少年少女の恋愛模様2
「うぉあっ!助けて!誰か~!」
オネェになったノブちゃんはタカピーの腕に絡みついて、そして半ば強引に森の中へ。
「んもぉタカピー、あんまり焦らしちゃや~よ?」
「きんもー!」
「バイバーイ!頑張ってね~!ズルはナシだよ!」
元気よく手を振るあっちんはノリノリである。
俺の中で、女の子は怖いの苦手というイメージがあるが、あっちんはそうでもないようだ。
「しーちゃん、僕らは最後みたいだね」
「う、うん、そうだね」
「あんまり肝試し得意じゃないんだけど、よろしくね」
「よろしく……」
しーちゃんは本当にあんな調子で告白なんて出来るんだろうか。
まともにゆっちと目も合わせられてないじゃないか。
俺も人の事言えた程じゃないが。
「ねぇねぇイブちゃん。イブちゃんは肝試し、やった事あるの?」
「肝試し……暗い場所や、霊的現象の多発する場所にわざと近付き、度胸を試す。私の星でも心霊現象というものは存在しますが、肝試し自体は文化として根付いてはいません」
「へぇ~、じゃあイブちゃん初体験なんだね!」
「初……体験!?」
イブより先につい俺が反応してしまった。
あっちんの口から初体験などという、俺を興奮させる言葉が出たからである。
あっちん!今から家に来ないか?
「あ~でも緊張するなぁ~。お化け屋敷は行った事あるけど、肝試しは初めてなんだよね~」
「そ、そうなんだ。でも、なんか楽しそうに見えるけど……」
「そんな事ないよ。心臓バックバクだもん。手も震えちゃってるし」
「あ……」
そう言ってあっちんは突然俺の手を握ってくる。
その手から確かに、僅かにだが震えが伝わってきた。
「わかるでしょ?」
「う、うん……」
妙な感覚だった。
憧れのあっちんの手を握っているはずなのに、どうしてだか気持ちが高ぶる事はなかった。
俺は落ち着いていられる。
暗闇の中で外灯の光に照らされたあっちんの姿は、一層輝きを増しているように見えるが、何故だか平常心のままの俺がいる。
普段なら目も合わせる事が出来ないのに、俺は真っ直ぐにあっちんの目を見る事が出来た。
どうしてしまったのか。
ここまで高ぶり続けた初恋の火が、今では風前の灯火かのように、俺の中でか細く揺らめいていた。
「りょーちん?」
「あ、え、どうかした?」
「なんかボーっとしてるから、どうしたのかなって思って」
「あぁ、なんでもない。ちょっとイメトレをね」
驚愕であった。
自分自身の急激な気持ちの変化に、自分自身が驚きである。
きっかけは一体何だったのか。
きっかけは……
「本当に恐怖なのは、幽霊、亡霊、怨霊なんかではなく、同胞の思想なのかもしれませんよ?」
「え……?」
その声に俺の心臓が踊る。
あっちんでも揺るがなかった鼓動が、イブの声だけで速まっていた。
「ん~?イブちゃん、どういう事?」
「幽霊よりも怖いものもあるという事です」
きっかけはもしかして……
「あ!ノブちゃん達帰ってきたみたいだよ!」
「はやっ!」
――――10年前
7月31日
ニックスを出て、北嵩部まで戻ってきた俺たち御一行。
歩きながらも、かつての昔話に華を咲かせるみんな。
次々に思い出す過去に、なんだか呆気なさを覚えていた。
この歳になるまであれだけ苦悩しても、全く思い出せなかった十年前の夏を、こんなに簡単に思い出せる事がとても不思議でならない。
そして長年くすぶり続けてきた喪失感の正体も、未だはっきりしない。
俺があの夏に失ったであろうモノは一体何だったのか。
「肝試し怖かったよね~」
「あっちん、タカピーはビビりなんだぜ~」
「え、そうなの?」
「む、昔の話だ!」
みんなが盛り上がる会話の中に俺が入った。
「そして、ゆっちとしーちゃん、その結末は……」
――――明焦洞穴、通称コゲ穴。
日が暮れた後、この洞窟の目の前まで来るのは、今まで初めてだったかもしれない。
イブと出会ったあの日、確かに一人でこの付近を通ったが、出来るだけ見ないようにしていた。
だって見えちゃいけないもの見えたらヤバいし。
だが今回はそういう訳にはいかない。
俺たちはこの洞窟内部へ入らないといけないのである。
「こっわ~……すごいね……」
正直な気持ちを言おう。
ウ○コ漏れそうだ!
なんだよコレ!無理だよ!ありえねぇよ!
こんなん入ったら中で悪臭にもがく事になるぞ!
「べ、別に余裕でしょ。こんくらい」
こんな人生最大のピンチでも、焦りを表に出さない俺はやはり強者。
「う~りょーちん頼もし~」
もしかして俺先頭?やめてマジ!やめて!
「龍太、行かないのですか?」
「い、い、行くさ!何事も準備運動からなんだよ!」
そういやさっき戻ってきたタカピーは涙目だったな。
顔面も蒼白だったし。
本当に生きて帰れるのかよ俺。
だがもう後には引けぬぞ鹿嶺龍太。
ここでやっぱ無理ですなんて言ったら、みんなからどんな罵声を浴びるかわからん。
行け!行くんだ!死ぬ気になれば何だって出来るぞ!
「行くぞあっちん!イブ!ちゃんとついて来いよ!」
それから五分。
「りょーちん!しっかり!魂が抜けてるよ!」
「美紗子には……愛してると伝えてく……れ……」
コゲ穴、恐るべし。
中は暗くて、上からは謎の水滴がしたたり落ちてくるし、声は反響して妙に恐怖を煽るし、なんだか聞こえてはならない声が聞こえたような気がするし、もう最悪である。
恐怖のあまり半ば意識を喪失しかけた俺だったが、辛うじて生還に成功。
最後の二人に望みを繋ぐ事が出来た。
「僕たちの番だね。それじゃ、行こっか」
「う、うん……」
しーちゃんはゆっちの手を握る事も出来ず、ゆっちの後ろを少し俯き気味についていく。
完全にコゲ山の登山道を登り始めたのを確認した後、俺たちはアイコンタクトを交わし、ゆっくりとその後をつける。
「暗いね。クマとか出てきたら死んじゃうかも」
「そ、そうだね」
いきなりとんでもない会話を始めたゆっち。
本当に奇想天外な不思議君である。
「あ、でもクマってカワイイよね。目が」
「うん……そう……かも……」
「あの背中でモフモフしちゃおっかな」
いつまでクマネタ使ってんだよ。
クマの背中でモフモフなんてしてたら、ベアクローで死亡確定だぞ。
「あ、見えてきた!穴だよ」
そんな二人を見ている俺たち五人は不安を隠しきれない。
「ゆっちは最強の鈍感スキルを持っているのだ。しーちゃんの好意には99%気付いてない」
「ノブちゃんの言う通りだよねぇ……。ゆっち、超天然だし……」
「告白とは、一般的な愛の告白と捉えてよろしいですか?」
「そうだよイブちゃん。今からしーちゃんがゆっちに告白するんだ」
二人は洞窟の中へと入っていく。
その寸前、しーちゃんが勇気を振り絞った一言が聞こえてきた。
「あの!あの……悠君、その……」
「ん?」
「手、手を……繋いでも……いいかな……?」
その一言に俺たちは声を殺して大盛り上がり。
「おぉ!しーちゃんがいった!攻めたぁ!」
「シズ、頑張れ!」
「手を繋ぐ……それは特別なのでしょうか?」
「この場合は大きな一歩だと思うよ」
さてその申し出に、ゆっちはなんて答えるのか。
「うん、いいよ」
ゆっちはそれを快諾すると、自らしーちゃんの手を掴む。
「答えたー!ゆっちが答えたー!男気2ポイントアーップ!」
「やった!頑張ったねシズ!」
なんとまぁみんな揃って物好きな。
とは言え俺もちゃっかり楽しんじゃってるんだけれども。
しかし人の恋路の動向を見守るというのは、なんとも言い難い楽しさがあるものだな。
小学校の時、村中を探検した時と同じような気分だ。
そんな俺たちの事など知らず、二人は洞窟の中へと入っていく。
中に入ったらさすがに見学のしようがないので、出てくるまで待つしかない。
出てきたらいよいよ本番。
しーちゃんがゆっちに告白するというメインイベントだ。
「あ~なんか緊張するね。アタシの事じゃないのにドキドキだよ」
「でもよ、ゆっちは本当にオッケーすんのか?なんだか不安なんだけど……」
「確かに」
タカピーの言う通りである。
ゆっちをよく知る俺たちからしてみれば、あいつほど鈍感な人間はそうはいないだろうと言える。
普段から何も考えていないであろうゆっちが、しーちゃんの事について何か考えているとも思えない。
そんなゆっちがいきなりの告白にオッケーを出すかと言うと、正直な話、あまり期待できないかもしれない。
「雫は悠の事が好きなんですよね?つまり恋をしているという事ですね?」
そんなワクワクした俺たちの中に、イブが空気を読まない発言を差し込む。
「……あぁそうだ。しーちゃんはゆっちに恋してんだよ」
「恋……つまり素敵な気持ちなのですね」
そういやこいつ、恋をしたことないんだっけ。
やけに目を輝かせているなと思ったが、恋愛に関して興味津々な様子だ。
そこは地球人も宇宙人も共通しているという事に、なんだか親近感が湧く。
「イブちゃんも興味あるんだ?恋愛に」
「はい、なんでもとても素敵な気持ちになれると聞いていますので」
「あはは、やっぱりイブちゃんも女の子だね~。カワイイ~」
イブの頭を撫でるあっちん。なんとも微笑ましい光景である。
だがあっちん、イブは一応年上だぞ?
「お、キターー!戻って……キターー!」
ノブちゃんの声に導かれるように俺たちの視線は同じ方向へと向けられる。
洞窟の中から出てきたしーちゃんとゆっちは、中で少し走ったのか、息を切らしているようだ。
「はぁはぁはぁ……怖かったね、しーちゃん」
「はぁはぁ……こ、怖かった……」
しかし二人の間には恐怖で引きつった顔はない。
本当に楽しんだかのような笑顔があった。
俺の時は死ぬかと思ったがな。
「あれ?なんかいい雰囲気じゃない?」
「あれがいい雰囲気なのですね?」
中に入る前よりもしーちゃんの堅さが無くなっているようだ。
ゆっちもなんだか楽しそうだし、これはひょっとするとひょっとするかもしれないぞ。
そしてそれからは、俺たちは会話をする事も忘れて二人に釘付け。
「じゃあ、戻ろうか」
「うん……」
ゆっちが差し出した手を、再びしーちゃんが掴んで歩き出す。
そして月明かりが照らす丘の上、しーちゃんは立ち止まった。
手を繋いでいたゆっちもそれに気付いて振り返る。
「しーちゃん?どうしたの?」
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