もしもあやめが美形姉だったら【3】
「あれ、橘先輩。こんにちは」
「………」
「あやめちゃんの高校の先輩? こないだ一緒に電車乗ってた人だよね? まぁ……美人を連れて…」
「亮介? どうしたの?」
テスト前、私は図書館で勉強していた。
すると同じく勉強しに来たらしい波良さんと遭遇したので、同じ四人掛けの自習机を使って勉強していたんだけど、続いて橘先輩とも遭遇した。
橘先輩はとっても綺麗な女性と一緒だった。
……そう言えば担任に言われて渋々見学した大学でこの女の人と会ったな。
そこの学生だった橘先輩のお兄さんが、橘先輩の元カノと言っていたけど…
…もしかして、復縁したのだろうか。
あ…また胸がモヤッとした。こないだからずっとこうだ。
やだなぁ…僻みなんて。
あーあ、私も彼氏欲しいなぁ。
それはそうと、この時間に来ても図書館の自習席は埋まっていているから先輩はさぞかし困っていることであろう。
自分の隣の席に置いていた鞄を移動させて「机探してるならここ使ってもいいですよ」と声を掛けてみると、彼は無表情でうなずいてそこに座っていた。元カノ(復縁済?)さんも波良さんの隣に座る形で席に着いていた。
二人共勉強しに来たからか黙々と勉強していた。まぁ当然なんだけどさ。
受験生なのは波良さんも同じなのにさっきからノートに変な落書きを書いては私に見せてくる。この人なんで図書館に来たんだろうか。
邪魔してくるのがうざいので赤ペンで添削して返しておいた。
空手やってる時は格好いいのにこういうふざけたところを見るとなんかねぇ。
昼のチャイムが鳴ったのを合図に私は勉強する手を止めた。
ちょっと疲れたしご飯食べてこようかな。昨日の夕飯と今朝の朝食の残りものを詰めてきたお弁当を持って私は席を立つ。
自分の手作りじゃないのかって? 空手馬鹿(自称)の私に女子力というものを期待してはいけないんだよ!
「お昼に行くの? 良かったら私達と一緒に食べない?」
「え、でも自分のお弁当持ってきちゃったので…」
「私も作ってきたの」
にっこりと笑う橘先輩の元カノさん(名前なんだっけ)の誘いに私は困惑していたが、「いいねぇ」と波良さんが賛成していたので仕方なく同席することにした。
先程から…ていうかここに来た時から無言の橘先輩が怖いんですけど。
なにか不満なのだろうか。彼女と俺の邪魔すんなってか?
カフェテリアに到着すると、橘先輩の元カノさん(仮)…沙織さんというらしい彼女がおしゃれ~なお弁当を男性陣に振る舞っており、女子力の差を感じる。
有り合わせで作ったとか言ってたけど……それはないだろ。なぜそんな謙遜するんだ。
沙織さんのお弁当に感激した波良さんが、沙織さんを見習えと私に言ってきて鬱陶しかったので「私の女子力は空手(物理)なんで」と返したら「まぁそうなんだけどねぇ」とライトな反応された。
わかってるなら言うなよ。
食事中は終始沙織さんを中心に話が盛り上がっていた。
私はへぇ、はぁ、ほぉと相槌を打ってはいたんだが、高校3年共通の話題だったので少しついていけなかった。
いや来年私も3年になるし参考にはなるんだけどね?
でもなんだか蚊帳の外にされてる感半端ない…
ガシッ
「あやめちゃん! あやめちゃんも来てたんだ!」
「!? …り、林道さん」
「あれ? 橘先輩と…だぁれ?」
「…空手道場の兄弟子の波良さんと…橘先輩の…彼女? かな?」
「え!?」
どっちかわかんなかったので疑問形になっていたのは否めない。なのだが林道さんはオーバーに驚いていた。
「ちょっ、ちょっとこっち来て!」
「えー私ご飯食べてるんだけど」
「いいから早く!」
林道さんに腕を引っ張られて私はカフェテリアの隅っこ…高3トリオから大分離れた場所まで連れて行かれた。
「橘先輩の彼女!? どういうこと!?」
「いや元カノらしいけど復縁したかもしれないからさ」
「そんな事どうでもいいよ! どうして一緒にいるの!? なんであやめちゃんまで同席してるの?!」
「なんでと言われても。自習席共用からの流れというか」
「あやめちゃんはそれでいいの!?」
「はぁ?」
なんでこんなに必死なんだろうかこの人。
そう言えばこの人も転生者だっけ。
私と初対面のときすごい反応してたし、和真ルートのヒロインのセリフを言っていたこともあるし。
和真さえ攻略できたらそれでいいと思ってんのかなと思ってたんだけど……この人も意味分かんないよな。ちょっと要注意人物。
「林道さんが何をそんなに必死になってるのかわかんないんだけど?」
「だって、復縁しちゃってたら!? あやめちゃん、ちゃんと橘先輩を捕まえておかないと…」
「…なんで私が先輩を捕まえとかないといけないのさ」
意味がわからん。
橘先輩は攻略対象だ。ヒロインと結ばれる存在なのだ。何故私が捕まえる必要があるのか。
先輩は捕獲しておかないと暴れる危険な猛獣なのか。
今現在ヒロインちゃんがどのルートに進んでいるか謎だからなんとも言えないんだけどさ……私はモブだからあんまり関係ないでしょう。
林道さんは訳の分からないことを好き勝手にピーピー言ってきて…
あぁもうイライラするなぁ…
「だって、だって…」
言い淀んでいる林道さんの姿を見ていたら余計にイライラしてきた。
私、はっきりしないのが一番キライなんだ。
ーーーダンッ
「………言いたいことあるなら、はっきり言えば?」
「あ…」
林道さんがうるさかったのでさっさと話をつけようと思って壁に追い詰めたんだけど、林道さんの顔は見る見る内に真っ赤になった。
何だこの人、熱でもあるのかな。と思ったけど、とある事を思い出した。
性差はあるものの私と弟はよく似ているということを。
「…そんなにこの顔好き?」
「え、あ、いや…」
「あのねぇ、顔で好意を向けてこられてもこっちは好きにはなれないの。…顔で弟のことを好きになったなら早めに諦めたほうがいいよ?」
「ち、違う! 私は和真君のこと…」
「…他人のことより自分の心配したら? …一応テスト前なんだから」
しどろもどろになった林道さんを放置して私は席に戻った。
3年トリオが何があったの? と言いたげな顔をしていたが私は素知らぬ顔をして夕方まで勉強をした。
「田端!」
「ん?」
帰り際、私は高3組に挨拶するとさっさと帰宅をしていたのだが、橘先輩がその後を走って追いかけてきた。
「沙織と俺は復縁なんてしていないからな!」
「…はぁ…?」
「過去のことなんだあいつとは」
「…そうなんすか……」
必死の形相で否定してくる橘先輩。
そうはいっても一緒にいるから復縁したと思われても仕方ないと思う。それに彼女は少なからず復縁したがっているように見えたし。
多分、私を警戒して昼休み中も私のわからない話をワザとして私をハブっていたし。
お似合いの美男美女だし、いいんじゃなかろうか。
「んーでも沙織さんはそうじゃ無さそうでしたよ?」
「え…」
「美人さんじゃないですか。先輩と並んでると美男美女でお似合いですし、こうして図書館デートするくらい仲いいなら復縁したら良いんじゃないですか?」
私のがそう返すと先輩は呆然としていた。
はて、どうしたのだろう。
私は間違ったことでも言ったであろうか。
「……違うんだ…沙織が家に来たから…」
「んー、それで結局一緒に図書館来たんだし、交際しているものだと周りは判断しますよ? あ。もしかして受験前だからそういうの避けたいタイプですか?」
「…そういうわけじゃ」
「じゃあなんですか。ていうか私帰っていいですか?」
私に弁解するんじゃなくて沙織さんと話をすればいいのに。
あー…さっきから無性にイライラするなぁ。
「送っていく…」
「大丈夫ですよ。まだ明るいし。それじゃ」
いいって言ってるのに先輩は無理やり送ってきた。ずっと無言で隣を歩いていた。気まずいんですけど。
そして別れ際に追い詰められたような顔で「沙織とはなんともないんだ」と念押しするように言ってきた。
圧がすごかったので取り敢えず頷いておいた。
…今日の先輩よくわかんないわ。
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寿々奈は和真に似たあやめに最初は動揺していた。
あやめがたまに和真と被って見えるため赤面することがあるが百合ではない。
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