はお前らを殺すつもりはなかった、寧ろ、守っていた。お前らを殺そうとしていたのは、ファーストだ、赤髪じゃあない。」

「…嘘…」

「そ、そんなウソに騙され…」

ノメリアはポケットから、ロケットペンダントを2つ取り出し、ロケットに入っている写真を見せる。

「そ、それは…?」

「赤髪からお前らへの誕生日プレゼントだ。」

「そ…んな…」

「パパ…パパ…」

リプリカは呆然とし、膝を落とす。エリリンは俯き涙を流し、体を震わせる。

「…悲しい結末ね…」

「ゲームオーバーだ…やれ、アリア」


アリアは引き金を引き、リプリカの頭に銃弾を撃ち込む。銃弾はリプリカの頭に命中し、彼女はそのまま地面に倒れ、絶命する。

ノメリアはエリリンの首元をナイフで掻っ切り、絶命させる。そののち、彼女らの遺体の傍にロケットペンダントを投げ供える。

「…意外と優しいところがあるのね?」

「俺は悪魔じゃねえからな…」


リプリカとエリリンの遺体を見るアリア。

「…可哀そうね、彼女たち…勘違いとはいえ、こんなことになるなんて…」

「全てが終わったような口ぶりだな、アリア?…まだ、終わっちゃあねえぞ?」


ノメリアは血の付いたナイフをコートで拭い、辺りを警戒する。

「…どうしたの?」

「向こうを見ろ…」


アリアはノメリアが見つめる先を見る。そこにはQueen達が先ほど入ってきた大きな扉があり、半分ほど開いている。

「…数分前に見たときは、あの扉は閉まっていた。」

「…まさか…」

「…フフフ…、ちゃんと閉めとけばよかったかな」


建物の影から、先ほど殺傷した生体兵器の体液にまみれたリリムが姿を現した。彼女はにやにやと笑みを浮かべ、二人を見つめる。その不気味な笑顔にアリアは背筋を凍らせる。

「にやにやと…何かいいことでもあったのか?」

「ええ、もちろん。…これで私は、正真正銘の女王となることができたの。…あなた達には感謝しているわ…」

「…そうかい、それはよかったな?それで、お礼として何をしてくれるんだ?」

「そうねえ…」


リリムは顎に指をあて、少し悩んだ後、ノメリアの方を向いて優しく微笑む。

「私のために、死なせてあげる」

「そうかい…そんなお礼は受け取れないな…アリア、撃て!」

「わかっ…!」


アリアはリリムに銃を向けるも、その先の行動を行わない。彼女の体にはすでに、リリムが放った触手に絡み取られていた。

「早く、撃て、アリア!」

「動かないのよ!体が…触手が絡みついて動かないの!」

「フフフ…無駄よ、一般市民が女王に逆らうことはできないのよ?」

「予想通り過ぎて、つまんねえな、おい!」


ノメリアは内ポケットに隠してあった拳銃を取り出し、リリムに銃口を向ける。その瞬間、建物の中から、複数の触手が這い出し、彼の腕に絡みつき彼女から照準をそらす。

「くそが!」

「無駄よ、無駄無駄…。貴方は私に撃つことは…」


ノメリアは引き金を引き、リリムの右肩を撃ち抜く。

「…な…何で…?」


不可解な出来事に、リリムは右肩の痛みを忘れ、ノメリアを見つめる。彼の腕は、リリムの放つ触手の幻覚に抗い、震えながらであるが銃口をリリムに向けようとしていた。

「ふ…く…!な、何が、無駄だと?俺をなめるなよ!!」

「まさか、こいつ…私たちと…!」


ノメリアはナイフを取り出し、巻き付いた触手を切り裂く。幻影の触手は地面へと落ちて消え、彼を拘束から解放する。彼は素早く、銃口をリリムに向け、引き金を引く。

リリムは素早く、建物の影に隠れ銃弾を躱す。

「楽に殺せると思ったのに…残念。」

「か…体が…!ノメリア、逃げて!」


ノメリアに銃口を向け、アリアは引き金を引き銃弾を放つ。ノメリアはすぐにそれを察知し、建物の影に身を隠す。彼女の足はノメリアの隠れた建物へと向かう。

「くそ…!くそ!!何なのよ、これは!?」

「フフフ…貴方は私の意のままに動く、兵隊アリよ~。さあ、その男を殺しなさい。」

「この卑怯者!」

「口のきき方には気を付けたほうがいいわよ?私がちょっと機嫌を損ねれば、貴女はお仲間と同じような姿になるんだから」

「…!この…!」

「ちょうどいいな。これで、後味悪くせずに殺すことができる…」


建物の影から飛び出したノメリアは、勢いよくアリアへとつめより、その腹部にナイフを突き刺し右横に切り裂いた。

「ノ…ノメリア…。な…」

「こっちにとっちゃあ好都合だ。そもそも、俺の任務はこの研究所にいる人物全員の抹消だからな。」


アリアは地面に膝をつき、切り裂かれた腹部を押さえてうなだれる。視界がかすみ、意識が遠のきつつあった。白濁していく意識の中で、彼女はノメリアに訴えかけた。

「わ…私たちの救援に来たんじゃ…。」

「すまねえな、あれは嘘だ。」

「…く…最初から、私たちを…」

「ああ、そうだ。もういいから、とっとと死ね。」


ノメリアは拳銃でアリアの頭を撃ち抜く。彼女の意識は途絶え、そのまま地面に倒れる。

「フフフ、貴方って最低な男ね?」

「最低で結構、俺には俺の目的があるんでな…そのためになら、手段を選ばん。お前もここで死んでもらう。」

「死ぬのは貴方よ?あなたは私のために死ぬの!」


リリムがそう言い放った瞬間、あちこちから触手がノメリアめがけて飛び出してくる。ノメリアはナイフでそれを切り落としながら、リリムへと接近する。

「やっぱり貴方も、死んだの子たちと同じように抵抗性があるみたいね!」

「抵抗性だと?」


リリムは地面をけり上げ、猛スピードでノメリアに詰め寄り、掌打を放つ。ノメリアはとっさにそれを防ぐも、あまりの威力に後方へ数メートル吹き飛ばされ、建物に体を強打する。

「ぐ…!な、なんてバカ力だ…!」


そこにすかさず触手が襲い掛かるも、ノメリアはすぐに体勢を元に戻し、それを躱し、建物の影へと身を隠す。

「隠れても無駄よ?ここの空間はもう私のテリトリーなんだから!」

 

再び触手が現れ、ノメリアに襲い掛かる。

「クソッタレが!」


ノメリアはリリム向けて銃弾を放ちながら、建物から建物へと触手を躱しつつ、移動していく。銃弾はリリムの右腕、右足に命中する。

「っ…よくも…やったわね」


しかし、リリムの受けた傷はすぐに塞がっていき、先ほどの肩の傷ももう完治していた。

「やろう…、さっきの奴らと違って、傷の治りが早すぎる…。狙うなら、内臓か…。しかし、触手が厄介だな…。…仕方ない…、俺も腹をくくるか。」


リリムはノメリアの逃げたほうに向かいゆっくりと歩いていく。彼女の顔は若干いらだっていた。

「…抵抗性があるなんて…面倒だわ。それに加えて、戦うことにかなり慣れている。…も~…!!早く、私のために死んでよお!!」


リリムがそう叫んだ瞬間、ノメリアが飛び出し、彼女にナイフを振るう。

「チッ!やってくれるわね!」

「動くと、楽に死ねないぞ?」


ノメリアのナイフ捌きをリリムは躱し、隙をついて彼に強力な手刀を放つ。その手刀はノメリアの右腕を切断した。

「があああああ!!」

「フフフ…」


ノメリアは腕を切られた衝撃で、のけぞる。彼の右腕は宙をくるくると舞い、辺りに血の雨を降らす。

しかし、ノメリアは踏ん張り、左手に携えたナイフを猛スピードでリリムへと放つ。完全に油断していたリリムは、防御態勢を取るも、彼の反撃に対応できず、腹部を深く切り裂かれる。

「おのれええええええ!!」


リリムが腹部を押さえて、ノメリアを睨むも、彼はすぐに彼女に詰め寄り、押さえていた腕ごと、力いっぱいに腹部に受かってナイフを突き刺す。

「あああああああああ!!!」

「ダメだぜ?相手を殺してもいないのに、勝利を確信しちゃよ?」


 ノメリアはナイフを引き抜き、素早くリリムから離れる。リリムは腹部を押さえて、膝をつき、荒い息をしながら、彼を睨みつける。

「くそ…くそ…くそおおおお!!どうして!!どうして!!!私のために死んでくれないの⁉どうして!!!どうしてえええ!!!」

「誰がお前のためなんかで死ぬかよ…」


 ノメリアは自分の腕を拾いコートで包む。上着を脱いで、それを止血用の布として切断された腕に巻きつける。

 リリムが俯き、肩を震わせてくすくすと笑いだす。すると、建物の影から触手がずるずると這い出して来る。

「こいつ…まだ…」

「…フフフフ…一人で死にたくなんかない…私のために、一緒に死ん…」


 銃声とともにリリムの額に風穴があく。彼女は不気味な笑顔のまま倒れて、絶命する。

「任務達成だな…。とりあえず、急ぐか。まだ、腕は繋がる。」


 ノメリアは駆け足でこの場を去る。




「私だ…。ノメリアか。この電話が来たということは、成功したということだな?」

「ええ…、しかし、酷いですね、長官殿も。ナンバー不在の”Queen”がいるなら、言ってくれればいいのによ…」

「伝える必要がないと判断したまでさ。…たかがそんなことで、君が失敗するとは考えていなかったからな。」

「そもそも、あれは何なんです?他の“Queen”とは全く性質が違う。」

「フフフ、それは後程話そう。君の過去を話すついでにな?」

「…それで、俺の過去は?」

「電話で話すのもなんだ、ちゃんとした場所で話したい…。まずは、腕を繋げろ。話はそれからだ。それを終えたら、私の元に来い。」

「…了解しましたよ、長官殿。」

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