第十三話:だいたい悪魔のせい。
「なぁ、ほんとに家に来るのか?」
バスに乗り込み、「バスとはこういう風になっていたのですわね」だとか「乙姫さん乙姫さん、このボタンは何ですの?押してもいいのかしら?」などと騒ぎながら我が家への道を進む。
「しかしあのボタンはああやって使うものでしたのね。私が押そうとした時子供が先に押してしまったのでやられたと思いましたがうかつに押さずに正解だったようで…ってちょっと聞いてますの?」
「いや、有栖ってほんとにお嬢様なんだなと」
「当り前ですわ。御伽家といえば由緒正しい…ってなんで笑ってますの?」
「なんというか有栖って面白い奴だったんだな。ただの変な奴かと思ってたけど…」
今日一日で有栖に対する印象はかなり変わった。ただ奇行を繰り返す変人だと思っていたのだがきっとこいつと世間の常識にズレがあるだけなのだろう。
「馬鹿にしてるんですの…?」
「違う違う。クラスメイトがもっと有栖の事理解してやれればみんな仲良くなれそうなのになって思っただけだよ」
「ばっ、馬鹿おっしゃい。わたくしはわたくしの思うままに生きていくだけですわ。無理にそれを理解してもらおうなんて思いません。解る人に解ってもらえればそれでいいんですの。現に部活動ではそれなりにうまく先輩方と付き合ってますわよ」
そういえば確かに更衣室に入ってきた二人とは普通に会話をしていたような気がする。接する面が運動のみならそれなりにやっていけるという事か。
「ところで、これが乙姫さんの家ですの?思っていたよりは普通の家ですわね。もっとボロ小屋のようなものだと思っていたのですが」
ボロ小屋って…まぁ確かにうちは周りの民家から比べて少々ではあるが大き目かもしれない。
まだ母親は留守にしたままのようなので鍵を開けて部屋へと通す。一応お客様なので台所からグラスに入れたお茶を持ってきて出してやった。
「あら気が利きますわね…これが乙姫さんのお部屋…わたくし男性の部屋になど生まれて初めて入りましたわ。もっと耐え難い臭いに苛まれるかと思っていたので拍子抜けですわ」
こいつは俺を何だと思っていやがったんだ。
有栖は一通り部屋の中をきょろきょろと見回すと、座布団を持ち上げ二三回叩いてホコリを落とすような仕草をしたあと、そこへ腰を下ろした。
「…ところで、確か白雪さん、でしたわね。あの方と同居してらっしゃるとか。先に帰ってほかの部屋にでもいらっしゃるのかしら?」
…当の白雪は未だに頭上にぷかぷか状態なわけだが…どこから説明するべきか。
「おい有栖、ちょっとこれから俺が独り言を言うから気が狂ったとか思わずにちょっと待っていてくれるか?」
「えっと…独り言?なんですの?別に待つくらい待ちますが…」
「わかった。おい白雪、何をどこまで話していい?」
「ん…?何をどこまでとはどういう意味じゃ?話すためにここへ呼んだのであろう?」
「いや、そうだけどさ、お前の事とか簡単にほかの人に話して平気な訳?」
白雪は、んー?と少し悩んだ後「いんじゃね?」と投げやりな返事をした。今日の騒ぎで俺から発せられたエネルギーをたらふく食べる事が出来たらしく、少々おねむのようだ。
「確かに独り言を言うとは言ってらっしゃいましたけれど…いったい誰と話してらっしゃるの?白雪さんとなのですか?」
「ん、あぁ。本人からお許しが出たから全部話すけど、実は俺今悪魔に取り憑かれてるんだよ」
「…はぁ」
やめろ、その痛い子を見るような眼で俺を見るな。
「本当なんだ。一から説明するとだな、そもそもハニーのやつが…」
「…なるほど、それで止む無くいう事を聞かされていて、今日は女子更衣室に下着を盗みに行ったと。馬鹿なんじゃありませんの?それを信じろと…?」
「ですよね…信じられませんよね…」
わかってた事だがどう考えても理解不能な話だろう。俺も実際有栖の立場だったらこんな反応になるに違いない。
「話が進まないからそろそろ出てきてくれよ白雪」
「ほいほい、めんどくさいのう。お主の話は要領を得なくて理解しにくいのじゃ。いつ呼ばれるのかと待ちくたびれたぞ。肝心な時にもたつく男は嫌われるんじゃぞ?」
うっせー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます