第七十四話:ハニー。
…いや待て、違うな。
そもそもそれだったら組織の人達が困るわけで、やっぱりただ単にここは入口専用なのだ。
出口は出口で別にあるって事なんだろう。だから泡海は通路や階段での危険は無いと踏んでいたのかもしれない。
だったらちゃんと説明しておけよ。入ったらどこから出ればいいんだよ。
泡海やいばらには日常的な事すぎて忘れられてしまったのかもしれない。
大事なところを見落とすあたり泡海もかなりテンパっているんだろう。
もう一度でっぱりを押してドアを開けるが、このドアを閉めてしまうかどうか悩む。咲耶ちゃんもドアが開かなければ少しは調べるっだろうしちょっと考えればわかる事だから閉めても問題は無いが、出口が分からない以上閉めてしまう事自体問題あるように感じる。
中で泡海達に合流出来ればいいが、そうでなくなった場合、非常事態の時など、脱出できないのはかなりまずい。
「あれ、なんか紙切れが落ちてるよ?…人魚先輩からみたいなんだよ」
…どういう事だ?
そのメモを受け取り、読んでみると…
「ごめんなさい。言い忘れていたんだけれどこのドアを内側から開ける時はドアノブを普段と逆側に捻ればいいだけだから覚えておいて」
と走り書きされていた。
俺があれこれ考えていたのは完全に無意味だったようだ。出入り口はここだけ、ドアも内側から開ける方法がある。侵入者を閉じ込めるためでもなければ入口専用でも無い。
…俺はどっと疲れてしまった。
やっぱり余計な事を考えすぎている。それだけ神経質になっているという事だろうか。
「うーん。別に問題なさそうだよ?多分本人が書いた物で間違いないと思うんだよ」
確かに俺たちにこんな罠を仕掛ける必要があるようには思えない。こんなところでいつまでも詰まっていたら後ろから咲耶ちゃんが追いついて来てしまう。別にそれ自体は構わないけれど、「まだこんな所にいるとかノロマすぎんだろ」とか思い切り馬鹿にされそうだ。
「ハニー、とにかく先に進もう。…悪いんだが俺はいまいちここの作りを把握できてなくてだな…」
「まったくおとちゃんはボクが居ないとダメダメなんだよ。でもそうやって頼ってくれた方が頑張れるしいいんだけどね。じゃあ隠し部屋までの案内は任せてほしいんだよ」
流石ハニー。しかし俺今回のメンバー中一~二を争うくらい役に立ってないぞ。最初から解ってたとはいえ少し凹む。
しばらく何事も無く通路を進みいくつかの角を曲がった頃、ハニーが俺の前に掌を出し動きを制止した。
「どうした?」
小声で聞くと、同じくハニーも小声で
「人がいるんだよ。黒スーツの…多分ここのエージェントだと思う」
きたか。いつか遭遇するとは思っていたけれど…いや、むしろここまでスムーズすぎたくらいだろう。
「どうする?他のルートからいくか?」
「それでもいいんだけど…帰りの事とか考えると少しでも減らしておいたほうがいいかもしれないんだよ」
「減らすってお前、どうやっ…」
俺が言い終わる前にものすごい速さでハニーが俺の目の前から消える。
角から飛び出していったらしい。慌てて俺も追うようにして角から飛び出るが、そこで目に入ってきたのは既に倒れて意識を失っている黒服二人だった。
「…強いんだろうなとは思ってたけどさ、そんなに?」
「ん?何か言ったかな?とりあえず適当に動けないようにしてその辺の部屋に放り込んでおくんだよ」
お、おう。
近場にあった部屋に入り、こいつらが着ていた上着を脱がせて手を後ろに回し、脱がした服の袖の部分で縛る。
ちなみに俺は何もしていない。ただ傍観していただけだ。
ハニーが鼻歌まじりにてきぱきと進めていく。
今更の事なのだが…ハニーが咲耶ちゃんの事を師匠って呼ぶのは…荒事の師匠なのか?もしそうだったら咲耶ちゃんってどんだけ強いんだろう?
「ふぅ♪この人たちはこれで大丈夫だから先に進むんだよ☆」
その先も何度となく組織の人間に出くわしたが相手が気付く間もないほど迅速にハニーが無力化してしまうため、既に目的地まで大分進んでこれた。
これも頼もしい相棒のおかげである。
しかしこれだけ組織の人間が転々と配置されてるのを考えると、有栖組の方が心配だ。多野中さんと泡海がいるからそうそう危ない事にはならないだろうが、無事でいるだろうか。
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