第11話 バケモノと案外普通の日常
私が円への想いを自覚してから数日後。
想いを自覚したからといって、何かが劇的に変わるわけも無く。
また、円と耀子の仲も進展しなかったようで、何事もなかったかのような日常が続いている。
それ故に、放課後の生徒会室の中は、ここ数日と同じ緊迫した空気が流れていた。
「それで、なんで貴女はここにいるのかしら? 一般生徒は出て行きなさい。仕事の邪魔よ」
「年をくったお婆さんはこれだから嫌ですわ。さっきも言った通りわたくし、生徒会に入りましたのよ」
生徒会の仕事をする円を挟み、私と耀子が向かいあっている。
授業終了後、すぐ始まった女の戦いに、他の生徒会役員はすでに退散している。
円といえばはそんな私達を無視するように雑務をこなしているが、冷や汗をダラダラ出してるのを私は知っている。
「へえ、初耳だわ。副会長である私が知らないなんて不思議だわ。ねえ円?」
「そもそも、アナタいつもは仕事なんてしていないって聞いていますわ。授業もまともに出ていないらしいですし、副会長として失格ですわ。こんなバケモノ、罷免してしまいません円さん」
「…………」
にこやかに笑いつつも険悪な私達に、円は目を中に彷徨わせる。
「聞いているの? 円」
そんな態度に業を煮やし、私はツインテールの片割れを引っ張る。
「そうですわ、聞いているんですの円さん」
それを見た耀子も、反対側の片割れを引っ張る。
――いい根性しているわ、この女。
「うわあぁ! な、何するんだよ二人とも! 引っこ抜けるだろ!」
円は慌ててツインテールの根元を押さえ、ううーと私達を威嚇した。
私はそんな円の姿に、倒錯した魅力を感じながら澄まして答える。
「大丈夫よ、加減してあるわ」
「ふふ、そうそう、大丈夫ですわ」
急に柔らかくなった声に注意を向けると、耀子は女生徒姿の円に見とれていた。
――同じ穴の狢、とでも言うべきなのかしら?
私は円への独占欲を自覚しながら攻撃を開始する。
――その子は、私のモノよ!
「円に汚れた視線を向けないで下さる、淫売」
その言葉に、耀子は毛を逆立ててガタンと勢いよく立ち上がる。
「い、いんばッ! 言うに事欠いてソレですかバケモノ! 人間みたいに口紅つけて、色気ついてるんじゃないですわよ! 似合ってなんかいませんわ!」
「なっ!」
私だって女の端くれ好きな人がいる以上、唇に紅を引くぐらいする。
売り言葉に買い言葉、負けてなるものかと顔を真っ赤にし。
「三下!」
耀子は怒りで顔を赤に染めながら唸りあう。
「負け犬!」
「うぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」
「表に――」
「――――出なさい!」
「ちょっと! 二人ともいい加減に――」
一触即発、円が止めようとした瞬間。
「我! に! 秘! 策! ありぃぃぃぃぃ!」
大きな音を立てて扉が開き、してやったりという顔で苺が乱入した。
「苺じゃありませんの!」
「――帰れ」
――帰れ。
「……頼むから火を注がないでくれよ、音原」
三者三様の反応をするも無視して、苺は続ける。
「火澄、耀子。君達に丁度いい依頼を持ってきた。是非とも、遂行してくれないかな?」
「誰が貴女の依頼なんか受けるものですか、一昨日来なさい」
――苺の依頼で、碌な事になった覚えはないわ。
私が用心して苺を追い返そうとすると、耀子はニタリと笑ってのたまう。
「あら、勝負から逃げるんですの? まあ、負け犬なら仕方ありませんかしら?」
――こいつ! 苺の厄介さも知らないで!
このまま苺の思惑通り、耀子の乗せられ勝負してもいいのだろうか?
矜持を折ってでも、厄介事を回避するか……。
苛立った顔で黙ったまま、迷いを見せる私を耀子はニタニタを笑う。
「お嬢様、紅茶でございます」
私は横から差し出された紅茶を受け取って一口啜り――。
――あら、美味しいわね。
「ありがとう。落ち着い――た?」
「誰ですの? アナタ?」
そこにはシニヨンが特徴的な冷たい目をした少女が、私の隣に傅いていた
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