夕焼けのリフレイン3
木の陰からこっそりと覗いた俺は、それを目の当たりにして度肝を抜かれた。
そこにあったのは、『水滴を横倒しにしたような形のカプセルのようなもの』。
大きさは、このプチクレーターの円の半分くらいを占めるサイズ。
向けた懐中電灯の明かりでは、正確にはよくわからないが、その物体が淡い光を放っているのはわかる。
暗闇の中にひっそりと佇むそれは、さっきからずっと小さな音を鳴らし続けていた。
どうやら聞こえていた音の発信源は『それ』のようだ。
だが何よりも圧巻だったのは、現在その物体がどういう状態にあるのかというところ。
俺は何度も光を当て、その物体を確認してみるが、何度見てもその様子が変わる事はない。
「う、浮いてる……」
俺の見間違いではない。その物体は浮遊していたのだ。
地面から1メートル程の高さの位置で、空間に固定されているかのように微動だにしない。
それまでの俺の人生の中で、浮遊すると知っている物は限られている。
飛行機、動物、虫、だがそのどれもが翼を持っていて『飛ぶ』事が出来るのだ。
ただ、俺の前に姿を現したその物体に翼はなく、そして『飛んでいる』わけでなく、『浮いている』のである。
木の陰に隠れていた俺だったが、自分の想像を超えた物体に、気付けば足を進めていたい。
なんなんだこれ……なんで浮いてんだ?そもそもなんでここにあるんだ?もしかして、こいつが隕石の正体?
疑問符が一気に頭の中を埋め尽くし、その物体に対する解を求めてみても、まともな答えが浮かび上がらない。
ただ、俺はここに流れ星が落ちるのを目撃した。
もし、もしもあの流れ星の正体がこの物体だったとしたら……。
「……宇宙から来たってのか……こいつが……」
当時はさほど知識を持っていたわけじゃないが、俺が見つけたそれは、もしかしたら人類の歴史に大きな一歩を刻む大発見かもしれない。
その頃の俺でもそれくらいは理解できた。
「よし……よし!ついに俺の名が世界に知られる時が来たのか!って事は明日はマスコミが俺んちに押し掛けて来ちゃうなぁ!困っちゃうなぁ!」
俺は浮かれた。
明日、俺の名が世界に轟くのだ。
「明日は朝一からバッチリ髪型をセットして、いつ会見が開かれてもいいようにしとかなくちゃな。まったく……有名人は大変だぜ」
プシュゥゥゥウ……
「ん?」
空気が抜けるような音。目の前の卵を横倒しにしたような浮遊物体にライトを向ければ、その物体の一部から白いガスのようなものが噴き出しているのが見える。
しまった!毒ガスか!
もしもの時の為に鼻と口を押さえ、物体から少し距離をとる。
やがてその白いガスは辺りを白く染め、謎の浮遊物体そのものを覆い隠してしまう。
しばらくその様子を見ていると、次第にそのガスは風に流され消えていった。
「うをあっ!」
ガスが薄れていく中、俺は思わず声を上げる程驚いてしまった。
そりゃあ誰だって驚くだろう。
一人で真夜中の山奥に入って、人影を見てしまったのだから。
薄れるガスの中に人影が見える。
出た!出た出た出た出た!!マジだ!ガチだ!本物が出ちまった!幽霊だ!亡霊だ!イヤァアアアアア!
本来なら逃げ出すべき所だが、足が震えて動けない俺。
やがてガスが完全に消えていくと、俺は幽霊の姿を完全に捉えた。
月明かりの下、さっきの浮遊物体の上に立つ少女の幽霊。
空を見上げていた少女は、やがてその視線を俺の方へ向ける。
目が合った。
幽霊と目が合った。
こ、こ、これが……モノホンの幽霊の姿……?
そこにいた少女は、身体のラインがくっきりと浮かび上がる、ピチピチの服を身に纏っていた。
どこかのSF映画で出てきた未来人のような服装。
周辺は暗闇なのでしっかりとその姿を見る事は出来ないが、そのボディラインは胸に膨らみがあるので恐らくは女の子だと思われる。
月明かりに照らされた青白い肌は、透き通るように綺麗で、まるでガラス細工だ。
そして何よりその髪色。暗闇だというのに、淡い水色の蛍光色を放っていた。
あれ……なんか想像してた幽霊と違う……
いくら幽霊と言えど、髪の毛が蛍光色だなんて聞いた事はない。
それに加えて俺の前に現れた少女の幽霊は、とても綺麗だし、身体もいくらか未発達ながらスレンダーボディだ。
そして少女と見つめ合う事約十秒、少女の口が開いた。
ヤバイ!きっと想像を絶する呻き声を上げて俺に襲いかかってくるに違いない!逃げろ俺!動け足!
酷く焦った俺だが、意志とは無関係に足は動かない。
くそ……これまでか……俺の人生……ここで終わりなのか……
その瞬間に不思議と恐怖は消えて、とても安らかな気持ちになった。
死を覚悟した時、人はこんなにも高揚感に包まれるのか、とカッコイイ言葉が頭の中を巡っていく。
さぁ……喰らうがいい!この肉体も魂もすべてお前にくれてやる!
俺はその時、雲のジュウザになった。
そして俺にまたしても衝撃が走ったのは、その直後の事だった。
「おはようございます」
「………………へ?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます