始まりの遠い夏2

貴様の正体は既に割れているのだからな。

この俺の鋭すぎる頭脳によって。


「別の星、惑星から来ました。こっちで言われる『宇宙人』というものです」


「……」


えっと、明日は確か晴れだったかな。

今日は星がよく見えるし、多分晴れだな。よーし、遊びまくるぞ!イェーイ!


「もしかして信じてくれないのですか?」


現実逃避に走った俺の思考を、無理矢理引き戻した自称宇宙人。

髪色こそおかしいものの、姿形は人間と相違ない。

しかも欧米系ではなく、日本人に近い顔質。

よく見ればなんかちょっとカワイイし、胸もそれなりにあって柔らかそうだ。


「……」


とても宇宙人には見えない。

やはり頭のネジが数本飛んでしまっているのだろうか。

いや待てよ、そういや俺がここへ来た理由は隕石を探す事だったよな。

そしてここへ来て俺が見たのは、宙に浮くでっかい卵。

って事はつまり、俺が見たあの流れ星はこいつの乗っていた卵、いや……宇宙船だったのかもしれない。

地球上ではまだ開発されていない(と思われる)完全なるステルス機能を搭載していたのも理解出来る。

さらに言うならば、流れ星はもちろん炎を纏っていた。

つまり、大気圏を抜けて来たという事になるわけで。

こいつが宇宙から来たという可能性が一気に高くなる。


「本当に……宇宙人なのか……?」


「はい、私の棲んでいた星、惑星は、アークネビルと呼ばれています」


「あーくねびる……?」


なんだそのRPGのラスボスが使う必殺技みたいな名前は。


「アンドロメダ銀河の矮小銀河に属する惑星。地球人はまだ、その存在を確認、発見、捕捉出来てはいないと思いますが」


「……は?」


「自転周期は地球時間での換算によると、25.135時間。公転周期は348.343日です」


「待て待て待て~ストップ!」


「ストップ……停止、停泊、停滞」


「そうだ。そんなに言われても理解できん」


俺は今、本物の宇宙人と会話してるってのか。



マジで?



激マジで?



俺有名人間違いなしじゃん。



「宇宙人キターーー!」


まだ実感は沸かないが、俺は今未知との遭遇に成功したのである。

神はこの俺を選んだのだ。

これは人類にとって大きな第一歩、大きな躍進。

その始まりがこの俺。俺はまさに選ばれし存在。


「……?」


「よし、宇宙人よ!して、名前はなんだっけ?」


「アンドリュケルム・イグナシート・イブ・ファクリシェリンです。仲間、友達、友人からはイブと呼ばれていました」


「イブな。俺の名前は鹿嶺龍太だ。好きに呼んでくれ」


俺は再び、今度は俺の方から手を差し出す。

まだ信じられない部分はたくさんあるが、今は仲良くしておくべきだろう。

だって今からこいつは俺の糧となるのだ。踏み台になるのだから。

機嫌を損ねて帰られてもたまったものじゃない。


「鹿嶺……龍太……」


「ん?そうだけど……どうかしたのか?」


イブと名乗った宇宙人の少女は、俺の名前を聞いた瞬間、一瞬だけ目を細めた。

だけどそれは一瞬だけで、すぐにさっきの表情へと戻る。


「あ、いえ」


差し出した右手を優しく包み込むように、その綺麗な手が俺と結ばれた。


「よろしく」


「よろしくお願いします」


二度目の握手で、俺の警戒はようやく少しだけ緩んだ。

だがまだ安心してはいけない。

何せ相手はアークネビルという必殺技を使う、宇宙からの使者なのだ。

いきなり俺に襲いかかって来る事もないとは言えない。

が、ここで臆病風に吹かれ躊躇っていても進展はないのだ。

コロンブスは海の果てを目指した、そこに躊躇いはなかった。


「イブ、俺の家へ行くぞ」


「龍太の家、ですか?」


「そうだ。こんな所にいたら虫に刺されて最悪なのだ」


「虫に刺される!?危険なのですね!?刺された場合、どのような症状を発症するのですか!?」


そうか、こいつは宇宙人。

地球の事に関してはあんまり詳しくないのか。

でもなんで宇宙人が日本語を喋れるんだ?


「まぁいいからついてこい」


「あ、はい。了解しました」


そして俺は宇宙人を自分の家へと持ち帰った。










――――「ふふふ、思い出してきたぞ……」


「龍太君?ど、どうしたの?」


十年前、俺はこの場所で宇宙人とのファーストコンタクトに成功した。

十年もの間、記憶の奥底に封印されていたが、今では手に取るように思い出せる。


「こうしちゃおれん!次だ次!」


「あ、ちょっと龍太君!」


俺は疲れも忘れ、しーちゃんの存在も置いて走り出した。

向かうは自宅。

俺は宇宙人を自宅へと連れ帰った。それだけは間違いない。

という事は、もしかしたら俺の家のどこかには宇宙人の手掛かりになる何かがあるのかもしれない。

今現在、近くにあの宇宙人がいない事から考えても、恐らく彼女は自分の星へ帰ったと考えるのが妥当だろう。

そして、その際に自分を知る人間達から記憶を消した。


そう考えればすべて辻褄が合う。


「だから俺たちはあの夏の事を思い出せなかったんだ」


なら、彼女は一体どういう目的があってこの地球にやってきたのか。

さらに言うなら、日本の、この北嵩部村という辺鄙な地域にやってきたのだろう。

タカピーの日記帳には世界を救っただとか何とか書かれていたが、それが理由かは定かではない。

そりゃあ間違って都心なんかに着陸してしまったら大騒ぎになるのは間違いないが。


十年前の俺もきっと彼女に尋ねたはずだ。

ならばあの頃の俺の行動を追えば、何かが見つかるかもしれない。

あるいは、思い出す事が出来るかもしれない。


俺が家に戻ってくると、珍しく騒がしい母親の姿がなかった。


「そういや美紗子は今日仕事か」


そんな事は今はどうでもいい。

俺は記憶の糸を手繰り、あの日の事を必死に思い出してみた。










――――「静かにな。音を立てるなよ」


「はい」


真夜中に宇宙人の女の子を家へと連れ帰る俺。

彼女は俺の言葉に従順で、言った事は素直に従ってくれる。

美紗子は既に眠っているようで、家の中は静まり返っていた。

そんな中を俺はイブを連れて自分の部屋へと向かった。


「よし、成功だ」


「成功、達成、成就、地球の言葉は難しいですね」


「地球の言葉が難しいというか、日本語が難しいんだ」


日本語は世界一難しい言語だと言われている。


「適当に座ってくれ」


「はい」












――――「部屋、そうだ俺はあいつを部屋に連れていった」


俺は流れる汗を飛ばしながら、二階にある自室への階段を駆け上った。

息を切らしながら自分の部屋へと到着した俺は、かつての記憶と同じ位置、同じ向きで座る。


あの時、この目の前にはイブという宇宙人がいた。

彼女はとても可憐で、美しくて、地球人と変わりない姿形をしていた。


「そして俺はここで話をした。疑問に思っていた事をすべて」












――――「宇宙人なのに、どうして地球人と同じ姿をしてるんだ?」


俺の質問に彼女は少しも動じることなく、すぐに答えを返してきた。


「私が知る限り、地球人はまだ無知なる存在だと把握しています。宇宙に関しては赤子同然。この地球では、地球以外での知的生命の可能性は、あくまで想像、妄想の類の域を脱しきれない話、としての意味しか持ち合わせていません」


なんだか随分難しい言い方だな。

一瞬違う国の言葉かと思ったわ。


「地球では未だに、他の知的生命との接触はなく、またその存在も確認されていません」


「ふむふむ、確かに宇宙人らしき存在が映った映像やら写真やらはテレビの特集番組で見たけど、どれも怪しいものばっかだったな」


「龍太、あなた、君、お前、テメェは……」


「ちょっと待て。なんか聞きにくいから、『あなた』で統一しろ」


「はい、了解、理解、把握しました」


「……」


まぁこの辺りは追々直していけばいいだろう。


「龍太、あなたは宇宙の広さを知っていますか?」


宇宙の広さ、それは色んな場所で言われている事だ。

少し前、学校の図書室でなんとなく見た『宇宙の神秘』という本に、それに関しての事が書かれていたのでよく覚えてる。


「宇宙は無限の広さを持っていて、それは今も膨張し続けている」


「その通りです。宇宙の広さ、それはとてつもなく、想像を絶する大きさを持っています」


もちろん俺は宇宙なんて行った事はないので、それがどれほど大きなものなのかは知らない。


「その莫大な宇宙という空間には、無量大数の星が存在しています。地球と似通った星も、数えればキリがないくらい存在しているのです」


「む、無量大数……?」


確か小学校の頃の算数の授業で教えて貰った気がする。

現存する、漢字の値の中では最大値の位だとかなんとか。


「私たちの星、アークネビルも、地球とよく似た星の一つ。地球人と同じように呼吸し、地球と変わらない重力の上を歩き、地球人とよく似た姿をし、地球人と同じように生殖する。それがアークネビルの知的生命、ここではわかり易くネビリアンと仮称しましょう」


「えっとつまり、お前らネビリアンの星も、地球とほとんど変わらないって事か。で、俺たち人間とネビリアンの姿もほとんど一緒」


「はい」


さて、どうしたものか。

こいつの言う事を信じていいのか。

確かに宇宙は広いし、映画やアニメで宇宙人が人と変わらない姿をしてたりはするが、やっぱりかなり飛び抜けた発想だ。


「まぁいい、次の質問だ。何でお前は日本語を喋れる?」


百歩譲り、宇宙人だとしよう。

だがさすがに地球と、それも地球上の現存するすべての言語の中で一番難しいと言われる日本語、いくら姿形は同じにしろ、そこまで被るはずはないだろう。


「私たちネビリアンは既に、十年以上前にこの星の存在を知っていました。そしてそこにはネビリアンと同種、同系列、同族の知的生命が存在している事も知っていました」


「知的生命……つまり俺たち人間の事だよな?」


「その通りです。地球に来る時には、その土地の言語を知っておくべきでしょう」


例えば俺が他の星へ行った時、そこで出会った宇宙人と意思疎通が出来なかったら不便でならない。

その土地の言語、意味を知っていたら、会話が可能になり様々な情報を知る事が出来るだろう。

確かにイブの言う事は理にかなってはいるようだ。


「じゃあ最後にして最大の質問だ」


多分この宇宙人に最初に出逢ったのが俺じゃなかったとしても、そいつはきっと俺と同じ質問をするはずだ。

だがこの質問をするのはかなり勇気がいる。

何故ならその答えが、SF映画のようなものだったらヤバいからだ。

少し間を空け、俺は睨みつけるように彼女の目を見る。

彼女の曇りのないガラスのような綺麗な目は、いくら見つめてみてもその奥を全く見透かせない。


だがどう転ぶにしろ、確かめねばなるまい!

俺は一人類なのだからな。






「お前が地球へ来た目的はなんだ」






宇宙人と言えば地球侵略。一昨日の夜、そんな映画がテレビで放送されていた。

映画では苦戦を強いられるも、相手の弱点を突いて地球人類が勝ったはず。

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