まさかの展開2

だがやはりそうではなかったのだ。


「ん~確かに不思議だと思うよ~?こんな経験無いしね」


「あっちんだけじゃない。俺も、タカピーも、しーちゃんも、ゆっち、当人であるノブちゃんも覚えてなかった。誰も覚えてないなら、ノブちゃんが救急車で運ばれたのは勘違いだったかもしれないとも思うだろ?」


「うん、普通はそうだよねぇ。アタシも昨日までは絶対ないって思ってたし」


「だが俺もあっちんも今ならわかるだろ?あれは十年前、という事が」


これは現実である。

蘇った記憶が作り出すのは、鮮明な事実。

あの夏、現実に起きた事。


「そうだね、あれは現実に起きた事。でもなんで忘れちゃってたんだろ?」


忘れていた理由は俺にもわからない。

ただあの夏、俺は宇宙人らしき存在と遭遇している。

あのカワイイ宇宙人が、何かしらの特殊能力を発揮して記憶を消した可能性も否めない。

なんたって宇宙人だからな。地球のモノサシでは測れない。

宇宙では地球の常識は通用しないのである。


「俺はずっと、もう十年もあの夏の事を追いかけている。この十年、わからなかったあの夏の出来事がようやく紐解かれ始めた。そして俺は、俺たちは今、その片鱗に触れているのだ」


そのまま俺は今までの経緯を説明。タカピーの日記帳も見せた。

あっちんはその日記帳を読み終えると、堪えきれなかったのかついに笑い始める。


「ぷっ……ぷはははっ!何コレェ~!」


あっちんのこの反応は間違いじゃない。こんな訳の分からない日記帳を見たところで、信じる奴の方がどうかしてる。


「タカピーの作った小説か何かじゃないの~?」


「俺も最初はそう思った。けどな、もしかしたらこれは本当に起きた事かもしれない」


あっちんはわざとらしく泣く素振りを見せながら俺の頭をさすった。


「りょーちん……辛い事があったんだね……。よしよし。でもね、現実から逃げちゃダメだよ……」


「現実逃避などしとらんわ!したくなる時ばっかだけどな!」


あっちんの手を華麗に振り払い、ブランコから降りる。


「これは俺の妄想なんかじゃない。十年前のあの夏、俺は水色の髪の毛をした女の子に会った」


「水色~?染めるの難しそうだなぁ」


「まずは徹底的な脱色をし、その上からカラーを、どうでもいいわ!」


「あははは、ウケる~」


ダメだ。話にならん。


「……まぁいい。遅かれ早かれ、おそらくその内思い出すだろう」


俺の記憶の欠落が他の仲間達と一緒の現象だとすれば、俺と同じように日記帳を見た事がきっかけとなり、あの欠落した過去を思い出す事が出来るはずだ。

どうせなら同じように、ゆっち、ノブちゃん、しーちゃんにも見せるべきだろう。

今日はもう夜なので、あの三人と会うのは明日でいいだろう。

そういやあいつら、明日もまだこっちにいるのか?


「でも宇宙人かぁ~……。なんか夢あるね」


あっちんもブランコを降り、そして俺の手を掴んだ。


「んぁっ」


「ほらほら、こっちこっち」


あっちんは俺の手を無理矢理引っ張ってグランドの真ん中へと誘う。

やがてそのど真ん中で立ち止まったあっちんは、両手を目一杯広げ、遙か天空を見上げた。

俺もそれにつられて空を見上げる。


「ひっろいよね~。見てよこの星の数」


今日の夜空は、本当に多くの星達が煌めいていた。

溢れんばかりの星の数は、とても数え切れそうにない。


「宇宙ってさ、こんなに沢山の星があるんだよ。あの光る星のどれもが地球よりおっきいものばっかりだし」


地球は宇宙から見れば小さな星である。

宇宙には想像も出来ない程の大きさの星が数え切れないくらいあるのだ。

例えば太陽。地上から見た太陽は燦々と輝く一つの恒星である。

俺たちは太陽を毎日のように見ているが、それがどれほど大きいものかなどとは特に考えないだろう。

だが実際にそのサイズは、地球の約110倍という、想像も出来ない程巨大な天体なのだ。

太陽系と言われる、太陽を中心とした惑星群。

俺たちはその中で、太陽の周りをグルグルと回り続けている。

どうしてこの地球に俺たち人間が生まれたのか、どうしてこういうバランスになったのか。

宇宙とは、星とは、人間とは、生命とは、それがどうやって始まったのかも、俺たちは知らないのだ。


「こんなにおっきな宇宙があるんなら、宇宙人だっていてもおかしくないよ」


宇宙は広い。そして人間はその宇宙の僅か一部しか知らない。

そして人々は宇宙に関して何も知らずに生きいく。

多分、これから先もずっと。


未知。

未知であるからこそ、それは無限。

まだ何も描かれていないスケッチブックと同じ。

そこに宇宙人という絵を描いても、嘘であるとは言い切れないのだ。

そう、十年前、あの夏、あのコゲ山のプチクレーターにいた少女、あの子が宇宙人じゃないとは言い切れない。

もしかしたらこの宇宙のどこかには、地球と同じような環境の星があり、地球人と同じような形をした知的生命体が存在しているかもしれない。

あの子がそういう存在だというのもあり得る話だ。


「いつか行ってみたいなって、子供の頃はずっとそう思ってたんだぁ。宇宙には夢が溢れてるよ~」


今日の吸い込まれそうな程綺麗な空は、俺の中に溜まった世間の汚れを洗い流してくれるかのようだ。


「それには同意しよう」


夢が溢れてる、まさにあっちんの言う通り。

俺は宇宙が好きだ。人より多くの知識を持っているのもその影響である。

子供の頃はいつか行ってみたいと思い描いていた宇宙だが、俺が生きている間には行けそうもない。


「いや……待てよ……」


十年前、あの場所で遭遇した宇宙人と思われる少女。

あの卵形の奴が宇宙船だとするなら、俺はあれに乗ったりしなかったのか?

宇宙船ならあれに乗れば、夢の宇宙遊泳も可能だろう。

もしかしたら俺は、既に十年前に宇宙を体験しているんじゃないだろうか。


「ん?どうしたのりょーちん?」


「いや、なんでもない」


そしたら俺はやっぱりかなり稀有な存在と言えよう。

そもそも宇宙人とコンタクトをとった人なんて、地球上に存在するかもわからんしな。

外国ではそっち系の話がちょくちょく持ち上がるが、信憑性は怪しいものばかり。

ただの悪戯か、国家規模の隠蔽があるのか、それを確かめる術はない。

特にエリア51では、宇宙人とコンタクトをとっているという噂があるが、本当のところは関係者しか知らないわけで。

もしかしたらそれは単なる噂に過ぎず、本当は軍事開発施設なのかもしれない。

もしも今まで囁かれているそれらがすべて宇宙人とは無関係のものだったのなら、俺は地上で始めて宇宙人と出会った人間……という称号を入手出来るわけだ!

歴史に名が刻まれ、以降の学校の教科書に偉人として名前が載る!

これで一躍時の人。報道陣が家に押し掛ける日も近いな。

コンビニで務めてたら、人が押し寄せて大変な事になってしまう。


いやぁ、有名人は大変だよ本当に。


「あっちん!」


「は、はい!」


俺が気合いを入れてあっちんの名前を呼べば、彼女はその事に驚いたようで体をビクンと震わせた。

だが俺はそんな事に構わず続ける。


「俺にサインを貰うなら今の内だぞ!」


「え……えーっと……」


「すぐにわかる日が来るはずだ」


「……?」


ハテナ顔で首を傾げるあっちん。


「行くぞあっちん!チャリンコで村内一周の旅だ!」


「イェーイ!」


妙にテンションが上がった俺は、高々とそう宣言してみるが、走り出して2分で力尽きた。












日が明け、俺は仲間達に召集をかけた。

無論、十年前の夏にまつわるエトセトラな事を話し合う為だ。


「ん~~りょーーちーーん!!」


「わ!な、なんだ!」


本日も衰えぬ炎天下の中、ノブちゃんが俺に向かって猛ダッシュで突っ込んでくる。

両手を大きく広げ、まるでハグを求めているような姿が迫ってくる。

さらに、唇を尖らせてキスをねだるその表情には顔面蒼白、体中を悪寒が駆け巡った。


「愛してるぜ~~!」


脳裏をよぎるは、極限の危機感。


……こ、これはマズい……。


この攻撃は、一人の人間の命を奪いかねない猛毒。

肉体ではなく、精神を侵す絶対致死の猛毒だ!


ノブちゃんの攻撃の間合いに入る寸前、俺は華麗な飛び込み前転を決める。

間一髪スレスレで回避成功。

そしてノブちゃんは俺の背後にいたタカピーに熱い抱擁と、熱い接吻をプレゼント。


「ぐわぁぁあああああ!やめろ……やめろぉっ!」


仮面ライダー一号に改造される時のような断末魔の叫びを上げたタカピー。

タカピー、お前の墓は日当たりのいい丘の上に作ろう。

お前の死を無駄にはしない……。


「あははっ、朝から熱いね、ノブちゃんは」


ヒゲナシ君ことゆっちは、こんなクソ暑い中でも汗一つかかずに涼しげな顔。


「あっづい……溶けちゃう……アタシ……溶けて無くなっちゃうよぅ……」


反対にあっちんはあまりの暑さに、またしても渋いおっさんの顔になっている。

ノブちゃんとタカピーの熱いラブシーンにも反応を見せない程だ。


「でもすっごくいい天気。洗濯物がよく乾きそう」


主婦であるしーちゃんは、主婦に似合う素朴な発言をする。

どうやらみんな元気のようで何よりだ。

全員集合した事を確認すると俺は高々と声を張り上げる。


「諸君、本日集まってもらったのは、もちろん重要な話があったからだ」


「あっづい……ひぬ~……ひんらう~……」


「タカピー……今夜は熱い夜を過ごそう……寝かさないぜ!」


「た……頼む……誰か……助けてくれ……」


「えぇい!うるさい!俺は今、世界の命運がかかった重大な話をしているんだぞ!」


世界の命運と言うよりは、俺の名が世界中に轟くか否かの瀬戸際なのだ。


「ねぇねぇりょーちん……川行こーよ!暑すぎ!」


こいつらは俺の話を聞く気はないようだ。

あっちんは既に太陽の放射熱に焼かれて死にかけている。

ちなみに言うと、俺はまだミディアムレアといった具合だ。

さっき食べたアイスが俺を辛うじて生き長らえさせている。


「あ、いいね川。あそこなら涼しいだろうし」


川遊びはもう飽きるくらい経験済みである。

海のないこの北嵩部、代わりとなるのは川くらいしかないのだ。


「むむ……まぁいい。それじゃあ話は川でする事にしよう。もちろん川遊びにに興じるわけじゃないからな」


暑さにやられているのは誰でも一緒。

さすがにこの暑さでは昨日同様に、いずれはウエルダンってとこだ。

川へ行く事に誰も異論はないようなので、俺はみんなの後をついて仕方なく川へ向かう。

そして俺の隣にやってきた女性が一人。


「ねぇ龍太君。あのさ、この前貴史君が言ってたよね。ノブ君が救急車で運ばれたって話」


しーちゃんがその話を切り出してきた瞬間に、彼女が何を言おうとしているのか、鋭い感性を持つ俺はすべて悟ってしまう。


ふ、我ながら怖い能力だ。


「思い出した、しかもかなり鮮明に、そうだろ?」

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