第十一話 少年少女の恋愛模様

少年少女の恋愛模様


10年前

8月8日



「タカピー!それはまだ早い!もっと近いのがあるだろ!」


「うぅ……わからん……こいつか?」


「違う!左下の奴だよ!」


ようやく俺が言った隕石がロックオンされる。

その瞬間に映像に浮かび上がる数字のカウントダウンが開始された。

そこにはこう表示されている。


『大気圏突入まで33秒』


大気圏を突破されたら隕石が燃え尽きる事はなくなってしまう。

正面のモニターには予測進路が表示されているが、僅かなブレがミスへ繋がる。

隕石をかすめた程度では破壊には至らないので、そのど真ん中に一撃を与えなくてはならないのだ。


「いけっ!」


俺はその隕石へ向けて、発射スイッチを押した。

モニターにレーザー発射の軌道が描かれ、その通りに隕石へと直進していくレーザー。


「よ~し、いけいけ!」


「これはいけるんじゃないの!?」


発射から隕石到達までの時間、約四秒。

ただしそれは距離によって微妙に異なる。

その正確な時間まで、モニターに表示されているが、これを見ながら計算するのは至難の業だ。

ちなみに今の到達までのラグは3.7324秒らしい。

勘で撃ったレーザー砲は、勢いを落とす事無く隕石へ。

だがレーザーの光が隕石に衝突する寸前、妙な事が起きる。


「え!?」


隕石の回転、そしてスピードが僅かに変化したのだ。

レーザーは隕石の端をかすめて、僅かに破壊するが直撃とは至らない。


「な、なんでだよ!今のは完璧だっただろ!?」


「地球に近付きすぎているせいで、地球の引力、重力に僅かに影響を受けます。表示も左上にされていますよ」


「うっ……」


FPSシューティングと同じだと思ってナメていたが、これは相当な集中力が必要になる。

そして一番問題なのは、一度撃ってしまうと、エネルギーの充填に時間がかかるという点だ。

エネルギー生成の核となるリーアだが、俺たちが持っているのは残りカスだけ。

本来は塊を使うはずであり、その場合、エネルギーの充填にかかる時間も僅かだったらしい。

だが今の俺たちの場合、エネルギーの充填に13.5秒の時間が必要となる。

一度外せば、次の発射までに14秒近い時間をロスする事になるわけだ。

他の二組も同じ状況下で動かしているので、正確に言うならば、約14秒の間に撃てるのは三回までという事になる。

もちろん誰かが失敗した時、その隕石を早く潰さなければいけない場合、他の二組の協力が必要となるわけで、今のこの場合もまさにその時である。

俺たちが失敗したという事が、みんなのモニターに表示される仕組みだ。


『大気圏突入まで11秒』


「りょーちん!どうやらピンチみたいだな~!」


「アタシ達がやっちゃうね!」


頼もしい、あっちんとノブちゃんペアの声が聞こえてくる。


「ノブちゃん、OKだよ」


「この辺だろ。ブレストファイヤーー!」


第二撃、左翼ペアのレーザー砲が発射されると、地球に最も近い隕石の元へとまっしぐら。

だが既に隕石は大気圏突入直前であり、さらに大きな加速を見せていた。


「あっ!」


レーザーは隕石にかする事もなく逸れてしまう。


「ゆっち!しーちゃん!頼んだ!」


二つ目を外してしまったら、後は右翼ペアに任せるしかない。


「任せて。もう撃つだけだから」


ゆっちにしては頼もしい一言を言って、その一撃を放つ。

大気圏突入直前、僅かに炎を帯び始めた隕石に向かう光線。

やがてその光は、一直線に隕石の中心を貫いた。


「おおっ!ゆっち!やる~!」


「へへへっ、こういうのは得意なんだ。しーちゃんがすぐにロックオンしてくれるからやりやすいよ」


「え、そ、そんな事……全部悠君のお陰だよ……」


聞いてるだけで痒くなるような会話だ。


「みなさん、リラックスするのはいい事ですが、隕石群は待ってくれませんよ?」


気付けば衝突まで20秒以内の隕石が既に三つある。

充填まで時間がかかるので、一人でも外せば絶望的だ。


「タカピー!早くロックオンを!」


「あ、あぁわかってるよ……」


「えっとラグは3.28で、加速するとしたらこの辺か?」


そして発射される二撃目は、隕石をかすりもしなかった。

隕石は地球に衝突、世界中に甚大な被害が出てしまった。


「あぁ、やっちまった」


実戦に向けた映像によるシミュレーションは失敗。

既に毎日毎日、何度も挑戦しているが、一度も成功出来た事がない。

正直な話、これはかなりマズい状況ではあるが、みんなはやはりあまり危機感を覚えてはいないようだ。

大きな隕石が一つでも大気圏を突破してしまえば、百万とは言わないにしろ数万くらいの犠牲はあり得る。

本番である8月27日の夜までの間に、完璧に成功出来るようにしなくてはならないのである。


既に20日を切っている事に、俺は焦りを感じ始めていた。

しかも足を引っ張ってるのは、俺とタカピーペア。

まだまだ練習が足りないのかもしれない。


「いや~疲れたぁ!ナイスファイト、あっちん!」


「ノブちゃんもお疲れ様。惜しかったよね」


と、楽しそうに会話を弾ませるあっちんとノブちゃん。


「いつも思うけど、次世代のゲームをやっているような気分だね」


「わ、私は……あんまりゲームとか、やった事ないかな……」


しーちゃんとゆっちは相変わらず痒い感じだ。


「難しい……難しすぎる……」


「……」


タカピーは頭がテンパってしまっているようだ。


「今日はこれくらいにしておきましょう。皆さん、イメージトレーニング、仮想練習をお願いします」


俺たちの司令塔、総指揮官的立場にいるイブがみんなにそう告げると、今日の訓練はお開きとなる。


時刻は夜九時前。

それぞれ帰路につこうとしているみんなを、あっちんが呼び止める。


「ねぇみんな!今から肝試ししよっ!?」


そしてノブちゃんとタカピーが一瞬でそれに乗っかった。


「あっちん!それナイスアイデアだぜ!」


「た、楽しそう~!やろうやろう!」


ノブちゃんはともかく、タカピーは少し無理してるのが丸わかりだ。顔引きつってるし。

俳優にはなれそうもないな。


「場所はやっぱり、コゲ穴かなぁ~」


「そ、それって、北嵩部一の心霊スポットじゃんか~!」


そして再び明らか不自然な反応を見せるタカピー。

もはや俺も苦笑いするしかない。


「ゆっちもやるでしょ?肝試し」


この明らか不自然な空気、一般人ならば、何か裏があると考えるのが普通。

いくらゆっちとは言え、あのタカピーの酷すぎる小芝居に疑いを持つのは当然である。

そう、いくらゆっちとは言え、なのだ。


「肝試し、楽しそうだね。僕も賛成だよ」


……今わかった。

奴は既に一般人のレベルではないのだと。

微塵の疑いすらも持たぬ笑顔、なんて眩しいんだ。

いつか詐欺に遭うのはもう間違いない。


「おぉ!さすがゆっち!男だなぁ~!」」


何はともあれ、事は当初の予定通りに進めそうだ。

肝試しをやるという事は、ゆっち以外はみんな予め知っていた。

もちろんゆっちに秘密にしていたのには理由がある。

それは今日の昼間、あっちんに呼び出された所から始まった。










「こ、告白!?」


喫茶店ニックス、そこにはゆっち以外の仲間達が集結していた。


「しーちゃんが、ゆっちに!?」


驚きを隠せない様子のキツネさん。

しーちゃんがゆっちの前だと緊張してるって事に今まで気付かなかったのかよこいつは。


「……うん」


しーちゃんは恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めて俯いてしまう。


「そ、そうなんだ、突然すぎてびっくりしちゃったよ……ははは……」


「なんだ、もしかしてタカピー……しーちゃんの事……」


「違うってばよ!」


しーちゃんがゆっちの事を好きだというのは、タカピーとイブ以外のみんなは感じ取っていたようで、あんまり驚く奴はいない。


「シズはもう決めてたの。夏休み中にゆっちに告白するって」


あっちんがその場を仕切っているが、あくまで今回の主役はしーちゃんである。


「ほほう、なるほどなるほど」


ちなみにゆっちは、しーちゃん以外のクラスメート、さらに後輩達からもイケメンとして大人気なのである。


くそう!その顔よこせ!


「でもいつまでも先延ばしにしても始まらないじゃん、って事で告白は今日にしようと思ってるの」


「そりゃまた急な……」


「善は急げ、時は金なり!こういうのは当たって砕けろ精神が大事だからね~」


あっちんの言ってる事は正しい。

確かに行動へ移さない限り、何かを得る事は出来ないのだ。


「そこでみんなに協力を要請しまーす」


簡単に言うと、しーちゃんはゆっちに声をかける事もままならない程の恥ずかしがり屋なので、みんなの力でどうにか二人きりの状況を作れないかと、そういう話だ。

しかも、より成功率を上げる為に、出来るだけ運命めいたものがいいという要望が入る。


「運命めいた設定かぁ……」


それからは色々な意見が飛び交ったが、どれも現実味を帯びてないものばっかり。


「やっぱりガラスの靴を置いといて……」


「やはり矢文!これで決定!」


「運命と言えばやっぱり、図書館で、本を取ろうとしたら手が触れ合っちゃって……」


みんなそれぞれ妄想の世界へ行ってしまったようだ。

仕方ない。ここは俺がまとめるしかないだろう。


「夏だし、肝試しとかでいいんじゃないか?」


「肝試し……それ、いいかも!」


という俺の適当な一言が、すべての引き金になってしまった。

肝試しと告白、何ら関係がないように思えるが、そういう所は気にしてはいけない。


「くじを仕組んで、二人がペアになるようにすれば、二人きりになれるし……」


「運命も感じちゃうね!一石二鳥だね~!」


「よし、諸君!作戦行動開始だ!」













そして今に至る。

この機に乗じて、俺もあっちんに告白しちゃおっかな~、なんて、度胸もないのに考えてみたり。


「じゃあ説明するよ?よ~く聞いててね」


コゲ山を降りた俺たち七人、その麓へ戻って来ると、あっちんからの説明が予定通り開始される。


「全部で七人だから、2、2、3に分かれよっか。そしたら一組ずつ出発、コゲ穴の一番奥から、丸い石を持ち帰る」


これはしーちゃんの告白の為ではあるが、正直、俺は肝試しなどしたくはない。

もしあっちんとペアになったとしても、カッコイイ所なんて見せられないぞ?


「ペアはくじ引きで決めるよ!」


運命のくじ引きの結果はこれだ。





一組目

ノブちゃん、タカピー

二組目

俺、イブ、あっちん

三組目

しーちゃん、ゆっち





まぁ三組目は元々決まっている事だ。


「げ、ノブちゃんと二人……」


「タカピー……愛してる。今日は二人で、熱い夜を過ごそう」

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