まさかの展開3
言おうとしていた事をすべて俺に当てられてしまったしーちゃんは、一瞬言葉を詰まらせた。
「え……あ、もしかして同じって事?龍太君と」
「ご名答、ちなみにこの体験をしたのは俺だけではなく、タカピーもあっちんも既にその領域に達している」
「え、そうなんだ。なんか不思議な感覚じゃなかった?」
そうなのだ。不思議なのだ。
思い出した今からしてみれば、何故忘れていたのか疑問に思うほどの出来事。
救急車事件にしろ、宇宙人襲来にしろ、本来なら忘れるはずのない事なのだ。
それをまさか忘れているとは、考えられるのはやはり記憶操作か。
「今日みんなを呼んだのは、その話をする為なのだ」
「あぁ、そう言えば僕も、ノブちゃんが救急車で運ばれた事、思い出したんだ」
そして前を歩いていたヒゲナシゆっちは、俺たちの話を盗み聞きしていたようで、突然会話に乱入してくる。
「ヒゲナシ君もか、ノブちゃんは……」
ノブちゃんは一番先頭ではしゃぎ回っている。
25にもなったのに、随分と元気なものだな。
「ヒゲナシ君も同じだよな?昨日の事のようにはっきりと思い出せる」
「そうだね、そんな感じかなぁ」
やはり俺の勘は正しかったのだ。
きっかけがあればあの夏の出来事はすべて思い出す事が可能なのである。
そしてそのきっかけになり得るブツも我が手中にあるのだ。
イケる……。
イケるぞ……。
既にイーシャンテン、いやテンパイだ。
そしてリーチ。
五面待ちだ!
「ふっふっふ……」
RPGで言うところの、裏ボスを倒した後のラスボス戦。
パチスロで言う中段チェリーからのBAR揃い。
ドラゴンボールで言う、『クリリンのことかぁぁ!』。
つまり、到達したのである。ずっと目指していた遙かな高みへ!
…………
…………
…………
「あ~……」
そして川。
正式な名称は確か
普段から呼ぶ事も少ないので、うろ覚えである。
そんな川にパンツ一丁で飛び込むノブちゃん。
ショートパンツを履いているあっちんも、靴を脱いで膝まで川の中へと入って満面の笑み。
同じようにヒゲナシ君も足首まで、川の水に浸して気持ちよさそうだ。
タカピーは足を滑らせて、全身ずぶ濡れ状態。
その様子はまるで中学の時を思い起こさせる。
「あ~……」
「龍太君、そんなにショックだった?」
そして俺は川の周りにひしめく岩場に腰掛け、黄昏ていた。
隣に座って話しかけてくるのは人妻のしーちゃん。
「でも、やっぱり普通は信じてくれないと思うな。宇宙人なんて」
「……」
この川に到着してまず、俺は今までの事情を説明。
タカピーの日記帳をみんなに見せて、俺が思いだした事をすべて話した。
が、やはり一般人の先入観を覆すには至らなかった。
『宇宙人はいるかもしれないが、会えるはずはない』という定着した固定観念が邪魔をするからである。
最低でもこの中に、『宇宙人はいない』と考える奴がいなかったのがせめてもの救いか。
「宇宙人はいたんだよ。俺は思い出した。しーちゃんも信じてくれないのか?」
しーちゃんは困ったような苦笑いを浮かべて、俺を傷付けないようにと出来るだけ優しい言葉を並べた。
「えと……龍太君を信じてないってわけじゃないんだけどね……。でもさすがにほら、宇宙人とかってなると、まだ未開拓の地というか、未知の領域というか……」
みんなが自ら思い出さない限り、やっぱり信じて貰うことはかなわないのかもしれない。
逆の立場からしてみれば、いくら妙に鮮明な記憶が蘇った経験があるからといっても、それを宇宙人と結びつけるのはさすがに無理があるよな。
「ふ~……やっぱり待つしかないか……」
他に手がない以上、思い出してくれるまで待つしかない。
だが俺を含めみんながこの北嵩部にいるのも後数日、それまでに何か思い出せるのだろうか。
最低でも、みんなと宇宙人が会った記憶を思い出してくれれば、みんなも信じざるを得なくなるだろう。
持っていたタカピーの日記帳を開き、その一部分を再び読み返してみた。
7月28日
すごい!これってもしかしたら人るい史上最大の出来事かもしれない!
りょーちんが宇宙人をつれてきた!
しかもとってもカワイイ女の子!
でもこれはみんなだけのひみつ!
ここに書かれている事が本当なら、俺はこの時、何人かに宇宙人を紹介した。
『みんなだけのひみつ』という事は、少なくとも俺とタカピーの他にも誰かが知っているという事になる。
俺があの夏休みに誰と遊んでる比率が高かったのかは、記憶が欠落しているのでわかるはずもないが、誰と遊んでたかはある程度予想出来る。
中学の時によく一緒にいた連中と言えば、あっちんとしーちゃん以外のここにいる同性メンバー。
当時、中学時代では異性という壁が邪魔をしていたせいで、女子達とは特別な行事以外は遊ぶ事は少なかった。
特に中学の時の俺は汚れを知らぬ純情少年だったので、異性、主に好意を抱いた異性に対しては、まともに目も見れなかったレベルである。
となると、俺がかつて宇宙人をみんなに会わせた時の、『みんな』とは恐らく、俺、タカピー、ノブちゃん、ゆっちの四人である事が濃厚だ。
「ん~……行ってみるか」
「龍太君?」
「しーちゃん、俺には行く所がある!」
「え?」
「大丈夫だ!数十分で戻る……予定だ」
「あ、待って」
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