第百二話:星月乙姫の場合。


「まったくお主がいないと暇でしゃーないのじゃ。なんならぱぱっと治してやってもよいのじゃぞ?」



 白雪が俺が寝ている病室まで来てそんな事を言う。



 結果を言うと、あの時殴られた影響、特にハニーと咲耶ちゃんので俺は骨が数本いってしまっていた。



 その場で意識を失った俺はここに担ぎこまれた訳だが…以前途中で逃げ出した事もあって厳重に注意されてしまいどうしたものかと数日大人しくベッドに横たわっているわけである。



「治してもらえるならありがたいけどよ、結局それも俺の負債になるんだろ…?だとすると悩んじまうよな…」



「それはそうじゃ。だがまぁそこまで心配するほどでもないぞ?一応捕らえられていた間もお主との契約は切れていなかった故にな、エネルギー自体はこちらにも流れてきておったわ。何かと心乱されるような事があったとみえるのう」



 ど、どれの事だろう。



 アルタが家に泊まるとか言い出した事か?それともその夜の事か?いやいや白雪を助けるために潜入作戦をするとなったからだろう。そうであれ。



「まぁどっちにしてもあと一週間くらいで退院自体はできるっぽいから少し休む事にするよ。なんかいろいろあって疲れちまった」



 あれから毎日のように皆がお見舞いに来てくれる。そういうのもなんだか悪くないというか、嬉しい。



 元気になったらまたいろいろ騒ぎが起きて大変な日々が続いていくのだろうから、今くらいはゆっくり休ませてほしいのだ。




 ちなみにあの施設にいた人間は御伽家が全て追い出し、完全に埋め立ててしまったらしい。



 その地上の土地が御伽家の物になった以上どうするも御伽家の自由なのだろう。



 そして地上の方はというと、何やら用途はわからないが建設を始めるとの事である。



 娯楽施設なのか商業施設なのか…どちらにせよわざわざあんな所を買い取らせてしまった以上何か使い道がないと申し訳がないところだったのでよかったと思う。



 そして、有栖が見舞いに来た時に聞いたのだがあのプロの風呂掃除の人は御伽家の執事見習いとして雇う事になったのだそうだ。



 さぞかし風呂が綺麗になる事だろう。




 咲耶ちゃんも担任として、という名目で見舞いに来てくれた。個人的には別の理由で来てもらいたかったものだが。



 ただ、咲耶ちゃんは俺の骨を砕いた事など何も気にしていないようだったのでそれはもう少し気にしていただきたい。



 逆に言えばおかげでこうやってのんびり出来ていると言えなくもないが、身動き取れないのはやっぱり楽しさ激減である。



 まぁしおらしくなってる咲耶ちゃんなど見たくはないのでいつもの通り口が悪くて明るい我らが教師でいてくれるのは有り難い。



 ハニーは咲耶ちゃんと違い、見舞いに来るなり謝りっぱなしだった。



 俺がもういいから、と言っても涙目でごめんね。の繰り返し。こっちが悪いような気になってくる。



 俺が何かしただろうか?と。



 俺の事だから気付かないうちにハニーに対して失礼な事や嫌がる事をしていた可能性もあるのでなんとも言えないが、純粋にハニーが俺の事を心配してくれているんだというのが解って嬉しい。




 これからもずっといい相棒でいてくれよ。なんて声をかけたら物凄い力でむぎゅっとされてまた骨が折れるかと思った。




 ハニーはハニーらしくいつもの可愛い幼馴染に戻っていただきたいものだ。



 そして泡海だが…礼のデータの一部を別のSDカードに入れて持ってきてくれた。



 半分冗談だと思っていたので逆に受け取る際ぎこちなくなってしまった。



 それはともかく、俺は彼女に別れを切り出されてしまう。



 勿論さよならという意味ではなく、仮の恋人を解消しようという意味だ。



 まぁお互いこれ以上無意味に恋人ぶる意味は無い。もともと泡海はあの支部長に命令されて俺に近づいた訳だし



 たださ、なんていうか別にどうでもいい事だったのに実際私達別れましょなんて言われると意外と傷つく。




 もっと付き合っていたかったとかその先の関係になりたかったとかそういうんじゃないんだ。そういうんじゃないんだよ。だけどさ、なんか俺フラれたみたいになってんじゃん。



 それがつらい。




 そして泡海が帰ってからわくわくそわそわのデータ確認の時間。



 俺の期待通りというか有栖の画像から始まったわけだ。狂喜乱舞しそうになったね。あの続きが見たいと思っていたまさにそこの画像が俺の手元にきたわけよ。



 でだ、有栖にお詫びをしながら数枚画像を見ていくとどうだ。



 有栖はほんの2枚程度しかなく、その先はただ遠めに誰かが写っているだけだったり、誰もいないロッカーの写真だったりする。



 完全に騙された。



 しばらく人を信じられなくなりそうだったよ。



 でも、どうせこんなオチだろうとは思ってたけど…それでも。それでもどこかで期待してたんだよぉぉぉぉぉ!!




 その晩俺の病室の枕はいつもより湿った匂いがした。


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