第九十二話:VS白雪。


 咲耶ちゃんやハニーの様に力なんかない。アルタみたいな行動力もない。泡海の様な決断力もなければいばらの様に何かに対して命をかけるほどの情熱もない。多野中さんの様な冷静さや大人の余裕もない何もない人間だ。有栖は…えーっと。まぁそれはいい。



 そんな何もない俺だけど、白雪に白雪と名前を付けたのは俺だ。奴のわがままや行動に責任を持つ義務がある。あいつがやりたいように(ほどほどにしてほしいが)思い切りこの世を楽しむのを見届ける責任がある、誰にも邪魔させたくはない。




「ところで…そろそろ準備はできたかえ?」



 白雪が怪しげにこちらに向かって微笑む。



「あちらさん思いっきりやる気じゃねぇか…さすがに悪魔相手にすんのは初めてだぜ…」



 咲耶ちゃんが見た事の無い鬼の形相で白雪を睨む。



「ふはははは!貴様らもこれまでだ。むしろ貴様らだけじゃない。もはや世界は私の思うがまま!もうボスの言いなりになる必要すらなくなった!」



 支部長が後ろで騒いでいるが、相変わらず折れた腕が痛いらしく軽く涙目である。




「勘違いするなよ?わらわはお主を契約者とは認めておらん。わらわの契約者は目の前におるあの小僧だけよ」



 …白雪?



「お前操られてるわけじゃないのか?」



「わらわはわらわじゃよ。こんな面倒な事終わらせて早くお主で遊びたいのじゃが…どうにもこうにも自由がきかんのじゃ。早くなんかせい」



 なんとかせい言われてもなぁ…。これならいっそ操られてて敵対心むき出しにされたほうがまだやりやすいぜ…。




「貴様の意思などどうでもいい!要はお前が道具として私の力になればいいのだ!手始めにこの折れた腕を治してもらおう!」



 白雪は心底嫌そうな顔をしながら片手をふわふわと振った。



 すると、とたんに変な方向に曲がっていた支部長の腕がまっすぐに戻る。



「お、おぉ…!これが悪魔の力か…素晴らしい。素晴らしいぞ!」



「うるさいのう…早くこいつをなんとかしてほしいのじゃが…」



 やっぱり白雪の意思とは無関係に力を使わされているようだ。



「おい、あたしは小難しく考えるのは苦手だし戦う事しか能が無い。だからこうするしかできねぇけど悪く思うなよな!」



 咲耶ちゃんが俺にそういい残し白雪に殴りかかる。



 しゅごっと空気を切るような音で咲耶ちゃんの拳が白雪の顔面を捉えるが、一瞬早く支部長からの命が飛ぶ。



「あの攻撃を防いで私を守れ!」



 咲耶ちゃんの拳は白雪に掴まれて勢いを失っていた。



「うっそだろすげー!」



 何故かテンションがあがる咲耶ちゃん。



 その背後からハニーの飛び蹴りが支部長めがけて飛ぶが、「あ、あいつのも防げ!」その一言で白雪が軽く手を上から下に振り下ろし、支部長の前に透明な壁が現れ攻撃を弾き返す。



 畜生。こんなのどうしろっていうんだ!



「えぇい面倒だ!私に向けられた攻撃は全て防ぎつつあいつ等を無力化しろ!」



「あー。まずいのう。とうとう攻撃まで命じられてしもうた。すまぬが手加減はできんぞ」



 白雪が目の前に手をかざし、小さな声で何かを呟くと、どこからともなく空中に大きな氷の氷柱が出現した。



「おとちゃん下がってて!」




 情けない。俺は何も出来ずにハニーと咲耶ちゃんの後ろに下がる。



 巨大氷柱は勢い良くこちらに放たれたが、ハニーがそれを受け止め、その間に咲耶ちゃんが粉砕する。



 見事としか言い様がないがお前らほんとに何者だよ!



「見事としか言い様がないのう。お主らいったい何者なんじゃ」



 白雪が大体俺と同じ事を言う。



 まぁ誰が見てもこの状況はそんな感想しか出てこないだろう。




「次はこれじゃ」



 今度は先程の半分もないようなサイズの氷柱が空中に無数に現れた。



「質より数で押してみようかの」



 無表情な白雪だったが、だんだんとその表情は笑みに包まれていく。



 あいつこの状況すら楽しんでやがるな。



 確かに白雪が「こんな事したくないのにっ!」とか言い出したら俺は吹き出してしまうだろう。



 あいつはこういう奴だからいいのだ。



 しかしほんとに打開策が見えない。



「いくぞ。心して受けよ」



 二人目掛けて無数の氷柱が襲い掛かる。



「天使のクォーター舐めないでほしいんだよ!」



 なにそれ初耳なんですけど!?



 氷柱を、ハニーが見えない壁を展開して守りきった。



「なんじゃそれは。天使のクォーターと言ったか?まさかそんな面白存在だったとは思わなかったのじゃ。これは楽しくなってきたのう」



 よく解らないがとにかくハニーは天使と人間のクォーターらしい。四分の一っていうのはそういう意味だったのか。



 さらに戦闘に楽しみを見出した白雪の攻撃は激化していく。



 それに引き換えその力に恐れをなしたのか白雪の背後で支部長は頭を抱えて蹲っていた。



「はやく、早くしとめろぉぉぉ!!」



「うるさいのう…しかしこれ以上このまま続けている訳にもいかないしのう。どうしたものか」




 そういう間にも白雪は攻撃を続け、それをハニーと咲耶ちゃんがことごとく打ち砕き、かわし、攻撃を仕掛けては防がれる。それを繰り返していた。



 さすがに二人の体力の限界もあるだろうしこれ以上膠着状態が続くのはまずい。



 何か、何か打開策はないだろうか。



 今俺が戦力になるなんて事はまずないだろう。なら俺に出来る事はなんだ?



 迷惑にならないように物陰に隠れている事か?そうじゃない。



 他に何か出来る事はないのか。俺にしかでき無い事…考える事?





 そうだ。俺には考える事しかできない。

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