第十四話:本気の感謝は声に出る。


「え?ちょ、白雪さん?今どこから…」



 突然実体化した白雪が俺の背後に現れ困惑する有栖。



「白雪さんはマジシャンか何かですの?」



「…ほれ、伝わっとらんじゃないか。さっき乙姫が説明した通りわらわは悪魔じゃ」



 とたんに眉をひそめて無言になる有栖。



「なんじゃ?信じられんのか?お主の言葉を借りれば解る人間にだけ解ればいいんんじゃから信じなくてもわらわは何も困らんがの」



「あの、乙姫さん。この方…こんな喋りだったかしら?」



 有栖はどちらかといえば白雪の話す言葉使いの方が気になったらしい。



「こいつクラスではキャラ作ってたんだよ。普段はこんな喋り」



「キャラ?よくわかりませんが…とにかく白雪さん、貴女が悪魔だという証拠はありますの?」



「なんじゃこの時代の人間は…証拠証拠証拠証拠…昔は消えたり出たりするだけで皆恐れおののいたというのに…」



「なんでもいいですわ。悪魔だというのであれば手品の類ではないと思える何かを見せて下されば…」



「ほい」



 有栖の発言を打ち切って白雪がやる気のない声とともに腕を振る。



「な、なんですの…こ…これ…は…」



 有栖が困惑するのも無理はないだろう。なにせ有栖の体が今現在進行形でムキムキのマッチョに変化していく。



「ちょ、やめて下さいまし!こんな筋骨隆々になってしまったら私は明日からどうやって生きていけば…」



 体だけではなく途中から声まで野太く…これはマッチョになったのではない。マッチョマンになってしまった。膨れ上がる筋肉に耐えきれなくなり服が弾け飛ぶ。本来ならお色気シーンなのだろうが今目の前にいるのはムキムキのお兄さんだ。俺の心は妙に冷ややかだった。



「きゃぁぁぁぁ!なんて事するんですの、わたくし今下はいて、嫌ぁぁぁぁぁ!」



 何かがボロンと見えた気がしたが見ないふりをした。有栖にあんなものはついていない。そう、ついていないのだ。だからアレは幻。もしついていたのならばこれは有栖ではなくただのマッチョマンだ。



 野太い声で悲鳴をあげつつ自分の体を抱え込むようにうずくまる有栖、もといマッチョメン。



「わかった、わかりましたわ!白雪さん、わたくしが悪かったですわ!早くもとに戻して下さいまし!」



「ほい」



 ポンっと小気味よい音がしてマッチョメンが白煙に包まれる。そこから出てきたのはまさに俺へのご褒美であった。



「よかった、元にもどれましたわ…って服!服は!?乙姫さんこっち見ないで下さいまし!見ないでってば!もう嫌ぁぁぁ!」



「わらわの事悪魔と信じるかえ?」



「信じます信じます信じますから早く何とかして下さいまし!」








「ひっく、えぐ…あうぅ…わ、わたくし、乙姫さんの事一生許しませんわ…」



 なんで俺なんだよ。



 仕方ないので俺の借金を増やして白雪に服も復元してもらった。今日はいろんな意味でなんて日であろう。一生忘れません。



「見ないでって言いましたのに…」



「あ、それはほんとすいません俺が悪かったです。しかし年頃の男性の前でクラスメイトが急に裸体になったら見るなというほうが無理な注文なのもわかってほしい」



「けっけだもの…」



「声に出てた!?」



 しかしながら目の前の見える物を見るというのは不可抗力でありどうにも抗えない事象なのである。どうがご理解頂きたい。


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