始まりの遠い夏3
だがあれはあくまで映画だ。
まだ十四年と幾月かしか生きていない俺でも、あんな風にうまくはいかないだろう事は理解している。
本気で宇宙人が攻めてきたら、きっと地球人にそれを止める事なんて出来ないだろう。
例えばこいつのように、他の星からここまで来れるような奴からすれば、地球侵略など容易い事に違いない。
「私が地球へ来た目的は二つあります。一つはとある物質の捜査、索敵、探索、回収、確保、保全です」
「とある物質?」
「地球では該当する言葉がありません。アークネビルではレクリクルス・フローエン・リーアと呼ばれています」
「れくるす……なんだって?」
宇宙人ってのは長い名前を付けるのが好きなのか?
「ここでは短縮しリーアと呼称しましょう」
もはや何がなんだかわからんが、つまり大まかに言えば『何かを探しに来た』という事だろう。
「まぁそれは置いといて、二つ目の目的は?」
頭の中には地球侵略の文字だけが延々と流れ、なんだか俺の脳内が侵略されそうだ。
だが逆に友好的な宇宙人という可能性もあるだろう。
さて、次に出る言葉はどっちだ?
彼女は少し間を空け、そして落ち着いた口調で答えた。
俺の予想を遙かに上回る事を。
「地球を救う事です」
――――「地球を救う事……」
そうだ。確かにあいつはそう言った。
そしてその言葉はタカピーの日記帳に書かれていた事と見事に一致する。
「あの夏休み……俺たちは……世界を救ったのか……?」
未だ欠落したままの記憶ではいまいち実感は沸かないが、恐らくあの日記帳に書いてある事は事実だろう。
確かあれには地球に隕石が落ちてくる、みたいな事が書かれていたな。
地球を救った=隕石を止めた
って事か?
日記に目を通した時も思った事だが、やはり話の流れを見る限り、おそらくそういう事なんだろう。
本来なら中学生の俺たちにそんな事が出来る訳ないと鼻で笑うところだが、既に一般の常識を超越した場所に俺はいたのだ。
何が起きてもおかしくない。
そう、中学生の俺たちが地球を救っていたとしても、何ら不思議ではないのだ。
「なるほど……だんだん思い出してきたぞ……」
今ならその後の事も思い出す事が出来るかもしれない。
一度深呼吸して、精神を集中させる。
今までだったら決して触れられなかった記憶に、何故だか今は簡単にアクセスする事が出来た。
そして呼び起こす。
俺の海馬の奥底にしまい込んだ記憶を、必死にたぐり寄せた。
――――「現在地球に、37個の岩石、隕石が近付いています。それは今年、2002年、8月27日23時43分から28日0時20分にかけて、この地球に降り注ぐでしょう」
隕石が落下する。
隕石について詳しいわけではなかったが、映画などの中でその破壊力は表現されている。
「隕石!?37個!?それはヤバいのか!?」
地球を救う事と銘打ったイブの言葉から察して、かなりの高威力、大きな被害が出る事は予想出来ていた。
ただそれは明確なものではなく、あくまで俺の脳内による想像の破壊力。
彼女はそれがどれほどの威力を持つものなのか、正確に知っているはずだ。
俺の予想通り、彼女はなめらかな口調で隕石の説明をしてくれた。
「正確に言えば、元は直径20キロ程の小さな小惑星でした。ですが他の隕石の衝突により完全に崩壊、壊滅、破壊されたのです」
「って事は……つまり地球に降るって噂の隕石は、その小惑星の欠片……って事か?」
「はい、その通りです。本来地球の軌道上に交わらない小惑星でしたが、衝撃でその破片の一部の軌道が、地球の軌道に乗ってしまったのです」
にわか知識ではあるが、その大きさで威力が変化する事くらいは知っている。
確か恐竜を絶滅させて、地球を氷河期にさせた隕石の大きさは直径10キロ程度だったと聞いた事がある。
もしもイブが言うこの37個の隕石がそのレベルのサイズだったら、本当に地球滅亡レベルの緊急事態だ。
「小惑星の破片のほとんどは地球の大気にて燃え尽きるでしょう。ですがその中の37個の隕石が、大気を突破し地上に落着、または空中爆発を起こす事が予想されます」
「……悪い。それがどんくらいヤバいのかわからん」
「実際に被害を起こすと予想される欠片のサイズは、ほとんどが100メートル以上のものです」
100メートルか……。
かつての10キロの隕石、小惑星から比べると大した事はないだろう。
「地表に落着した場合、町が一つ消し飛びます」
「なにっ!!」
「中には300メートル以上のものも観測されているので、被害はそれ以上に上ると予想されます」
たかだか100メートル、だけどよく考えてみればそれは相当巨大な物体である。
100メートル走、誰しもがきっと経験のあるあの短距離走。
あれと同じ大きさを持つ岩が空から降ってくるのである。
とても笑い事では済まされぬレベルだ。
「マジ……かよ……」
「もしこの隕石を止められなければ、自然や生物にかなりの被害が出るでしょう」
「人は?人はどれくらい犠牲になる?」
聞かなくてはならない。
それがどういう事を意味するのか。
どれほど深刻な事態なのか。
「まだこの地球に点在する都市に住む、正確な人口を把握しきれてはいませんが、恐らくは……」
中学三年の夏休み。
俺は髪の毛が水色で、日本語を喋る宇宙人と出逢った。
その出逢いは偶然だったのか、あるいは必然だったのか。
未来がすべて確定しているのなら、この出逢いもまた、起こるべくして起こった運命なのかもしれない。
「100万人単位の死者が出る事になるでしょう」
夏が始まった。
暑い暑い、夏が始まったのだ。
俺たちにとってその夏は
百
万
の
命
を
賭
け 最
た 高
に
暑
い
夏
だ
っ
た
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