第5話

【自由帳】


 怖い。

 恐ろしい。

 あいつが恐ろしい。


 何で?

 

 何で、あいつが目の前に現れたの?

 何で、あのひととの関係を聞くの?

 何で、私の自由帳を見ていたの?


 親友だよね?

 裏切ったりしないよね?

 余計なことしないよね?


 自由帳の隠し場所、変えなくちゃ。


 いや、そんなことはしなくても良い。

 私は、人殺しだもん。一人前の、立派な殺人鬼。


 どうせ、これも見てるんでしょ?

 まあ、良いでしょう。


 どうせ、死ぬんだもん。


 〈殺した人〉 → 私の家族



      *



 翌朝。

 いつも通り、僕は早めに教室に着いた。

 いつもの面子、適当な挨拶、変わり映えの無い普段通りの景色。

 昨晩はあまりよく寝れなかった。

 しかし、その分、よく考えることが出来た。与田と橋本さん、二人の恋愛を応援しようと。

 そうだ。

 よく考えれば、橋本さんと僕が付き合うことなど、あり得ないことなのだ。橋本さんと僕とでは、とてもじゃないが釣り合わない。

 ただ、僕が与田に変わることで、釣り合う。お似合いだ……。

 それに、二人が付き合い始めたことを察して以来、僕が与田を恨むことは一度も無かった。

 ただ、それほどに与田夜一という人間の完成度が高いということだ。


 その時、スマホが一件のメッセージを受信したことを僕に知らせる。

 僕は慣れた操作でそのメッセージを画面に表示させた。


《悪い。今日学校行けそうもねえ。先生に体調不良と知らせてくれ》


 珍しい。

 与田が学校を休むなんて、ちょっとした一大事だ。

 僕は、


《大丈夫か? 僕に出来ることがあれば何でも言えよ》


 と返信した。

 すると、既読がついて、数十秒の間を置いて返事が返って来た。


《授業のノートとっといてくれよ。だから、寝ずに授業受けろよw》


 余計なお世話だ。

 しかし、与田らしい。


《了解》


 すぐに既読がついた。

 それを確認すると、僕は教室の正面の時計を見た。朝のホームルームまで、まだ時間がある。


 まあ、寝ておくか……。

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