第九十三話:打開策。


 少しでもこの状況を打開できる方法を考えるしかないのだ。


 …とは言ったものの…


 一体全体何をどうしたものか…



 机の影から少しだけ顔を出して様子を観察する。



 白雪の動きにどこか隙はないか。




 …無理だ。白雪は常に必要最低限の動きで行動していて、しかも攻撃も防御も範囲が広すぎる。



 白雪をどうにか撃破して先に進むっていうのは無理がありすぎる。




 ならどうする。考えろ…。



 何かないか?意外とどうでも良いような事が打開策になるかもしれない。



 たとえば、悪魔や天使が能力を行使する為には契約者からのエネルギー供給が必要な筈だ。




 …あれ?だとしたらハニーは一体どこからそのエネルギーを捻出しているんだ?まさか自分自身からなのか?



 ハニーを見てみると攻撃を防ぎつつ攻撃に転じているその顔は若干顔色が悪いように見えた。



 疲れているだけかもしれない。だけど、もしそれが寿命というエネルギーを消費して戦っているのなら…



 それこそ戦闘を長引かせるわけにはいかない。そこまでの犠牲を払わせちゃいけない。




 …待てよ?じゃあ今の白雪はどこからエネルギーを吸い上げてるんだ?



 これだけの攻撃を繰り返し二人の攻撃を受け続けているなら相当量の消費がある筈だ。



 だとしたら…俺って事はない。



 俺だとしたら遊園地の時点でもう限界ギリギリだったしそもそも負債額が半端無い。その場合白雪自身の力を使い続けている事になって存在自体怪しくなってしまうだろう。



 ならば、考えられるのは無理矢理契約をしている支部長から…




 それだったらこのまま耐え続ければ支部長の限界が来て…




 いや、そう決め付けるのは早計だろう。



 もしかしたら重複契約で俺と支部長の両方から吸い上げている可能性もある。



 その場合仮に耐え続けたとしても支部長と俺が共倒れである。



 さすがにそれはまずい。



 どうにもならない場合の最終手段としては有りかもしれないが…。




 …重複契約?





 もしかしたらいけるかもしれない。



 こうなったら一か八か賭けてみるしかない。




「ハニー!咲耶ちゃん!少しだけで良いから白雪の攻撃から俺を守ってくれ!」



「何か考えがあるのか?」



「おとちゃんのやる事なら全力で力になるんだよ!」



「ありがとう」



 二人に小さく呟いて、心の中でカウントする。





 3





 2





 1





「GO!」





 机の影から飛び出て全速力で白雪の方へ走る。



 すぐ目の前なのに遠い。





「お主…やめるのじゃ。死ぬぞ」



 一瞬白雪が顔をしかめるが、その手は俺の方に向けられ目の前に大きな氷柱が現れる。



「うぉりゃぁぁぁぁぁあ!!」



 横から咲耶ちゃんが思い切り氷柱を殴りつけて粉々にする。が、それと同時に今度は咲耶ちゃんに向かって圧縮された空気のような物が襲い掛かり彼女を吹き飛ばす。



「咲耶ちゃん!」



「構うないけぇぇぇ!!」



 後ろに吹き飛ばされながら咲耶ちゃんが叫ぶ。



 白雪までもう少し!



 俺の考えが正しければいけるはずだ。だが、チャンスは一瞬だろう。



 だからギリギリまで…。



「お主本当に死ぬぞ!早く逃げんかっ!」



 白雪が珍しく焦ったような声をあげた。



 でも、止まるわけには…いかないっ!



「馬鹿者がっ!」



 咲耶ちゃんを吹き飛ばしたあの圧縮された空気のような物が俺に向かって放たれた。



 それをハニーがあの透明な防壁を展開して背後に受け流す。



「おとちゃん、今なんだよっ!」



「サンキューハニー!!」



 そのまま俺は白雪の目の前まで迫る。



 白雪が引きつった顔で自分の手をもう片方の手で押さえようとしている。



 あの白雪が俺を傷付けないように命令に逆らおうとしているのだ。



 だが、契約者からの命令に逆らいきれず俺に向かってもう一発の圧縮空気が放たれようとした、その時。






 ここだ!!






「白雪!止まれ!」





「ぬおっ!?」





 一瞬、ほんの一瞬だけ白雪の動きが固まる。



 その隙にそのまま白雪の横を転がるように駆け抜ける。




 …が、間に合わない。



 白雪が体制を整え次弾を俺に向けて発射しようとしたその時。






「ちょっとこんなに深いとか聞いてないわよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」






 どぐぉぉぉぉん






 白雪のちょうど真上あたりの天井にぽっかりと大きな穴が開いて、白雪に




 アルタが降ってきた。





 !?






「よく解らんが助かったぞアルタ!」 


 俺の目指す場所はただ一つ。



 そこで蹲っている支部長のその顔面だ。




「くっ…らえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」




 支部長は、まさか自分に攻撃が通るとは思っていなかったようで「えっ」と間抜けな声を上げてこちらを向いた。



 ちょうど、俺の膝より少し下くらいの位置だ。



 それを、その顎を





 思い切り蹴り上げた。






 宙に浮いた奴の顔を思い切り地面に殴りつける。






 …今までの喧騒が嘘のように静まり返った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る