第五十七話:あの日の真実。


「…ま、まぁいいわ。ちゃんと誤解解いておきなさいよね。それで昨日の事だけれどアンタどこまで覚えてるの?」



 俺にとってはあの瞬間に気を失って次に目覚めた尾は病院だったわけで、爆発の後の事は何も解らないとアルタに伝える。



「はぁ…まぁしょうがないわね。あの後大変だったのよ?とにかく時間が一時間くらい戻ったんだと思う。それから…」




 アルタの話によると、俺が意識を失った後無事に時間が巻き戻り、急いで泡海が爆発物の位置を特定、解除までこなしてくれたそうだ。俺の頼みをきちんと聞いてくれたらしいので後でお礼とお詫びをしておこう。



 ただ、その場に居合わせた人々の記憶までは巻き戻せなかったらしい。解決後もその場は記憶と現実との齟齬で混乱が巻き起こったそうだ。



 確かに恋人や家族を見捨てて逃げた奴らも多かったしさぞや修羅場地獄だっただろう。



 結果的には何事も無かったわけで、集団催眠にでもかかったんじゃないかとゴシップ雑誌に小さく載った程度で済んだらしい。



 むしろその雑誌情報早すぎじゃないか?



「うーん、大体わかったよ。それで現地解散か?それはそうと白雪知らないか?家に帰って来てないんだ」



「アンタらは多分あの教師の車で帰ったんじゃないの?あの長髪の女以外は」



 …長髪?



「有栖か?」



 家の迎えでも来たのだろうか。



「そっちじゃない。黒い方」



 泡海か。泡海だけ車で帰ったわけじゃない…?


「なんで泡海だけ別行動だったんだ?」



「さあ。私はアンタらが帰るまで一緒にいた訳じゃないから多分そうだったろうなってだけよ」



「まてよ。じゃあ泡海だけ別行動だろうって思った根拠はなんだ?」




 その質問に答えるのにアルタは二分ほど黙ってしまった。



 やがてゆっくりと重たい口を開く。



「あの女は…きっとアンタらとは一緒に帰れなかったでしょうね。あんな事をしておいて一緒に帰れる訳ない」



「だから何があったんだよ」



 いい加減じれったくなってきた。



「そもそも…なんでアンタ生きてると思う?間違いなく過ぎた願いだった。アンタはあそこで何もかも吸い尽くされて死ぬ筈だったのよ」



 …それは、確かにそうかもしれないけど…



「それがなんだよ。俺が生きてちゃおかしいか?」



「腹立つわね…アンタが死なないように誰が犠牲になったのかまだ解ってないの?鈍いにも程があるでしょ」



 アルタの口調がどんどん俺に対してきつくなっていくのを感じるが、その言葉の意味に気付いてしまった時、いくら暴言を吐かれたとしても仕方ない事だと理解した。



「まさか…白雪のやつ」



「そのまさかよ。アンタが死なないようにあの悪魔が自分が存在するためのエネルギーにまで手を付けた。…まぁ、それだけで済んでれば存在が不安定になるだけで済んでたんだけど…」



「私達はぁ~エネルギーさえちゃんと補充できればすぐに復活できますしぃ~」



 どういう事だ?じゃあどうして白雪がここにいないんだ。あいつが弱ったからって病院に行く訳が無い。



「まさか…それに泡海が関係してるって言うのか?」



「…そうよ。願いの代償を肩代わりしたあの悪魔はもう少しで消えてしまいそうなくらい疲弊していたわ。その時あの女が何かしたのよ。そして悪魔は消えた。…そのままあの泡海って女は逃げたわ」



 なんだって…?




「泡海が白雪を消したっていうのか?」



「それについては私から~。多分白雪さんはぁ~死んじゃったわけじゃないと思いますぅ~」



「何それ。アンタそんな事一言も言ってなかったじゃない」



 アルタがネムさんに食ってかかる。しかし、白雪が消滅したわけじゃ無いなら今どういう状況なんだろうか。



「聞かれてなかったですしぃ~アルちゃんが白雪さんにそんなにも興味を持ってるとは思いませんでしたぁ~」



「興味なんかじゃないわよ。私はこの状況が気に入らないだけだっつの」



 二人の言い合いに付き合ってる場合じゃない。言い合いといってもアルタが一方的に怒っているだけだが。



「それで、白雪はどういう状況なんだ?消えたわけじゃないなら…封印か?」



 確か以前白雪が言っていた。召喚された後腕輪に封印されたと。なら泡海がなんらかの方法でそれを行ったっていう事なのか?



「多分それであってますぅ~大分弱ってた事も考えてぇ、仮死状態~的な感じだと思いますよぉ~?」



 とりあえずそういう事なら泡海に事情を聞かないといけない。問題は会ってくれるかって事と、どこに居るのかって事だけど…



 そこで気付く。むしろなぜ今まで気付かなかったのだろう。



 俺の腕には、あの腕輪が無かった。



 あれだけ取ろうとしても取れなかった腕輪が…。



「なぁアルタ、泡海の居場所とかって調べられないかな?」



 正確にはアルタではなくネムさんだが、彼女の性格だと直接頼んでも協力してくれないだろう。



「…別に探してやってもいいけどいつからアンタ私の事アルタなんて呼び捨てするようになったのよ」



 そう言われてみれば今まで直接名前を呼ぶような機会が無かった。自然とアルタと呼んでしまったが気を悪くしただろうか。



「アルタ…ちゃんとかの方がよかったか?」



「うわ、キモ…別にいいよアルタで。とにかくアンタがこの状況を受け入れるようならぶん殴ってやろうと思ってたんだけど…その心配はなさそうね」


 キモとか言われた。結局アルタ呼びで良いんじゃねぇか…。要するに許可取りをしなかった事に腹を立てているのだろうか…。思春期の女の子はわからん。



「じゃあネム、あの泡海とかいう女の居場所探って」








「その必要はないわ」

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