第五話:消える宝と増える負債。

 議題その三・対価の物量




「じゃあおとちゃんはこれから願いの代償として悪いことをし続けていかなきゃいけないってことなの?」



「まぁそうなるのう。ちなみに願い事をこれ以上しないとしてもさっきの分はきっちり頂くから覚悟しておくのじゃ。ふふふ…楽しみじゃのう」



 いったい対価としてどのくらいの悪事をさせられるのだろう。いやまて、こいつの食事が感情から発せられるエネルギーだっていうならいっそ何もせず平坦な気持ちで生活してりゃこいつはそのうち消えてなくなるんじゃないか?



「もしお主が何もしないようなら代わりにお主の精気を食べさせてもらうからそのつもりでの」



「せいきを…食べる、だと?」



「おとちゃん、たぶんそっちじゃないよ…?」



「わわわわ、わかってるよそんな事!」



 結局のところこいつのいう事を聞いて悪事を働くか精気を吸い取られて死ぬかの二択しかないってのか…。



「最初にも言ったがわらわも宿主に死なれても困るでな。そうならんように協力してやるから安心せい」




 結局その日は全く眠れなかった。



 不安とか絶望とかそういうのがないわけじゃないが、それのせいで寝れなかった訳じゃない。純粋に白雪がやかましかったのだ。



「てれびじょんとかいうのは面白いのう♪」だの、「漫画とやらも素敵じゃ♪こりゃ帰る気になどならんわい♪」など、ずっとハイテンションだったので、俺がほっといて先に寝ようとすると布団の上からのしかかってきてこれはなんじゃあれはなんじゃと騒ぐ。無視して寝たふりをしたら布団に手を突っ込んできて「起きるのじゃー」と俺の体をまさぐりだすしほんと勘弁してほしい。こっちは青春真っ盛りの青少年である。いくらこいつが悪魔で俺にとって害以外の何物でもなかろうと、こんなふうに同年代(に見える)女性に絡まれたことなどないのだ。いろいろアレなので困る。



 ハニーも今夜ここに泊まると騒いでいたが、父親が帰ってくるという事を思い出してしぶしぶ帰って行った。



 白雪と間違いが起きないようにと心配していたが、何度も言うように俺は悪魔女に童貞を捧げる気など無いのである。



 その白雪については別室を用意してやったのだが意味がなかった。というのも、こいつ実体化したのに自由に壁をすり抜けてきやがる。その気になれば見えるようにも見えないようにもできるらしい。



 ついでなのでいろいろ聞いてみたのだが、大昔に召喚された際は召喚主の勘違いだったとかいう理由ですぐ封印されてずっとあの腕輪の中にいたらしい。



 腕輪の中からでも外の様子は見えていたようで、人間と関わりを持つ事は出来なくてもある程度は外の様子を知ることが出来たようだ。



 …確かに、それなら現世を楽しみたいって思うのも仕方ないのかもしれない。ずっと孤独を味わってきたのだろうし、どうせ一緒に居なきゃならんのなら楽しいほうがいいに決まっている。



 勿論お帰り頂くことを諦めたわけではない。あくまでもこいつに願い事の負債を返し切るまでの付き合いだ。



「のう乙姫よ」



「乙姫って呼ぶのやめてくれませんかねー。そしてそろそろ寝ませんかねー」



「わらわと寝るなどと一万年早いわ」



「ちげーよばーか」



「馬鹿とはなんじゃ馬鹿とは!」



 うん、意外と友人その二としてやっていけるのではないだろうか。



「乙姫よ、なんだかこの四角いのから煙が出てきてしもうたんじゃが…」



「だから乙姫って呼ぶなって…」



 そこで俺の言葉は途切れた。白雪が手に持っているそれは俗に言う外付けのHDである。確かに変な色の煙を吐いて、見るからにご臨終の予感。俺が今までため込んできたお宝が煙と共に霧散していくのをただ真っ白になりながら見つめることしかできなかった。





 その日、負債がもう少しだけ増えたことは言うまでもない。

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