もしもあやめが美形姉だったら【2】
時間軸は文化祭前位です。
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「田端さん」
「え?」
「ちょっと、いいかな?」
昼休み、売店に行こうと中庭をショートカットしていた所知らない男子生徒に呼び止められた。
ネクタイの色が緑なので三年。上級生という事がわかるが、一度も話したことのない相手である。
「なんでしょう」
「あのさ、田端さん今付き合ってる奴いないよね? …良かったら俺と付き合ってくれないかな?」
「……すいません、私…自分よりも強い男性じゃないと嫌なんで」
「…え?」
「失礼します」
悪いが私は細身の男子は好みではない。
ぽかんとする相手を放置して私は売店に直行したのである。
「見たぞー田端お前、昼休みに男振ってたろ」
「その言い方私がまるで悪女みたいなんで止めてくださいよ」
部活中、私は昼休みの件で大久保先輩に冷やかされた。きっぱり振ったことの何が悪いんだ。
私は好きでもない相手と付き合えないよ。
「あいつ女子に人気あるのに。手厳しいなお前」
「だって細身じゃないですか……私が押したらきっと吹っ飛びますよあの人。私か弱い男子には食指が動かないんです」
「アホか。吹っ飛ぶわけねーだろ」
「そんなことより大久保先輩、一戦いかがですか?」
「やだよ。お前の攻撃えげつないし」
拒否されてしまった。
情けないなぁ。それでも攻略対象様か。
「あー勝てる自信がないんですねぇーそれなら仕方ないですねー?」
「…あ? 今なんつったお前」
「大久保先輩は幼気なJKに勝つ自信がないんですねぇー?」
「幼気じゃねぇ。お前はゴリラだ。女子高生の皮を被ったゴリラに違いない」
私達のこの喧嘩腰の軽口はいつものことである。なので部員も静観しているのだが、今日はそれに加えて彼の介入もあった。
「…田端、健一郎をからかうな」
「えー? なら橘先輩でもいいですよ。私と戦いましょう」
「…女とは戦えない」
「あー橘先輩も勝つ自信がないんだぁ」
ニヤニヤと彼らを見ていると、イラッとしたらしい大久保先輩にぶん投げられた(受け身はとった)ので飛び蹴りをかまして差し上げた。
空手VS柔道の泥仕合になりかけていた所を橘先輩に阻止されて不完全燃焼で終わった。
何故止める。あとちょっとでKOできそうだったというのに!
ていうか二人共もう部活は引退したはずなのに、受験勉強はいいのだろうか。
気分転換って…随分余裕だな。
まだそんなに遅い時間ではないのだが、女だからと橘先輩が送ってくれるという。
大丈夫だって言ってんのに。何のために空手を習っていると思っているんだこの人は。
文化祭の話題から彼が女装するという情報を聞いて一人ニヤニヤしていたのだが、そこにある人物が近づいてきた。
「亮介」
「兄さん、今帰りか」
眼鏡をしているが、顔立ちは橘先輩にそっくり。
彼は私をちらりと一瞥すると、橘先輩に視線を向けた。
「…彼女か?」
「違いますよっ!? 後輩! ただの後輩ですっ!」
「………」
橘先輩とたまたま同じ電車に乗り合わせたら先輩のお兄さんと初対面した私だったが、先輩の彼女と間違われたので慌てて否定した。
わぁ、お兄さんまるで大人っぽくした先輩だ。雰囲気はちょっとお兄さんの方が冷たそうだけど。
「……ならいいが。中学の時のように恋愛にかまけて志望校に落ちるような馬鹿な真似をしなければそれでいい」
「…わかっている。同じ過ちは犯さない」
なんだけど二人の間の空気はなんだか重い。仲が悪いんだろうか。
しかし、恋愛にかまけて志望校に落ちる真似とな? 恋愛ということは…先輩には彼女がいたのか。
…いや、居てもおかしくないか。先輩ほどのお方なら女が放っておかないわ。なんか胸がモヤッとしたけどこれはきっと僻みだ……そう、僻みなんだ……
母さんに綺麗に生んでもらったというのにいまだ年齢=彼氏いない歴の私の羨ましい気持ちがにじみ出てしまったのだ……先輩は彼女とキャッキャウフフしたことあるのか……めっちゃ羨ましい…悔しい。
「ま、まぁまぁ大丈夫ですよ! 先輩は高校でも文武両道で成績トップクラスですもん! 先生や後輩からも慕われた頼りがいのある人なんですよ。部活と委員会と学業を掛け持ちしてそれってかなりすごいんですから!」
「……田端」
「それに今だって遅いからって私を家まで送ろうとしてくれてるんですよ。私空手有段者なのに心配してくれて。めっちゃジェントルマンじゃないですか! 私こんな彼氏いたらめっちゃ自慢します!」
「え」
フォローに必死になっていて隣に座っている先輩が固まっているのに私は気づかなかったが、先輩のお兄さんに「あなたの弟はすごいから心配するな」と訴えた。
「あなたの弟さんはしっかりしてるから信じてあげてください!」
ぐっと拳を握ってお兄さんにそう訴えたのだが、お兄さんは私を呆れた目で見下ろしてきた。
なんでそんな目で見るの。
何故か先輩もお兄さんも沈黙してしまってこの気まずい空間をどうしたら良いの。良かれと思ってフォローしたのに。
「あれっあやめちゃん?」
「波良さん! お久しぶりです。今帰りですか〜?」
「うん。息抜きに道場寄ってこうかなと思うんだけどあやめちゃん今日寄るの?」
「んー…どうしようかな。波良さんが稽古相手になってくれるなら…」
「田端」
今でも部活と両立で通っている空手道場の兄弟子である男子高生・波良さんに声を掛けられた私は彼の言葉に反応した。
波良さんは受験生のため空手稽古をセーブしてるのだが、数少ないまともに稽古相手をしてくれる相手だ。
彼との試合を久々にしたくなった私は彼に試合を申し込もうとしたのだが、橘先輩に名前を呼ばれたので隣に座っている先輩に視線を移した。
「なんですか?」
「……もう遅いから、今度にしろ」
「えぇ? でもまだ19時前……それに私一人でも帰れますから先輩は駅までで…」
「田端、二度も言わすな」
「………」
えぇ~…フォローしてあげたのに。なんて仕打ちなの…
橘先輩は私に殺気を向ける勢いで睨みつけてくる。19時前よ? まだ高校生が帰宅してる時間帯でしょ? 部活してたらいつもこの位かもっと遅いもん! 全然遅くないよ!
「あはは、仕方ないね。今度稽古しよう。じゃあねあやめちゃん」
「そんなぁ〜…うぅ、連絡しますねー…」
波良さんはカラカラ笑って手を振って行ってしまった。あぁ…稽古相手が去ってしまった。
くそう、高校の空手部は骨のある人が受験のために続々引退してしまったし、自分の力が有り余ってしまっているから思いっきり発散したいのに。
「先輩…私に何の恨みがあるんですか…」
「…お前は女だろう。遅くまでうろつくべきではない」
「だから! 私は空手有段者なんです! か弱い女じゃないっていつも言ってるじゃないですか! それに遅くなったらなったで波良さんが送ってくれますもん!」
波良さんは稽古では男扱いであるが、その他は女性扱いしてくれるんだ。だから先輩が憂う必要はないというものだ。
私は胸を張ってそう言ってやったのだが、橘先輩に睨まれてしまった。
こわっ。
歴戦の私もさすがにそれにはビビってしまい、口をつぐんだ。
先輩が無言で怒ってしまったので、お兄さんに視線で助けを求めると、お兄さんは本を読んで知らないふりをしていた。
おい、おたくの弟さんどうにかしてくれよ。
…なんて兄弟なんだ。
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ギャルしていないあやめに対して暴言を吐かない橘兄。
波良さんはあやめの兄弟子で、あやめは無条件に信頼を寄せている。
あやめと亮介は武道系の部活で結構関わりがあるので風紀指導がなくても接点がある。(しかし連絡先交換していない)
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