第五十六話:誤解×中学生=?
「そういえば親父は今日くらいゆっくりしていけるのか?」
「うーん。そうしたいのは山々だけどな、ちょっとそういう訳にもいかないんだわ。ご飯食べて少し休んだらまた行かなくちゃ」
難しそうな顔をして父が残念そうに言う。
「でもこうやって三人で食事できたのは運がよかったな。昨日だったらお前はいなかったみたいだし」
確かにそれは運が良かった。俺もたまにしか会えない親父とこうやって話すのも悪くは無いと思っているし、最低限の家族のコミュニケーションってのは必要なものだろう。
母も上機嫌だし良い事尽くめである。
むしろ母はこんなたまにしか会えない親父のどこがいいんだろう。
人の好みは分からないものだ。
俺も幼い頃は名前の事もあったしいろいろやんちゃしていたから迷惑をかけた事だろう。
こんな適当な親たちでも、子育てはきちんとしてくれていた。主に母が、だが。
そんな夫婦、そんな家庭を俺は尊敬しているしいつか俺も誰かと結婚して幸せな家庭を作りたいなと感じる。
…まぁもう少し家に帰ってこれる仕事にしてあげたいものだが。
などと未来の妻に対して幸せな家庭を約束していると、玄関のチャイムが鳴った。
「誰かお客さんかな?ちょっと私見てくるわね~♪」
とてとてとてと妙な音を立てながら母が玄関に向かう。
母の姿が部屋から見えなくなった頃、父が心配そうに言った。
「俺が居ない間あれを守ってやれるのはお前だからな。あまり無茶して怪我とかしないでくれよ?あとあまり変な所で遭遇したくないもんだな。心臓に悪い」
確かに親父としては急に病院前で息子が患者服きて飛び乗ってきたら心配するのも当然だろう。
それに、俺は昨日命を失いかけた訳で…。父親の言葉を重く受け止めざるを得なかった。
「えっ、えっ?きゃぁぁぁぁぁっっ!」
急に玄関の方から母の悲鳴が聞こえた。
「何だ!どうした!」
親父と二人で慌てて玄関に向かうと、床にへたり込んだ母が目に入った。
「おい、大丈夫か?何があった?」
父が心配そうに母を抱き起すが、母はあわわあわわと言いながら俺を指さしてくるだけだ。
「あわわじゃわかんねーよ。俺がどうかしたか?」
「あ、あ、あのね、姫ちゃんに、お客さん…それもね、あ、アルタちゃんがきた…」
あいつに家なんか教えた覚えはない。ネムさんに調べさせたんだろうか…。しかしアルタが来たともなれば母のこの様子も頷ける。母は意外とミーハーなのだ。
「驚かせてごめんなさい。ちょっと乙姫さんに大事な話があって…」
玄関ドアの向こうには帽子とサングラスのアルタと、ネムさんが居た。
「あ、ある、アルタちゃん?うちの姫ちゃんとはいったいどういうご関係で?もしそういうアレなら応援するからっ」
「ちょっと黙ってて」
一人でヒートアップする母に釘を刺し、アルタに「騒ぎになるとまずいから早く上がってくれ」と声をかける。
アルタが中に入った所で母がドアを閉めてしまう。が、ネムさんはドアをすり抜けて入ってきた。どうやら今は普通の人たちに見えないモードらしい。
とりあえず俺の部屋で話を聞くことになったが、両親はひどくそわそわしていた。
「姫ちゃん、頑張るのよ!」
「うっさい!」
「乙姫!…わかってるとは思うが、相手の年齢が年齢だ、ちゃんとつけろよ」
「馬鹿かアンタは!」
両親の冷やかしに一通り罵声を飛ばしてアルタを部屋に招く。
部屋に入るなり、アルタはくすくす笑い出した。
「おっかしい。アンタの両親って変わってるわ」
知ってるよ。
「それで?一体なんの用だ?」
「アンタ私にそんな態度とっていいの?いろいろ教えてあげようと思って来たのに」
そういう事ならありがたいが、本当にそれだけの理由でこいつがわざわざ家まで来るものだろうか。
「それと気になったんだけど、アンタの父親が言ってたちゃんとつけろってなんの事よ」
「アルちゃんはそういうところにぶちんですねぇ~。でもピュアでいい事かもですねぇ~♪」
ネムさんがからかうのでさらにアルタがムキになってしまう。
「なによ。私にもわかるように説明しなさいよ」
俺が反応に困っていると、ネムさんが「仕方ないですねぇ~」と言いながら詳しく説明しようとする。
「つまり、アルちゃんがまだお子様なので父上様が心配したんですよぉ~ちゃんとこんど…」
「あーあーあーあー!」
大声をあげて阻止する事くらいしか俺には出来ない。
「何ようっさいわね!こん…なに?それをちゃんと付けないとなんだっていうのよ!」
「そんな事より昨日の事詳しく教えてくれよ!」
「あかちゃんができちゃいますぅ~」
俺が必死に話をそらそうとしてるのにこの腐れ天使がぁ!
「こっ、え?どういう事?もしかしてそのこんなんとかって避妊具って事?別にそんな隠すような事じゃ…」
違う、問題はそこじゃない。
「つまりぃ~アルちゃん。乙姫さんのご両親は、自分の息子が中学生でアイドルのアルちゃんを孕ませてしまわないかと心配していたんですよぉ~♪」
基本的に天使も悪魔も同じような物なのだと今はっきり確信した。
こういうところは白雪にそっくりである。
「…っ、そ、それって私たちがそういう関係だって思われてるの…?」
アルタが何故か俺を軽蔑した視線で睨んできた。
「そんな顔する事ないだろ!…ちゃんと親の誤解は解いとくから安心しろ」
「私のショッキングランクが更新されたわ」
そう訳の分からない事を呟きながらアルタは暫く項垂れる。
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