乙女ゲームの影薄いモブのはずだけど、何だかどこかおかしい。

スズキアカネ

もしもあやめが美形姉だったら【1】

モブ姉なあやめに美形+空手のオプションを付けてみた。

ーーーーーーーーーーーー

 なにかがおかしい。

 物心がついた頃から私はそう思ってきた。だけど考えても考えてもその理由はわからないままであった。


『田端さんの姉弟は本当にお人形さんみたいねぇ』

『本当に二人共可愛らしいわぁ』

『だけど不審者に気をつけてね? 特にお姉ちゃんは』

『そうよぉ最近不審者がうろついているみたいだから…』

 

 私と弟は美人な母似で行く先々で容姿を褒められた。

 だけどそれがどうにも気持ちが悪くて、私は弟と同じく母の後ろに隠れることが多かった。


 ーーー大人たちのその心配は的中した。

 私はロリコンの標的となったのだ。


 私の名誉のために言うが、身体的な被害はなかった。そんでもって事件当時、幼馴染と弟と一緒に登下校していたためショックは最小である。

 むしろ幼馴染と弟のほうがショックを受けていた気がする。弟はギャン泣きしていたし。


 それを機に私を心配した母の提案で護身術を習うようになった。

 手元に武器がないと意味がないので、柔道・空手・合気道・テコンドーなど武器がなくても戦える武道教室をあちこち見学し、そこの師範代や生徒らを観察して吟味に吟味を重ねた上で決めたのが最寄り駅近くにある空手道場である。



 そして私は身を護るために武道を習い始めたのだが、その内空手の楽しさに目覚めて熱中するようになったのであった。



☆★☆



「はじめまして。本橋花恋です。父の転勤でT市から来ました。よろしくおねがいします」 



 突然現れた美少女にクラスメイト達がざわめいた。

 男子はかわいい女の子の登場にテンションが上がり歓声をあげ、女子はそんな男子に眉をしかめたり、転校生を複雑そうに見つめたりしていた。

 私は別の意味で驚き、目を大きく開いたままフリーズしていた。

 その子を見た瞬間、今までの違和感が解けた気がした。

 それと同時に“前世のわたし”のことを思い出したのだ。



(ちょっと待って待って。私、モブ役よね? 攻略対象の田端和真の姉ってここの高校受験落ちて別の女子高に通ってるはずだし)


 …もしも、悪役とか主人公とかサポート役とかなら話の流れから読み取って行動できるけど、舞台に存在しないはずのモブってどうしたらいいの?



 桜咲く四月、高校二年になったその日は始業式。

 二日後が入学式で弟が入学してくる予定だ。



 ………ちょっと待った。


(ていうか私! わ、私は母さん似で弟にも似てるんだけど!? おかしすぎるだろ! 前提がひっくり返ってる!!)


 私は頭を抱えて唸った。


 どういうことなの!?

 いやモブはモブなんだけどさ、私は父さん似の地味で根暗で存在感の薄い姉のはずなのに。 

 乙女ゲーム大丈夫? ちゃんと進行する?

 …唯一ゲームと合っているのは、私が努力しないと勉強の出来ないタイプってことだけ。

 その点に関してはコンプレックス持ってるようん。


 …………。

 まぁ、こういうのって強制力ってのが働くよね! 私モブ姉だし、関わらなければきっと進行の邪魔にならないだろうから大丈夫!!




 そう思ってたんだけど、何なんだろうね。

 ヒロインちゃんや攻略対象、ライバル役と関わることが増えた。

 いや、武道系の空手部に所属してるから元々同じ武道系部活生の攻略対象の風紀委員長や副委員長とは少しだけ接点があったんだけどね。




「田端! 一緒に来い!」

「は?」


 今体育祭なう。

 あ、「今」を二回言っちゃった。


 借り物競争中の別のブロックの男子に呼ばれた。

 その相手は大久保健一郎。彼は風紀委員長であり攻略対象様である。

 だけど彼の要求には応えずに、私は座ったまま胡乱げに彼を見上げた。


 現在我が黄色ブロックは最下位。

 そして彼の青ブロックは暫定一位である。


「えー嫌です」

「はぁ?!」


 彼の借り物がなんだか知らんが、私はお断りした。

 なにが悲しくて敵の得点に貢献せねばならんのか。


 断固拒否である姿勢を見せたのだが、ヌッと手が伸びてきて私の腕を掴むと軽々と持ち上げられた。


「!?」

「舌噛むなよ」


 まさかの俵抱きである。

 幼気な17歳のJKを俵抱き。


 私は「ああー」とボヤきながら自分が座っていた場所から遠ざかる。

 運ばれながら思った。

 この人絶対私のこと女だと思ってないと。


 だって、大久保先輩は女性が苦手なんだもの。

 公式でも。



『3年B組の大久保君、借り物のお題は………ゴリラみたいな人…?』

「誰がゴリラか!!」


 ゴール先のマイクでお題発表された瞬間、私は光の速さ(比喩)で大久保先輩(攻略対象様)のお尻に回し蹴りを喰らわせた。


「いってぇ! ほら! やっぱりお前ゴリラじゃねーか!」

「あんたの後輩にゴリラっぽい人いるでしょうが! 柿山君とか、その他風紀委員の面々が!! 大体幼気な女の子に失礼だと思わないんですか!」

「幼気な女子が大の男をKOするわけ無いだろうが!」

「私より弱い男は男だと認めない!!」


 先日部長同士のお遊びの延長で柔道VS空手で対戦した時に飛び蹴り食らわせたこと根に持ってるのだろうかこの人は。


 その時観戦していた風紀副委員長の橘先輩(攻略対象)はドン引きした顔をしていた覚えがある。


 …訂正する。

 全然少しじゃないな。

 結構彼らと関わりあるかもしれない。



 空手を習って10年弱。

 立派な黒帯になった私の名は田端あやめ。

 不良系美形攻略対象のモブ姉である。


 

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